2500マイルの憧れ

もっくん

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始まりはピリ辛スープと怪しいテーマパーク

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夏だった。
僕はタイ、ラオス、そしてベトナムを巡る一週間の旅に出た。

旅の最終地に選んだのはホーチミンシティ。 現地の人は主にサイゴンと呼ぶ。
「ノープランでぶらぶらしよう」なんて軽い気持ちだった。
ラオスからホーチミンへ到着したその日。 僕はホテルに荷物を置き、市街地で夕飯を探していた。

観光客で賑わうエリアには、ネオンの灯りが輝くレストランが立ち並んでいる。 その中で、ひときわ目を引いたのが赤いアオザイをまとった女性店員がやたらとたくさんいる店だった。
「雰囲気、いいな」
吸い寄せられるように、その店に入った。

注文したのは「ブン・ボー・フエ」だった。 ピリ辛のスープと、牛肉の旨味が広がる一杯。 「フォー」とはまた違った太めの米麺「ブン」が、心地よい食感を与えてくれる。
箸を止め、ふと考えた。
「明日はどうしようか」

旅の疲れと、自由すぎる時間のせいで、頭が少しぼんやりしていた。 そんな中、スマホの写真フォルダに保存していた「スイティエン公園」の名前が目に入った。
ネットで見かけたそのテーマパークは、なんとも怪しい雰囲気だった。
巨大な黄金の仏像やドラゴンの彫刻、妙に巨大な人工ビーチがあるらしい。
ベトナムや東南アジアの伝説、どこかで見たような無関係なファンタジーをごちゃ混ぜにした奇妙なオブジェ。
ワニ釣りという謎のアトラクション。
観覧車やジェットコースターにお化け屋敷もあるらしく昭和の遊園地みたいな風情。
行き当たりばったりの旅だ。意味など見いだす必要は無い。

「よし、行ってみるか」

しかし問題があった。
情報が少なすぎて、行き方がさっぱりわからない。 どうするべきか迷った末、ちょっと店員に聞いてみることにした。
旅の恥はかきすてというほど大きなことでもないが、1週間の旅で僕の日本でのキャラ設定などとうに忘れていた。
最初に声を掛けたのは40代くらいの太ましい女性店員だった。 スマホの画面を見せながら片言の英語で説明した。 だが、彼女は眉をひそめて首をかしげるばかり。
「チョット待ってて」

奥から現れたのは、赤いアオザイを着た若い女性だった。
小柄で、柔らかな微笑みを浮かべていた。
髪は艶やかな黒髪をお団子にまとめている。 目が大きく、どこか少女のような無邪気さを感じた。
かわいい。
彼女は僕のスマホ画面をじっと見つめる。 そして、小さく「うーん」と唸ると、店の外にいる清掃員のおじさんに声を掛けた。

しばらくして戻ってくると、手には一枚の紙。
そこには愛らしい手書きの地図が描かれていた。
「ここからバスで行けますよ」
目印や乗り換えの場所が丁寧に書き込まれている。筆跡も子供っぽくてかわいい。
「ありがとうございます」
言葉にできないくらいの感謝を込めて、僕は追加で料理とビールを注文した。

その間も、ふと気が付くと彼女を目で追っている自分がいた。
彼女は身長150センチほどの小柄な体型。 アオザイがその体のラインを優美に強調している。
華奢ではあるがバストやヒップがキュッと出ていて足が真っ直ぐなので、小柄な日本人よりモデルっぽいな、なんて酔いに身を任せて思った。

店内を忙しそうに行き交う姿に、僕は不思議と心が癒されていくのを感じていた。
「こんな一期一会も、旅の醍醐味なのかもしれないな」
胸の中に、小さな灯りがともった気がした。
日本で失ったものが、少しずつ取り戻されていくようだった。
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