冷やし上手な彼女

カラスヤマ

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二章

叔母さん

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屋上は、臭気に満ちていた。死体があちこちに散らばっている。私は、未来通りに現れた人物を静かに見つめていた。

鼻唄を歌いながら、超大型ヘリコプターから降りた女性は、眩しそうに目を細め、私の姿を見つけると笑顔で手を振った。

「久しぶりぃ!!  ナナちゃん」

「はい。お久しぶりです。叔母さん」

叔母の合図で、攻撃を止めている神楽咲の兵士。ヘリの中には、手錠をされた叔父が丸まって座っていた。ひどく痩せ細っていて、気持ちが悪い。私を見て、すぐに目線をそらした。

「パパとママは、元気?」

「はい。元気です。今は、この城を離れ、別の場所にいますが………。叔母さん。私は、あなたを罰するようにパパに命じられているんです」

その言葉を聞いた瞬間、叔母の前に長身の執事がスッと現れた。それと同時に私の前に卯月が立つ。

二人とも臨戦態勢に入った。

そんなことはお構い無く、緊張の欠片もない叔母は、その執事の肩を笑いながら揉み揉み。

「あんなに小さかったナナちゃんが、しばらく見ないうちに随分と女っぽくなったなぁ。成長した~。………もう子供じゃないって分かったから、私も少しキツイこと言うけど。もし今、私に手を出すなら、ナナちゃんもそれ相応の代償を払ってもらうよ。それでもいい?」

叔母が手をあげると、倒れて死んだはずの神華のメイドや執事。神楽咲の兵隊蟻が、ゾンビのようにビクビクと動き出した。

「代償?  すでにこんなに城をめちゃくちゃにしといて……。相変わらず、自分勝手ですね……。それに、ソレも気持ちが悪い。ママが前に言ってました。あなたは、小細工が過ぎるって。結論から言いますけど、私は今からあなたを殺そうと考えています」

「ふ~ん………そっかぁ……。でもいいのかなぁ?  そんなことしたら、ナナちゃんの大好きなダーリンが死ぬほど苦しむことになるけど」

「はぁ?  意味が分からない。彼には、天魔が付いてる。そう簡単に殺れるわけない。実際、あなたが仕向けた刺客も消したし。何人送っても結果は一緒だよ」

「ナナちゃんさぁ、ちゃんと人の話聞いてる?  私は、彼を殺すなんて言ってないよ。『死ぬほど苦しませる』だけ。   私は、姉さん達と違って元々暴力は嫌いなんだよ。銃でバンバンしたりさぁ。危ないナイフでザクザクとか………。うんざりだよ。綺麗なお洋服も汚れるしね。昔から私が好きなのは、死体遊びだけ。知ってるでしょ?  忘れちゃった?   私ね。最近、新しい玩具を手に入れたの。これ見たら、ビックリすると思うな~」

ククッ……と笑った叔母が指を鳴らすと、ヘリから一人の男が降りた。その姿は。

それはーーー。

死んだはずの彼の父親だった。

「子猫並に心が弱い彼がさぁ、コレ見たら、どうなっちゃうかなぁ?  今からすっごく楽しみ!  ちなみに、私が死んだら、この父親のクローンが大量に彼のもとにプレゼントされることになってるから」

「そんなこと絶対にさせない」

「………ふ~ん」

しばしの静寂の後、欠伸をした叔母は、目を擦りながら、再びヘリに飛び乗った。

「今日は、可愛い姪の姿が見れただけでも良しとしよう! うんうん。 パパやママにも宜しくね。次はその首、狩るって伝えといて」

遠ざかるヘリの音。
何も出来なかった自分が許せなくて、フラフラしながら、落ちていたナイフを拾い、自分の左手を刺そうとした。

「お嬢様。自棄になってはいけません」

ナイフを握った卯月。
私は、一度空を見上げ、唇を噛んで両目を閉じた。

「うん……。そうだね。よしっ!  とりあえず、タマちゃんのとこに合流しよう。そして、いっぱい、ぎゅっ~てするの」

呆れたような卯月。何も言わないで、頭を撫でてくれた。
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