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王の病
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陽凪が作ってくれた美味い朝飯を食べて、二人でアズノストとの合流に向かった。
街の中心部にある噴水広場。大きくて立派な噴水を背景にして、数人の女の子に囲まれている男は……人間姿のアズノストだ。俺に気づいて安心したように表情を綻ばせた。女の子に断りを入れてこっちにやってきたが、薄っすら冷や汗が浮かんでいる。内心焦ってたんだろうな。
「アズ!」
アズ、と呼んで手を振ると、心臓付近をギュッと抑えていたがすぐに咳払いをしてキリッと表情を整えた。
「おはよう、フォル」
「おはよ!」
近寄ろうとしたが俺より先に陽凪が半歩、前に進み出た。
「君がフォルの知り合いの魔法使い?」
「そうだが、君は?」
「俺はルクス。ここの国で騎士をしている。よろしく」
「アズという。フォルと同じ町出身だ。それで、俺を呼び出してどうした?」
アズノストは目で俺に合図をした。昨日全部話してしまったけど、そのことを陽凪はそれを知らない。だから今初めて話す、を装う必要がある。俺はもう一度同じ説明をした。アズノストも合わせて反応を返してくれる。これで陽凪目線から見ても矛盾は起こっていないはずだ。
「なるほど、そういうことなら行かせてもらおう。何か分かるかもしれない」
「魔法に自信があるんだね」
「まあな」
……なんかアズノストと陽凪、睨みあってないか? いや今はそれよりも王様だ。
「……じゃあ、城に出発だ!」
城に到着し、まず天真王子の執務室に通された。
「来たか。その者が魔法使いだな。俺はアレクだ」
「アズだ。フォルから事情は聞いている」
アズノストは王子相手にいつもと何ら変わりない口調で話した。「アズ……っ、敬語……!」と小声で注意しながら小突くと、分かりやすく、しまったと表情を浮かべた。
(まずい。俺は魔王の性で敬称もだが、敬語も出ない)
頭で声が聞こえた。王子にタメ口なんて確かにまずい。どうしたものかと逡巡していると、天真の反応は軽いものだった。
「敬語はなくて構わない」
「えっ、でも……」
「王子という立場ではあるが、俺も同じ人間だ。俺個人としてはなくても気にしない」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこりと礼をし、ホッと胸を撫でおろす。天真王子、さすがの器の広さだ……王子という立場上、口調は固くなっているがこういう分け隔てがない考え方は変わっていない。
「では、王の寝室に向かおう。ついてこい」
(天真は柔軟な思考を持っているな。前世の時のイメージと変わらない)
(だろ。だいたいみんな裏表はない。ファンのイメージ通りの人たちだよ)
(天真が導くこの国を見てみたいものだ)
(そうだな)
厳重警備の張り詰めた寝室。大きなベッドに寝ているこの人が……王様。部屋を取り囲むように警備の兵士がたくさんいる。医者らしき男の人と、王様の手を握っている女性が顔を上げた。
「アレク……そちらの方が、フォルとその仲間の魔法使いですか」
「はい。母上、父上のご容体は……」
母上、ということはこの人が王妃様。王妃様は泣きはらした顔で力なく首を横に振った。天真の顔はさらに曇る。医者がそれに補足するように容体を説明してくれた。
「心拍に乱れはなく、安定はしております。ただしかし、昨日と変わらず意識が戻る気配がありません。国所属の魔法使いに見てもらっても分からずじまいで……」
その中、アズノストは前に進み出て王様の血の気のない顔を覗き込んだ。
「……これは、瘴気だ」
「! 分かるのか!」
目を見開く天真に、アズノストは頷き返して言葉を続けた。
「きっかけは不明だが、大量の瘴気を浴びている。強力なものではないから今すぐ死に至るわけではないが、だんだんと魔力に侵食される。長引くと危険だ」
「治す方法はあるか」
「……これなら、セイレーンの秘薬が良いだろう。セイレーンの流麗な歌声の魔力を吸収した水だ。瘴気を祓う力がある。俺とフォルで取りに行かせてくれ」
振り返ったアズノストと目があう。手をグッと握って見せた。
「行かせてください!」
天真に悲しい顔は似合わない。王様にも王妃様も元気になってもらいたい。アズノストと一緒に、俺たちだけで行けたら戦わずにセイレーンと交渉できるはずだ。
天真は苦慮をするように眉をひそめた。
