転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

文字の大きさ
8 / 38

平和作戦、開始

しおりを挟む
 しばらく泣いたら落ち着いてきた。頭と心の中のごちゃごちゃも随分すっきりした。

「ありがとう、魔王様。さすがに涙止まった……って、魔王様!?」

 顔を上げたら、魔王は放心していた。

「しっかりしろ!」
「と、叶空とこんなに長く触れ合ってしまった……」

 ……これはとりあえず離れたほうがよさそうだ。ベッドを這って少し距離を取る。何度か呼びかけたら、虚ろだった目に光が戻ってきた。

「……叶空、もう大丈夫か」
「うん、ありがとう。スッキリしたし、魔王様のおかげでアイドルだったころの志みたいなものを思い出せた」
「俺は、叶空の力になれたのか」
「そ。やっぱファンは偉大だ。自分じゃ気づけなかったことを気づかせてくれる。それで、これからのこと考えてたんだけど……」

 泣いている間、だんだん冷静になっていく頭で考えた。

「俺はやっぱり平和な世界が好きだ。アイドルだったころは、俺たちを見てくれる人が元気になって、明日も前向きに生きてくれたらって思ってた。その思いは今でも同じだ。世界が危機に襲われるのを放って自分だけ平和に暮らせない。俺の力で何とかできるんなら、やってやる。平和に暮らすのは、そのあとだ」

 魔王は目の淵を赤くして、涙をためていた。それがドバっと溢れ出した。

「叶空……素晴らしい考えだ……さすが俺の光……」
「な、泣くほど?」
「こうして転生しても、何も変わらない……聖人すぎて逆にキャラ作りを疑われていたがやはり素なんだな……俺が信じた君は明るく強く優しく気高く綺麗……いや言葉では表せない……」
「褒めすぎだって。神様は前世の記憶を活かせって言ってたし、アイドルだった俺にしかできない方法があるはずだ。俺は俺なりのやり方で、勇者の役目を果たしてやる!」

 声に出したことで気持ちが固く決まった。俺の話に何度も頷いた魔王は涙を拭い、

「よし、では俺を倒せ。それで終わるのだろう。本望だ」

 両手を広げて瞼を閉じた。ひとつも抵抗の素振りはない。

「魔王様のバカ」
「え」
「俺、誰も殺したくないって言っただろ」
「……そうだな、叶空の気持ちを蔑ろにしてしまっていた。……だが、どうする」

 目の前の魔王が何かするとはどうしても思えない。倒すのはこの人であるべきじゃない。要は世界が平和になればいいんだ。倒す以外の別の方法で、平和への道を探す……俺は、俺なりのやり方で……

「魔王様、俺と会った時、平和な生活がしたいだけって言ってたよな。人間と敵対したり、支配者になりたいってわけじゃないんだろ?」
「そうだ。俺は王として魔物たちを統べねばならないが、無駄な戦いはしたくない。人間との共生は難しくても、それぞれ別の場所で争わずに生きていければと思う」
「なんであの泉にいたの?」
「魔物が色々なところでいざこざを起こし、その対処に追われていた。俺じゃないと治められないからな。解決したあと精神的に疲れて、静かな場所でひとりになりたいと思ったらあの場所に移動していた」
「ブラック企業に逆戻りしてない?」

 魔王は「かもな」と冗談めかして笑った。やっぱり、この人となら……

「なあ魔王様、俺たち協力しないか?」
「協力?」
「そ、ゲームで言えばチュートリアルの時点で俺はラスボスと平和な世界について話してることになる。これを逆手に取る。俺は勇者として使命を果たしながら、魔王様に協力してもらって争いを避ける。これぞ戦わずして世界平和!」

