冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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二章

夢心

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ご主人様(バカ)におんぶされ、何だかフワフワ夢心地。本当に気持ち良くて……むにゃむにゃ……。いつの間にか、寝てしまった。


ちょい昔の夢を見たんだよね。


【憎い雨が降り続いているーーー】

傘もささずに立っている私と卯月。

頭や手足がセパレートした元殺し屋が、私達を色のない目、無言で盛り上げる。


『どうしたのぉ? そろそろ再開しないと朝になっちゃうよ~』

足先で死体の頭をこねくり回す長髪お化け、卯月。

『ーーーねぇ。あんたは、今まで何人殺した?』

『ん~~……。まぁ……百や二百じゃないことは確かかなぁ。天魔も同じくらい殺してるでしょ?  でも私ね、もうすぐ殺し屋を辞めるの。面白そうな、気になる子がいてね。その子の側にいたいから』

『…………簡単に辞められるわけないだろ? あの人が、そんな勝手を許すわけない』

『うん!  知ってる。だから、アナタ達が裏切り者の私を殺しに来たんだもんね。でもさぁ、もう残ってる殺し屋は、アナタ一人だけ』

『なぁ……卯月。今からさ、五分だけでいいから私の攻撃を耐えてくれ。頼むから、死なないで。………五分後、もしお前がまだ生きてたら、その時は、私も一緒に連れて行ってほしい』

『分かった。いいよ。アナタは、私の一番のお気に入り玩具だから』

雨音が掻き消され、辺りが静寂に支配される。

『アナタの本気……。鬼畜レベルだからなぁ。靴脱いで、裸足になっても良い?  私も本気にならないと、十秒で肉塊にされちゃうし』

鉄臭い雨が、私達の周りを流れていく。

どこまでも。

どこまでもーーー。


夜明けは、まだ先ーーー。

本気になった卯月を前にして、私の中で何かが変わろうとしていた。

………………………………。
………………………。
………………。


目を開けると、まだ夜空がユラユラ揺れていた。

「…ねぇ…ワガママ…言って良い?」

「いいよ」

「………悪いんだけどさ、一緒に悪夢に付き合って。一人だと、恐くて………だから…」

「分かった。ずっと、お前の手を握ってるから大丈夫。安心して眠るまで側にいるから、心配するな」

「……………」

我慢が出来ず、優しいバカの首にキスをした。

「っ!?」

 「毛虫が付いてた。もう、取ったから大丈夫」

 「あっ……うん……ありがと…。いぃっ!!  何してる?」

この時間が終わらなければ良いと。

「毛虫だらけ」

アパートに永遠に着かないで欲しかった。

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