冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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二章

無題

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深夜二時。寝苦しさにイライラMAX。

「はぁ~………。うへぇ~~~」

高級タワーマンションの自宅入口前に待機させたタクシーに飛び乗り……。
ご主人様(バカ)が住む、ボロアパートに行った。勤務時間外のサービスという体で。

「るんるんる~~」

こっそり部屋に忍び込み、何も知らないで呑気に寝ているアイツを見下ろす。
ヨダレを垂らし、むにゃむにゃ爆睡している可愛い寝顔に小さな胸が、こう……ピリリッと甘く痺れた。

「……………無用心だなぁ。敵だったら、どうすんだよ………ってか、寝てる…よな?」

ゆっくり、ゆっくり。顔を近づけようとした。


その時ーーーー。

「ッ!!!」

殺気を遥かに凌駕する黒い狂気。

先が曲がったナイフで横っ腹を抉られ、ぐちゃぐちゃにミキサーした内臓を掻き出される映像が、激しい痛みを伴って頭の中に流れた。

「………ぁ……はぁ…ぁ…」

アイツを起こさないように、アパートの扉を静かに閉めた。冷や汗だらだらの私の前に、可愛い猫パジャマ姿のお嬢が裸足で立っていた。

「タマちゃんに手を出したら、嬲り殺すから」

「やってみろ……。弱っちいお前に私が殺れるわけないだろ!」

無言で一歩一歩近づく白い女。
額から流れる止まらない汗。全身を襲う悪寒。吐き気。
私が知っている普段のお嬢とは、まるで別物。醜く変異した化け物のイメージが、次から次へと脳を襲い、全身を犯しまくる。

「………まだ…」

「前に彼に言われたでしょ?  知らない方が幸せな事もあるんだよ。私が与えたメイドの領分を越えたら、命はないからね。天魔………分かった?」

頭を優しく撫でられながら、私は失禁した。

「チュ…くらい…許せ…よ…」

「ダ~メ。それで止まる聖女じゃないでしょ?  あなたは」

「………クソ……」

あの戦闘狂、変態の卯月がどうしてこの女に惹かれたのか何となく分かった気がした。


ーーーその夜。

私は、初めてこの世に本物の悪魔がいることを知った。

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