4 / 6
不器用な二人と偽りの花火
しおりを挟む
もう夏になっていた。
ナナは浴衣の帯を結び直しながら、鏡越しに自分の姿をじっと見つめた。薄い紫地に小さな花模様の浴衣は、母親が学生時代に着ていたものを譲り受けたものだった。前に来たのは中学生のころだったかもしれない。
久しぶりに袖を通したそれに、どこか自分でも気恥ずかしさを覚える。
(ハジメくんならどうやって反応するかな…?)
そんな思いを胸に秘めながら、ナナは花火大会の待ち合わせ場所へと向かった。
翔太から連絡が来てハジメ、ナナ、翔太の3人で花火大会に行こうと急に誘われたのだ。
しかし、翔太からのメッセージが届いたのはその道中だった。
「ごめん、なんかハジメ急用だってさ。今日は俺たちだけで行こう!」
スマホを握りしめたナナは足を止めた。ハジメが来ない。寂しいような、複雑な感情が胸の中を巡る。
(本当に急用?…私と行くの、嫌だったのかな?)
そんな不安が心に浮かびつつも、直接確認する勇気は持てなかった。
(せっかく浴衣着たのに私ってなんかハジメくんに振り回されてる?)
見当違いの不満も一瞬ハジメに向いた。
ナナもまたハジメと仲良くなり始めた頃からそれを大きく捉えることに戸惑いを感じていた。
いままでそんなに男子と二人きりで過ごしたことはない。同級生は付き合って無くても普通に二人で遊んでるし、変に好意を見せすぎるとハジメくんに迷惑かかるかも。
そもそもハジメくんが恋愛にどれだけ興味があるのかもわからないし。
だって最初のファミレスの時からずっとそれ以上を求めてこないし。
待ち合わせ場所に現れた翔太は、カジュアルな浴衣姿だった。軽快な笑顔で手を振る姿を見て、ナナは無理に気持ちを切り替えようと微笑み返した。
「おお浴衣、似合ってるじゃん!」
「ありがとうございます。でも、やっぱりハジメくんがいないのはちょっと…」
ナナが少し遠慮がちに言うと、翔太は軽く肩をすくめた。「あいつ、本当に間が悪いよな。まぁ、俺がいるし、安心して楽しんでよ!」
翔太は軽口を叩きながらナナを出店に誘った。金魚すくい、かき氷、射的。翔太が陽気に楽しむ一方で、ナナの心はどこか浮ついていた。(ハジメくんがいないのにこんなことしていいのかな。)そんな思いが胸の奥にこびりついていた。
花火が始まった。大きな音と共に夜空を彩る光のショーが、二人の間に一瞬の沈黙を作り出す。
「ねぇ、ナナちゃんってさ、ハジメのことどう思ってるの?」
翔太の突然の質問に、ナナは目を見開いた。
「どうって…友達ですよ?」
「ふーん。なんか、あいつって頼りないよな。こういうときも、せっかくのチャンス逃すとかさ。」
ナナはその言葉に少しムッとしながらも、言い返すことができなかった。
「そうかもしれないですね…彼、ちょっと物足りないところがある、というか…」
心にもないことを口にしてしまった自分に、すぐ後悔の念が湧き上がる。
そのとき、ナナのスマホが振動した。ハジメからのメッセージだった。
「古いけど面白い映画みつけたw今度見てみて!」
(え、ドタキャンのお詫びの一言もなしにそれ…)
画面を見つめるナナの困惑した表情を見た翔太が、「何かあった?」と尋ねる。
