7 / 17
第一章
01.パルシェフィード国(1)
しおりを挟む
※注意※
今回、幼い子どもが不遇な目に遭ったり、虐めを連想したりするような表現があります。
これらの行為を推奨する意図はありません。
苦手な方は、この話を読むのをお控えください。
~*~*~*~*~*~
――それは遠い、遠い昔のことでした。
この国がまだ名も無き小さな集落であった頃、突如現れた『悪魔』と呼ばれる異界の魔物たちによって、人々は心を惑わされ、狂わされ、時には命を奪い合うような、凄惨な事件が多発するようになりました。
恋人や伴侶が突然違う人を愛するようになったために捨てられたり、親しい友人から理不尽な理由で憎まれるようになったりするなど、人間関係が破綻する者が相次ぎました。
また、真面目で勤勉であった者が突然怠惰で堕落した生活を送るようになり、禁欲的であった者が突然淫らな振る舞いをするようになる、という事も度々ありました。
こうして老若男女問わず、人々の関係や生活に様々な変化が起こった事によって、集落全体が混乱に陥っていました。
その原因は、悪魔が人々の心の隙間に棲みつき、誰もが心の奥底に閉じ込めている隠れた欲望を引きずり出し、より強く、より醜悪なものへと変化させてしまったからです。
不安、恐怖、悲しみ、憎しみ、妬み、羨望――悪魔は人間の様々な負の感情や小さな灯火のようなささやかな欲望を探り当て、より強く大きく燃え上がらせていきました。
悪魔に心を惑わされ、自身の望むまま他者のものを強奪する者や自身の思い通りにならないからと相手を殺してしまう者などが増えた所為で、集落の中は常に殺伐としていました。
この時代には、貴族や平民といった身分格差はありませんでしたが、それぞれの生活水準には差がありました。
生活に余裕が無く育てられないからと捨てられる子、民同士の諍いや突然の病などによって親を亡くす子、親や家族と反りが合わず家出する子など、住む場所の無い子どもたちは皆、集落の中心部に建つ小さな教会に集められ、皆で協力し合いながら慎ましく暮らしていました。
この教会では、フローラという名の女神が祀られており、子どもたちは毎日、礼拝堂の神像に祈りを捧げる事が日課として定められていました。
中には神を信じない子どもも多く、祈りを疎かにし、真摯に祈りを捧げる子を侮蔑し、酷く罵倒する事もありました。
そんな心無い攻撃に耐えかね、一人、また一人と脱落していく中、理不尽な暴力にも屈する事無く、毎日熱心に祈りを捧げる少女がいました。
生まれてすぐ親に捨てられた少女は、自分や他の子どもたちが、親がいなくとも毎日無事に生きていられるのは、女神フローラが見守ってくれているからだと考え、感謝の意を伝えるべく日に何度も祈りを捧げるような、敬虔で信心深い子どもでした。
ある時、少女は同じ教会で暮らす子どもたちが、連鎖するように攻撃的になっていく姿を見て、集落の民たちと同様に心の中に悪魔を棲みつかせていると考えました。
その日から少女は、皆の心から悪魔を追い出し救いたいと強く願うようになり、礼拝堂で祈る時間もそれまでよりもずっと長くなりました。
『私には美味しい食事も綺麗な服も無くて良いです。お金も要りません。だから、どうか皆の心から悪魔が出ていって、以前のように優しい皆が帰ってきますように。皆が仲良く幸せに暮らす日々が戻ってきますように……』
たった一人になっても毎日欠かさず祈りを捧げ続ける少女の事を、面白くないと感じている周囲の子どもたちから、蹴られたり詰られたりする事が増えていきましたが、少女は祈る事をやめませんでした。
~*~*~*~*~*~
※注意※
次話も幼い子どもが不遇な目に遭ったり、虐めを連想したりするような表現が出てくるため、重ねて言います。
作者及び当作品には、虐めや暴力等を推奨する意図はありません。
現実と創作を混同することが無いようお願いいたします。
今回、幼い子どもが不遇な目に遭ったり、虐めを連想したりするような表現があります。
