出来損ないと呼ばれ追放された魔王の子供は国を創造し王となる

aosakishinnosuke

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2章

新たな脅威

戦争から1年。
境界都市リベルタは、世界の中心都市へと変わっていた。

人間と魔族が同じ市場で笑い、
かつての戦場は黄金の麦畑になっている。

アークは相変わらず王座に座らず、
壊れた橋を直し、泣く子をあやし、
世界の“ほころび”を縫い続けていた。

その日。
空が裂けた。

音もなく、光もなく、
ただ世界に黒い亀裂が走る。

触れた塔が、消えた。

壊れたのではない。
存在ごと消失した。
都市の外壁が、触れられたわけでもないのに消える。
崩壊ではない。
存在の削除。

兵士が叫ぶ。

「壁が……消えていく!」
アークは前に出る。
指先が震えていた。

「下がれ。ここは俺が――」
アークが手を伸ばす。

「……クリエイト」

光は走る。
だが――戻らない。

初めてだった。

“直せない”。
裂け目から現れたのは、
輪郭の曖昧な存在。

影でも光でもない、
何もないもの。

黒い裂け目から、虚無が“滲み出る”。

人型ですらない。
視界が歪み、輪郭が理解できない存在。

それが一歩踏み出した瞬間、
地面が“無かったこと”になった。

兵が落ちる。

アークは即座に地面へ触れる。

「クリエイト!」

白い光が走る。
地面が再構築され、兵は転げながら生還する。
だがアークの息が詰まる。

「……重い」

直しているのは物質じゃない。
存在の履歴そのものだ。



それが声を発した。

「創造は、誤りだ」

空気が凍る。

存在するものを否定する力。
それはまるで魔界の伝説にある虚無(ヴォイド)。

それは破壊ではない。
“存在の前提”を消す力だった。



塔の扉が開く。

そこに立っていたのは、
力を失ったはずのゼル。

「兄上。あれは……俺たちの世界の外側の住人だ」

かつて覇道因子が触れた領域。
“壊す”ことの終点。

ゼルは苦笑する。

「俺が目指してた先に、あんなのがいたとはな」

「兄上! 理屈は後だ!」

覇道の残滓――かつての力の名残が燃える。

ゼルの拳が虚無に叩き込まれる。


――すり抜ける。

「チッ!」

虚無が振るう腕。
空間ごとゼルの肩が消える。

血も出ない。
“そこにあったはずの肩”が消失している。

アークの視界が凍る。

「ゼル!!」
彼は駆け寄り、消えた部分へ手を当てる。

「戻れ……!」

クリエイトが唸る。
消えた履歴を引き寄せ、再接続する。

ゼルの肩が現実に復帰する。

ゼルが息を吐く。

「……最悪の感覚だな。存在を忘れられるってのは」

アークは頷く。

アークは理解する。

「このままじゃ触れない。
まず“敵として定義”する必要がある」

「つまり?」

「壊せる形にしろ」

ゼルの口角が上がる。

「任せろ」

ゼルは地面を蹴り、虚無の周囲を高速で旋回する。
覇道の魔力で空間に“枠”を刻む。

斬撃ではない。
概念の檻。

「ここだ! 兄上!」

アークが両手を広げる。

「クリエイト――《輪郭付与》!」

光が檻を満たす。

虚無に、影が生まれる。
質量が発生する。
世界が初めてそれを“物体”として認識する。

ゼルが笑う。

「殴れる!」

拳がめり込む。

衝撃が走り、虚無が吹き飛ぶ。
大地が割れるが、アークが即座に修復する。

戦場は壊れない。
ただ衝撃だけが存在する。

虚無が形を変える。

無数の黒い腕が伸びる。

都市へ。
人へ。

アークは叫ぶ。

「ここは通さない!」

地面から白い構造物がせり上がる。
創造された壁ではない。

“破壊される前の未来”を固定した防壁。

虚無の腕が触れる。

……消えない。

時間軸そのものを固定された存在は、
虚無に削除されない。

ゼルが跳ぶ。

「今度は俺の番だ!」

覇道の拳が虚無の中心へ叩き込まれる。

だが虚無は裂け、
ゼルの体を包み込む。

視界が黒に染まる。

ゼルの意識が削られる。

「お前は壊すだけだった」

囁き。

ゼルが歯を食いしばる。

「だったら何だ……!」

彼の中で、かつての覇道が再点火する。

だがそれは以前と違う。

破壊衝動ではない。

守るための破壊。

ゼルが吠える。

「これは俺の世界だ!」

黒が砕ける。

アークが手を伸ばす。

ゼルが掴む。

創造と破壊の因子が共鳴する。

世界が震える。

虚無が叫ぶ。

「存在は誤りだ!」

アークが答える。

「誤りでもいい」

ゼルが笑う。

「面白いからな!」

二人の力が重なる。

破壊が虚無を固定し、
創造が存在を再定義する。

光が爆発する。

虚無は砕け、
世界の外へ押し戻される。

空の裂け目が閉じる。

静寂。

ゼルが地面に座り込む。

「……疲れた」

アークも息を吐く。

「直せないかと思った」

ゼルが笑う。

「俺が壊したから直せただけだろ」

アークは苦笑する。

「やっぱり二人で一つだな」

空は、何事もなかったかのように青かった。




人々は気づかない。
自分たちが消えかけたことに。

アークは空を見上げる。

「直す仕事は、終わらないな」

ゼルは笑う。

「今度は逃げんなよ、兄上」

「最初から逃げてない」

二人は並んで歩き出す。
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