「えっと…ハジメくんからメッセージが…」とナナが言いかけると、翔太は笑顔を崩さず、「あいつ気が利かねぇよな。まぁいいじゃん、せっかくの夜なんだし!」と話題をそらした。
ナナの中に違和感が芽生えたが、今は深く考えることよりも翔太の軽いノリに飲まれているほうが楽に感じた。
花火大会の帰り道。翔太はふと立ち止まり、「ねえねえ、せっかくだからこの後もどっか行かない?」と提案した。
「え?どこかって…」
「まぁ、ホテルとか?」翔太は軽いノリで言ってのけた。
ナナは驚きと戸惑いで声を詰まらせた。「そ、そういうのはちょっと…」
「なんだよ、さっきハジメのこと物足りないとか言ってただろ?あいつはナナちゃんみたいな人にはもったいないって。俺だったらもっと大事にするのに。」
語気を荒げた翔太の言葉に、ナナは目を伏せた。ハジメのことが頭をよぎったが、「最初から自分がそこまで思われているはずがない」と無意識に自分を責めてしまう。
翔太の強引な言葉に押し切られる形で、はっきり断れないままナナと翔太はホテルの前まで来てしまっていた。心の中で何度も「違う、こんなのダメだ」と叫びながらも、二人はもうホテルの入り口の前に立ち止まっていた。
翌朝、
翔太とナナは無言のまま別れた。
花火大会は昨夜だったのにナナはしわくちゃの浴衣で始発列車に乗っている。
電車の窓越しに朝焼けが見えていた。
(これくらいのことは同級生はみんなしてるんだし…)心の中に何とも言えない重さを感じながら、自宅のドアを開けた。その後、彼女はスマホの画面を改めて見つめたまま重苦しい感情に押しつぶされていた。
夜更けになるまで無邪気に映画を紹介するハジメの他愛のないメッセージが並んでいた。「今から見る?リンク送るよ。」の送信時刻は花火大会の真っ最中だ。
「ごめんもしかして寝てる?興味ない映画の話しちゃってごめんね。」の送信時刻はナナが翔太に初めてを捧げていたまさにその時間帯だった。
ハジメはそもそも花火大会なんて誘われてもいなかった。
翔太は最初からハジメをダシに使ってナナを誘い出し、当日は二人きりで花火大会を楽しみ、ちょっといい雰囲気を醸し出して強引にそのまま最後まで押し切った、というわけである。
翔太と過ごしたその夜のことは、ナナの胸に深く残る傷跡となった。
ナナは浴衣の帯を結び直しながら、鏡越しに自分の姿をじっと見つめた。薄い紫地に小さな花模様の浴衣は、母親が学生時代に着ていたものを譲り受けたものだった。前に来たのは中学生のころだったかもしれない。
久しぶりに袖を通したそれに、どこか自分でも気恥ずかしさを覚える。
(ハジメくんならどうやって反応するかな…?)
そんな思いを胸に秘めながら、ナナは花火大会の待ち合わせ場所へと向かった。
翔太から連絡が来てハジメ、ナナ、翔太の3人で花火大会に行こうと急に誘われたのだ。
しかし、翔太からのメッセージが届いたのはその道中だった。
「ごめん、なんかハジメ急用だってさ。今日は俺たちだけで行こう!」
スマホを握りしめたナナは足を止めた。ハジメが来ない。寂しいような、複雑な感情が胸の中を巡る。
(本当に急用?…私と行くの、嫌だったのかな?)
そんな不安が心に浮かびつつも、直接確認する勇気は持てなかった。
(せっかく浴衣着たのに私ってなんかハジメくんに振り回されてる?)
