転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

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騎士団本部にて

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 中央の国のことや騎士の仕事のことを聞きながら、陽凪についていく。少し歩き、住宅が並ぶ中のひとつの建物に入る。アパートみたいなもんだろう。

「おお~広いな」
「騎士ってけっこう給料いいんだよね」

 ひとり暮らしにしては広い部屋だ。キッチンと一緒になったリビングには大きなソファとテーブルが置いてある。家具は統一され、掃除も行き届いていて清潔感がある。観葉植物が置かれた窓からは陽が差し込んで、植物も嬉しそうだ。

「いい部屋だな。やっぱ陽凪はセンスいいな」
「ありがとう。食材しまうから、座ってていいよ」

 おう、と返事をしてさっそくでかいソファに座る。ふかふかだ。テーブルの上には歴史や哲学やら、難しそうな本が置いてある。ペラっとめくっただけで文字がびっしりで読む気がなくなった。
 ここに座ってコーヒーでも飲みながら読書か……いい生活してんなあ。

 部屋を見渡していると、食材の仕分けを終えた陽凪が隣に座った。と思ったら体重をかけられ、ソファになだれ込んだ。

「陽凪? 終わったなら城に行こうぜ」
「……少しだけ抱きしめさせて」

 陽凪は俺を抱きしめて顔をうずめる。表情は見えないが、どこか不安を抱えたような声色だ。慰めてやりたくて、陽凪の背中に手を回した。

「叶空はあったかいな」
「お前が体温低いからそう感じるんだろ」
「だから叶空を抱きしめると落ち着くんだ」
「じゃあもうちょいゆっくりしていくか」
「……ありがとう」

 伝わってくる陽凪の体温は前よりさらに冷たく感じた。俺が死んだあと、どう過ごしていたんだろう……その悲しみを俺が知ることはできないけどこうして会えたんだから、少しでも和らげられたら……




 抱き枕みたいにされながら何気ない話をしたあと、城に連れてきてもらった。陽凪の知り合いということで門も通れた。これ陽凪いなかったら不審者扱いされて詰んでたかもしれないな……と思いながら絨毯が敷かれた豪華絢爛な城の中を歩く。

「陽凪、今の名前はルクスっていうのか?」

 さっき門番に名前を呼ばれていた。

「うん。叶空は?」
「俺はフォル。これからはそっちの名前で呼んだ方がいいか」
「うーん……叶空に呼ばれるなら陽凪のほうがしっくりくるな。人前ではルクスの方がいいけど、二人のときは陽凪って呼んでくれない? 俺も叶空って呼びたい」
「わかった、そうしよう」

 陽凪のあとをついて城の廊下を進み、渡り廊下を通り、離れのような建物にやってきた。

「ここは?」
「騎士団の本部。王様の前に、叶空に会ってもらいたい人がいるんだ」

 外に繋がる扉を開くと、訓練場らしきところだった。
 そこにひとり、大きな剣を振るう男の人がいた。

「エイン団長!」

 団長、と呼ばれた男の人が振り返る。その人の顔は、またも見覚えのある……

楓月かづき!?」

 ステラシエルのメンバーの楓月だった。騎士団長してるのか!? 似合いすぎる! イメージぴったりだ!

 楓月はダンススクール出身で運動神経が良くて、バク宙とかもお手の物だった。ストイックで細マッチョだったけど、今はもっと筋肉がついているのが服の上からでも分かる。騎士団長の肩書きを持つぐらい強いんだろう。

 固まった俺を一瞥して、楓月は陽凪に目線を移す。

「ルクス、今日は非番だろう。それに……誰だこいつは」

 俺の名前を呼ばない。じっと睨むような鋭い視線。知らない人を警戒するみたいな……

「魔物を追い払った光を持つ青年。俺の昔からの知り合いだったんだ」
「……あれか」
「そうそう」

 戸惑う俺に、陽凪が耳うちをした。「楓月は前世の記憶がないみたいで」と。
 残念だけどそれなら仕方ない。俺だって思い出したのは最近だし……記憶はなくてもまた会えて嬉しい。俺を知らない楓月にぺこりと礼をする。

「こんにちは、団長さん」
「エインだ」

 それだけかよ。そっけねぇ~……そういや楓月と初めに知り合った時もこんな感じだった。同じグループなんだし仲良くなりたくてコミュニケーション頑張ったんだよな……また始めからだけど、何度だって仲良くなってやる。

「俺はフォルです。よろしくお願いします」
「紋章は……それか。嘘ではないみたいだな」

 う、疑われてる。そりゃ騎士団長だし、警戒心強くて当然だけど傷つくな。

「まあそれでも力になってくれるなら助かる」
「最近あちこちで魔物が暴れているから、王様は王政のためになんとかしたいんだろうね」

 アズノストは今日も対処に向かったし、俺と会った時も魔物を収めるのに疲れていたって言ってたし……本当にあちこちで魔物が暴れているんだ。

「フォルの町もスライムに襲われたって言ってたし、やっぱり全部、魔王がやってるのかな……ひどいね」
「そうだろう」
「え……どうしてそんな話に!?」

 アズノストはやってないって言っていた。スライムは別の誰かが操ったんだって。
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