 首をかしげていた魔王は目を見開いた。

「なるほど。敵対する予定だった勇者と魔王が先に手を組んで裏で手を回す……魔物が負けるフリをすれば人間側は納得するだろう。魔物のことは俺が説得し、最終的に俺が倒されたフリをすれば……」
「そっか、そっちが大変になるか。じゃあみんなの前で平和条約とか結ぶ?」
「いや、それだと納得しない人間が出てくる。叶空の作戦で行こう。俺がなんとかする」
「本当にいいのか?」
「大好きな叶空を支えられるんだ、前世以上の幸福をもらってしまった。君のために俺は何でもしよう。君にすべてを捧げる」
「あ、ありがとう……」

 ファンとして言ってるのはわかるけど、いざ面と向かって直球ストレートで言われると照れるな……この魔王、芸能界にいたらトップレベルの美形だし……

「と、叶空が照れて……あああ……」
「俺以上に照れるなよ……」

 魔王はふうふうと呼吸を落ち着かせている。やっと落ち着いてきたのか、大きく息をついて、真剣な眼差しへと変わる。

「しかし、危惧していることがある。俺が魔王なら、俺の意思に反した暴走が起こる可能性は否定できない。叶空が勇者になるのが必然的に起こる運命なのであれば、俺が倒されるのも必然ということになる」
「……その時は、俺が止める」
「今の時点で俺の魔力に勝てる者はいない。暴走した時の保険に、叶空には俺と同じぐらいの力をつけてもらわねば」
「うう、それこそレベル上げ的なのがいるか……魔王様なら俺の顔、歌、ダンスを見たら正気が戻ってきそうだけど」
「うむ、違いない」
「あはは、即答じゃん!」

 俺が笑うと、魔王もくすくすと笑う。何気ないことで笑いあえる、これが平和だ。勇者と魔王がもうそうなってるんだから、きっと人間と魔物も笑いあえる日がくる。

「でも、これだけは覚えておいてくれ。俺は叶空に倒されるなら本望だと」
「わかったけど……そうならないように俺たちで頑張るんだよ」

 魔王は光を宿した目で頷いた。

「叶空……いや、これからはフォルと呼ばせてもらってもいいか」

 呼び方が変わっただけなのに、胸の奥がじんわり熱を帯びた。魔王の瞳の中に、アイドルではない今の自分が映っていて……くすぐったい感じ。

「もちろん! 魔王様は名前あるのか?」
「今はアズノストというが……」
「わかった。アズノスト様、これからよろしく!」

 アズノストの手を取り、にこ、と笑った瞬間、ローリングしてベッドから転げ落ちていった。しばらく床に顔を伏せて悶えたあと、プルプル震えながらベッドに這い上がって正座をした。

「すまない、驚かせた。名前を呼びながら手を握るのは不意打ちだ」
「そろそろ慣れない……?」
「一生慣れることはないな。それと、様はつけなくていい」
「お偉い立場なのに?」
「ああ。これからは魔王と勇者という立場ではなく、同郷の協力者としてやっていこう」
「うん、そりゃありがたいな」
「むしろ俺が様をつけるべきなのだが……魔王の性なのか敬称が口に出せなくて……すまない……」
「今、同郷の協力者としてやっていこうって話したじゃん……」

 こうして俺と魔王の、世界平和作戦が幕を開けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい
BL
腐男子である牧野ひろは、ある日コンビニ帰りの事故で命を落としてしまう。 しかし次に目を覚ますと――そこは、生前夢中になっていた学園BLゲームの世界。 転生した先は、主人公の“最初の友達”として登場する脇役キャラ・アリエス。 恋愛の当事者ではなく安全圏のはず……だったのに、なぜか攻略対象たちの視線は主人公ではなく自分に向かっていて――。 脇役であるはずの彼が、気づけば物語の中心に巻き込まれていく。 これは、予定外の転生から始まる波乱万丈な学園生活の物語。 ⸻ 脇役くん総受け作品。 地雷の方はご注意ください。 随時更新中。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

オークとなった俺はスローライフを送りたい

モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ! そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。 子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。 前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。 不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。 ムーンライトノベルズでも投稿しております。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

処理中です...