「それは……ありがたいが、セイレーンの洞窟には魔物がたくさんいると聞く。お前たちだけでは危険では……」
隣にいた陽凪がスッと手をあげた。
街の中心部にある噴水広場。大きくて立派な噴水を背景にして、数人の女の子に囲まれている男は……人間姿のアズノストだ。俺に気づいて安心したように表情を綻ばせた。女の子に断りを入れてこっちにやってきたが、薄っすら冷や汗が浮かんでいる。内心焦ってたんだろうな。
「アズ!」
アズ、と呼んで手を振ると、心臓付近をギュッと抑えていたがすぐに咳払いをしてキリッと表情を整えた。
「おはよう、フォル」
「おはよ!」
近寄ろうとしたが俺より先に陽凪が半歩、前に進み出た。
「君がフォルの知り合いの魔法使い?」
「そうだが、君は?」
「俺はルクス。ここの国で騎士をしている。よろしく」
「アズという。フォルと同じ町出身だ。それで、俺を呼び出してどうした?」
アズノストは目で俺に合図をした。昨日全部話してしまったけど、そのことを陽凪はそれを知らない。だから今初めて話す、を装う必要がある。俺はもう一度同じ説明をした。アズノストも合わせて反応を返してくれる。これで陽凪目線から見ても矛盾は起こっていないはずだ。
「なるほど、そういうことなら行かせてもらおう。何か分かるかもしれない」
「魔法に自信があるんだね」
「まあな」
……なんかアズノストと陽凪、睨みあってないか? いや今はそれよりも王様だ。
「……じゃあ、城に出発だ!」
城に到着し、まず天真王子の執務室に通された。
「来たか。その者が魔法使いだな。俺はアレクだ」
「アズだ。フォルから事情は聞いている」
アズノストは王子相手にいつもと何ら変わりない口調で話した。「アズ……っ、敬語……!」と小声で注意しながら小突くと、分かりやすく、しまったと表情を浮かべた。
(まずい。俺は魔王の性で敬称もだが、敬語も出ない)
頭で声が聞こえた。王子にタメ口なんて確かにまずい。どうしたものかと逡巡していると、天真の反応は軽いものだった。
「敬語はなくて構わない」
「えっ、でも……」
「王子という立場ではあるが、俺も同じ人間だ。俺個人としてはなくても気にしない」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこりと礼をし、ホッと胸を撫でおろす。天真王子、さすがの器の広さだ……王子という立場上、口調は固くなっているがこういう分け隔てがない考え方は変わっていない。
「では、王の寝室に向かおう。ついてこい」
(天真は柔軟な思考を持っているな。前世の時のイメージと変わらない)
(だろ。だいたいみんな裏表はない。ファンのイメージ通りの人たちだよ)
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(そうだな)
厳重警備の張り詰めた寝室。大きなベッドに寝ているこの人が……王様。部屋を取り囲むように警備の兵士がたくさんいる。医者らしき男の人と、王様の手を握っている女性が顔を上げた。
「アレク……そちらの方が、フォルとその仲間の魔法使いですか」
「はい。母上、父上のご容体は……」
母上、ということはこの人が王妃様。王妃様は泣きはらした顔で力なく首を横に振った。天真の顔はさらに曇る。医者がそれに補足するように容体を説明してくれた。
「心拍に乱れはなく、安定はしております。ただしかし、昨日と変わらず意識が戻る気配がありません。国所属の魔法使いに見てもらっても分からずじまいで……」
その中、アズノストは前に進み出て王様の血の気のない顔を覗き込んだ。
「……これは、瘴気だ」
「! 分かるのか!」
目を見開く天真に、アズノストは頷き返して言葉を続けた。
「きっかけは不明だが、大量の瘴気を浴びている。強力なものではないから今すぐ死に至るわけではないが、だんだんと魔力に侵食される。長引くと危険だ」
「治す方法はあるか」
「……これなら、セイレーンの秘薬が良いだろう。セイレーンの流麗な歌声の魔力を吸収した水だ。瘴気を祓う力がある。俺とフォルで取りに行かせてくれ」
振り返ったアズノストと目があう。手をグッと握って見せた。
「行かせてください!」
天真に悲しい顔は似合わない。王様にも王妃様も元気になってもらいたい。アズノストと一緒に、俺たちだけで行けたら戦わずにセイレーンと交渉できるはずだ。
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