これらの行為を推奨する意図はありません。
苦手な方は、この話を読むのをお控えください。
~*~*~*~*~*~
――それは遠い、遠い昔のことでした。
この国がまだ名も無き小さな集落であった頃、突如現れた『悪魔』と呼ばれる異界の魔物たちによって、人々は心を惑わされ、狂わされ、時には命を奪い合うような、凄惨な事件が多発するようになりました。
恋人や伴侶が突然違う人を愛するようになったために捨てられたり、親しい友人から理不尽な理由で憎まれるようになったりするなど、人間関係が破綻する者が相次ぎました。
また、真面目で勤勉であった者が突然怠惰で堕落した生活を送るようになり、禁欲的であった者が突然淫らな振る舞いをするようになる、という事も度々ありました。
こうして老若男女問わず、人々の関係や生活に様々な変化が起こった事によって、集落全体が混乱に陥っていました。
その原因は、悪魔が人々の心の隙間に棲みつき、誰もが心の奥底に閉じ込めている隠れた欲望を引きずり出し、より強く、より醜悪なものへと変化させてしまったからです。
不安、恐怖、悲しみ、憎しみ、妬み、羨望――悪魔は人間の様々な負の感情や小さな灯火のようなささやかな欲望を探り当て、より強く大きく燃え上がらせていきました。
悪魔に心を惑わされ、自身の望むまま他者のものを強奪する者や自身の思い通りにならないからと相手を殺してしまう者などが増えた所為で、集落の中は常に殺伐としていました。
この時代には、貴族や平民といった身分格差はありませんでしたが、それぞれの生活水準には差がありました。
生活に余裕が無く育てられないからと捨てられる子、民同士の諍いや突然の病などによって親を亡くす子、親や家族と反りが合わず家出する子など、住む場所の無い子どもたちは皆、集落の中心部に建つ小さな教会に集められ、皆で協力し合いながら慎ましく暮らしていました。
この教会では、フローラという名の女神が祀られており、子どもたちは毎日、礼拝堂の神像に祈りを捧げる事が日課として定められていました。
中には神を信じない子どもも多く、祈りを疎かにし、真摯に祈りを捧げる子を侮蔑し、酷く罵倒する事もありました。
そんな心無い攻撃に耐えかね、一人、また一人と脱落していく中、理不尽な暴力にも屈する事無く、毎日熱心に祈りを捧げる少女がいました。
生まれてすぐ親に捨てられた少女は、自分や他の子どもたちが、親がいなくとも毎日無事に生きていられるのは、女神フローラが見守ってくれているからだと考え、感謝の意を伝えるべく日に何度も祈りを捧げるような、敬虔で信心深い子どもでした。
ある時、少女は同じ教会で暮らす子どもたちが、連鎖するように攻撃的になっていく姿を見て、集落の民たちと同様に心の中に悪魔を棲みつかせていると考えました。
その日から少女は、皆の心から悪魔を追い出し救いたいと強く願うようになり、礼拝堂で祈る時間もそれまでよりもずっと長くなりました。
『私には美味しい食事も綺麗な服も無くて良いです。お金も要りません。だから、どうか皆の心から悪魔が出ていって、以前のように優しい皆が帰ってきますように。皆が仲良く幸せに暮らす日々が戻ってきますように……』
たった一人になっても毎日欠かさず祈りを捧げ続ける少女の事を、面白くないと感じている周囲の子どもたちから、蹴られたり詰られたりする事が増えていきましたが、少女は祈る事をやめませんでした。
~*~*~*~*~*~
※注意※
次話も幼い子どもが不遇な目に遭ったり、虐めを連想したりするような表現が出てくるため、重ねて言います。
作者及び当作品には、虐めや暴力等を推奨する意図はありません。
現実と創作を混同することが無いようお願いいたします。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
145
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる