転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

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心の奥の不安

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 席に座り直し、食事を再開する。まだ魔王の手元はぎこちないような。思い返せば握手会のときとかファンの子たちすごかったもんな……悲鳴というか、阿鼻叫喚というか……
 魔王はすっかり黙ってしまった。推しといるから言葉が出ないってことか。俺から話さないと。

「あの羊の執事さん、タイミングいいところで来るな。見張ってんのか?」
「いや、全て遮断するように結界を張っている。叶空との会話を聞かれるのはまずいだろう。ここならいくらでも前世の話や勇者の使命の話ができる」
「それはありがたい」

 魔王だし魔力はものすごいんだろうけど、俺には感じ取れないし、話せば話すほど魔王というよりも普通の人間だ。しかも俺のファン。この人を倒したくない……その気持ちがどんどん強くなる。

 そのために、もっと話を詰めておきたい。こんなイレギュラーな状況なんだ。神様にはああ言われたけど、魔王と戦わなくて済む方法があるかもしれない。

 それにしても……

「羊の、執事……ふ、ふふっ……」
「俺も最初面白いと思ったんだが、ダジャレという文化がなくて共感してくれる人がいなくてな」
「言葉に出したら、じわじわおもしろくなってきた……」

 腹を抱えた俺を、魔王はじっと見つめてきた。肌が白いから頬が染まったのがよくわかる。

「スーパーアイドルの叶空もダジャレで笑ったりするんだな……」
「俺も普通の人間だからな。今は特に、ただの田舎の平民」

 そう、俺は普通の人間だったのに……なんで急にこんなことになってしまったんだろう。

「……アイドルは楽しかった。あの頃の記憶はキラキラしてる。それを思い出せたのは嬉しい。でも今は平和に暮らしていければよかった。大きなことは望んでなかった……」
「叶空……経緯は聞いたが、君の気持ちは聞いてない。何か思いがあるんだろう。よければ話してくれないか」
「よくわかったな」
「叶空は何か言いたいことや暗いことを考えているとき、胸を押さえる癖がある」
「え……マジ……?」

 確かに今、胸元を握り込んでいた。自分でさえ知らない癖だ。それがわかるなんて……

「魔王様、どんだけ俺のファンなんだよ!」
「す、すまない。気持ち悪かったか」

 綺麗な顔しておろおろと視線を彷徨わせるがミスマッチでおもしろい。

「いや全然。それだけ俺のこと好きなんだろ? 嬉しいよ。俺の話、聞いてくれるか? そのあと魔王様の話聞かせてよ」
「わかった」

 相手は魔王だけど、この人ならひとりの人間として、揶揄ったり茶化したりせず話を聞いてくれるだろう。スーッと息を大きく吸いこむ。

「俺、勇者なんて嫌だ! 平和な町でのんびり暮らしたい! 魔物と戦うとか、絶対グロいだろ! ゲームの世界じゃあるまいし!」
「苦手なもの、スプラッタだからか……」
「よく覚えてるな。そうだよ、なのに神様は勝手だし、手には紋章できるし……結局勇者の運命からは逃げられなくなってる気がするんだ。ずっと平和だったのに、急にこんなことになるなんて。町にスライムが現れたのだって俺がいるせいかもって思ったり……俺が勇者にならないと世界が危険になるかも、俺が戦わないとみんな死ぬかもって……」

 心の奥にあった不安まで言葉に出てきた。魔王様が真剣に頷いて聞いてくれるから……

「魔王様を倒すのも嫌だよ。話してて思った、魔王様が世界を滅ぼすと思えない」
「叶空が俺を倒したいのなら喜んで身を捧げる気だったが」
「俺は誰も殺したくない!」
「そうか、それなら死ぬのはやめよう」
「そうしてくれ……俺の話、終わりぃ……」

 ここ数日抱えていたことを話せた。家族にも誰にもこんなこと言えなかった。前世のことも含めて、話せてよかった……この人と、魔王様と会えてよかった……

「つらかったな、話してくれてありがとう」

 魔王様はあったかく見つめてくれて……あー……ぶちまけて安心したからか、ぽやっとしてきた……
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