神様見習いと黒き魔法

瑞樹凛

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第1章〜神様になれるほど強いけど、ぐーたらな生活をしたい〜

悪寒

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《減速(スロウ)トラップが発動します》

《泥沼(クアグマイア)トラップが発動します》


「ひぃ!あ、足が早く動けない……!!」
「おい、こっちはぬかるんでるぞ!」

 ピアノは薬草を目前にしながら、ノロノロと足を動かしている。
 シオンの方は泥沼に足がはまり動けない。

 森に場所を移し、グループ試験の真っ最中だ。
 試験はトラップや小型魔獣を切り抜けながら、一定数の薬草を取ってくるというもの。

 森のところかしこに仕掛けられている魔法トラップは、私たちの行く手を阻んでいた。
 魔法トラップはどうやら、透明魔法(トランスペアレント)で隠されているらしい。

 目当ての薬草は至るところに生えているものの、その周囲にはトラップが張り巡らされていた。

 しかも、移動用魔法陣で訪れたここは、学園よりずっと北の魔獣が住む森だ。
 一筋縄ではいかない。

 2人がトラップにかかったのを見計らって、小型魔獣たちがキバを剥いた。
 小型だが肉食で人も食うこともある。

 魔獣が彼らに襲いかかろうとした瞬間ーー

『魔法白紙(マジックリセット)!』

 ジュエルが両手を出して初期化魔法を叫ぶ。

 と、同時にシオンは鎖で、ピアノは短剣で魔獣を叩き出した。
 ドサッという音が2つして、魔獣は側に倒れる。
 トラップは効力を失ったようで、地面は元に戻っていく。

「ジュエル、もうちょい早く魔法かけられねぇかな?」

 ジュエルに話しかけたのはシオンだ。

「うう、これが精一杯だよぉ……」
「そうか、まぁしゃーない。貴重なアビリティ持っているだけ感謝しないとな」
「毎回ヒヤヒヤするわね」

 薬草を採りながら3人は緊張した面持ちで話している。
 トラップ回避にはジュエルの魔法が役に立っているようだ。
 戦闘能力の高い2人を前進させて、何かあれば後ろでジュエルが援護する作戦。
 安全が確保されれば、薬草の採取に集中することになった。

 ここまで、2人がトラップにかかってはジュエルが魔法白紙(マジックリセット)し、4人で薬草を採るという流れできている。

 ジュエルが何故貴重な魔法アビリティを有しているかというと、鑑定士の家系だからだそうだ。
 代々有名な商人に雇われていて、学園入学は必須らしい。
 魔法アビリティも魔法陣を打ち消すものや、鑑定するアビリティが多いのだと作戦会議で教えてくれた。

 シオンは自衛団志望で、束縛系のアビリティを持っている。
 前の試験でチェーン魔法を使っていたので、妙にライムは納得した。
 嘘も見破られたし……。

 ピアノの方は戦闘能力があるとだけ。
 ピアノに戦闘力があるなんて、ちょっと意外だな。
 いつのまにか、ブラウンの可愛いコートは脱いで身軽な格好になっている。

 髪も1つに結っていて可愛い。
 太ももや二の腕といった素肌に描かれているのはブースト系の魔法陣だろうか。
 なんだか破廉恥だ。

 ふと、自分だけ守ってもらっていることに申し訳なさを感じる。
 みんな将来の為に、試験を受けてるんだ。
 学園に入学し卒業すれば、それなりの学力と知識があると公式に認められる。
 それはもうみんな必死だよね。

 私は……。
 魔法使えばね、どうとでもね、できるのだけれど。
 ちょっと今は無理。
 捕まるの怖いもん……。(本気で)

「私何も力になれなくて……ごめんなさい。」
「いいの、いいの。ライムちゃんはまだ小さいんだし、戦闘経験もないんでしょ? できそうな時にちょろっと魔法かけてくれればいいよ!」

 そう慰めるのはピアノだ。
 良心がとても痛みます……。

「ライムは結構無理をしそうだからな。何かあったら、すぐ言うんだぞ。有無を言わさず助けてやる」

 ああ……みんな優しい。
 
「みんな、ありがとう」

 自分のことを隠している不甲斐なさ。
 試験を手伝えない申し訳なさ。
 心にグサグサ刺さってくる……。

「ライムはさ、なんで学園に入学しようと思ったの?いや、答えたくないなら、いいんだけど」

 ジュエルがじぃーっとこちらを見ながら、聞いてきた。

 ん?
 今それ聞いちゃう?!
 断ったら怪しいし、正直に答えるか……。

「あのー、えと、お父さんに勧められて……お父さん農家なんだけど、王宮のツテで入学試験を受けられることになったの」
「王宮にツテがある農家?っていったら1つしか。もしかして……」
「えっ、嘘!ライムのお父さんって甘い果実とか育ててる?」
「うん、とっても甘くて美味しいんだよ」
「うわ!まじか!それって、」

「「アズライムさんの果樹園!!」」

 えっ、お父さん有名人だったの?!?!
 聞いたことないよ?!

「めっっちゃ甘くて美味しくて、王国区の上位貴族では果物はアズライムさんの果樹園で採れたものしか食べない人もいるって聞いたことある!」
「高級品だから、一般人は殆ど手に入らないんだよな」
「僕も一度でいいから食べてみたい……」

 そ、そうだったんだ。
 この前食べた果物もとっても甘くて美味しかったけど、そこまで有名なものだったなんて。
 日常で食べ過ぎて、わからなかった。

「こ、今度分けてもらってこようか?3つくらいなら、全然平気だと思うし」
「ほんとに?!やったぁ!」

 ピアノのは両手を挙げて嬉しそうにしている。
 確かお父さんの魔法アビリティは果樹に特化していたっけ。
 アビリティはその人固有のもので、その土地柄がよく現れる。
 農村地区ホキレウに代々果樹園を受け継いできたお父さんは、果物を育てるアビリティに特化しているんだったわね。

「……っ感無量だ」

 シオンも涙を流している。
 えっ。

「楽しみにしてるね」

 ジュエルが珍しくにっこり笑った。
 笑うんだ……!!
 かわいい!!

 勢いで約束しちゃったけど、みんな優しいし……。
 ぜひ食べてもらいたいな。

 でも!
 まずはここを乗り切らないとね!!

「あれ……」

「ん、どうした?ジュエル?」

「ううん、なんでもない……気のせいかも」

 ジュエルとシオンがこそこそと話をしている。
 まぁ!そんなに美味しかったのかしら!

「シオン……何かね、悪い予感がするんだ」
 





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