見当違いの不満も一瞬ハジメに向いた。
ナナもまたハジメと仲良くなり始めた頃からそれを大きく捉えることに戸惑いを感じていた。
いままでそんなに男子と二人きりで過ごしたことはない。同級生は付き合って無くても普通に二人で遊んでるし、変に好意を見せすぎるとハジメくんに迷惑かかるかも。
そもそもハジメくんが恋愛にどれだけ興味があるのかもわからないし。
だって最初のファミレスの時からずっとそれ以上を求めてこないし。
待ち合わせ場所に現れた翔太は、カジュアルな浴衣姿だった。軽快な笑顔で手を振る姿を見て、ナナは無理に気持ちを切り替えようと微笑み返した。
「おお浴衣、似合ってるじゃん!」
「ありがとうございます。でも、やっぱりハジメくんがいないのはちょっと…」
ナナが少し遠慮がちに言うと、翔太は軽く肩をすくめた。「あいつ、本当に間が悪いよな。まぁ、俺がいるし、安心して楽しんでよ!」
翔太は軽口を叩きながらナナを出店に誘った。金魚すくい、かき氷、射的。翔太が陽気に楽しむ一方で、ナナの心はどこか浮ついていた。(ハジメくんがいないのにこんなことしていいのかな。)そんな思いが胸の奥にこびりついていた。
花火が始まった。大きな音と共に夜空を彩る光のショーが、二人の間に一瞬の沈黙を作り出す。
「ねぇ、ナナちゃんってさ、ハジメのことどう思ってるの?」
翔太の突然の質問に、ナナは目を見開いた。
「どうって…友達ですよ?」
「ふーん。なんか、あいつって頼りないよな。こういうときも、せっかくのチャンス逃すとかさ。」
ナナはその言葉に少しムッとしながらも、言い返すことができなかった。
「そうかもしれないですね…彼、ちょっと物足りないところがある、というか…」
心にもないことを口にしてしまった自分に、すぐ後悔の念が湧き上がる。
そのとき、ナナのスマホが振動した。ハジメからのメッセージだった。
「古いけど面白い映画みつけたw今度見てみて!」
(え、ドタキャンのお詫びの一言もなしにそれ…)
画面を見つめるナナの困惑した表情を見た翔太が、「何かあった?」と尋ねる。
「えっと…ハジメくんからメッセージが…」とナナが言いかけると、翔太は笑顔を崩さず、「あいつ気が利かねぇよな。まぁいいじゃん、せっかくの夜なんだし!」と話題をそらした。
ナナの中に違和感が芽生えたが、今は深く考えることよりも翔太の軽いノリに飲まれているほうが楽に感じた。
花火大会の帰り道。翔太はふと立ち止まり、「ねえねえ、せっかくだからこの後もどっか行かない?」と提案した。
「え?どこかって…」
「まぁ、ホテルとか?」翔太は軽いノリで言ってのけた。
ナナは驚きと戸惑いで声を詰まらせた。「そ、そういうのはちょっと…」
「なんだよ、さっきハジメのこと物足りないとか言ってただろ?あいつはナナちゃんみたいな人にはもったいないって。俺だったらもっと大事にするのに。」
語気を荒げた翔太の言葉に、ナナは目を伏せた。ハジメのことが頭をよぎったが、「最初から自分がそこまで思われているはずがない」と無意識に自分を責めてしまう。
翔太の強引な言葉に押し切られる形で、はっきり断れないままナナと翔太はホテルの前まで来てしまっていた。心の中で何度も「違う、こんなのダメだ」と叫びながらも、二人はもうホテルの入り口の前に立ち止まっていた。
翌朝、
翔太とナナは無言のまま別れた。
花火大会は昨夜だったのにナナはしわくちゃの浴衣で始発列車に乗っている。
電車の窓越しに朝焼けが見えていた。
(これくらいのことは同級生はみんなしてるんだし…)心の中に何とも言えない重さを感じながら、自宅のドアを開けた。その後、彼女はスマホの画面を改めて見つめたまま重苦しい感情に押しつぶされていた。
夜更けになるまで無邪気に映画を紹介するハジメの他愛のないメッセージが並んでいた。「今から見る?リンク送るよ。」の送信時刻は花火大会の真っ最中だ。
「ごめんもしかして寝てる?興味ない映画の話しちゃってごめんね。」の送信時刻はナナが翔太に初めてを捧げていたまさにその時間帯だった。
ハジメはそもそも花火大会なんて誘われてもいなかった。
翔太は最初からハジメをダシに使ってナナを誘い出し、当日は二人きりで花火大会を楽しみ、ちょっといい雰囲気を醸し出して強引にそのまま最後まで押し切った、というわけである。
翔太と過ごしたその夜のことは、ナナの胸に深く残る傷跡となった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
