転生勇者と転生魔王は平和を欲す

すももゆず

文字の大きさ
18 / 37

王の病

しおりを挟む
 陽凪が作ってくれた美味い朝飯を食べて、二人でアズノストとの合流に向かった。

 街の中心部にある噴水広場。大きくて立派な噴水を背景にして、数人の女の子に囲まれている男は……人間姿のアズノストだ。俺に気づいて安心したように表情を綻ばせた。女の子に断りを入れてこっちにやってきたが、薄っすら冷や汗が浮かんでいる。内心焦ってたんだろうな。

「アズ!」

 アズ、と呼んで手を振ると、心臓付近をギュッと抑えていたがすぐに咳払いをしてキリッと表情を整えた。

「おはよう、フォル」
「おはよ!」

 近寄ろうとしたが俺より先に陽凪が半歩、前に進み出た。

「君がフォルの知り合いの魔法使い?」
「そうだが、君は?」
「俺はルクス。ここの国で騎士をしている。よろしく」
「アズという。フォルと同じ町出身だ。それで、俺を呼び出してどうした?」

 アズノストは目で俺に合図をした。昨日全部話してしまったけど、そのことを陽凪はそれを知らない。だから今初めて話す、を装う必要がある。俺はもう一度同じ説明をした。アズノストも合わせて反応を返してくれる。これで陽凪目線から見ても矛盾は起こっていないはずだ。

「なるほど、そういうことなら行かせてもらおう。何か分かるかもしれない」
「魔法に自信があるんだね」
「まあな」

 ……なんかアズノストと陽凪、睨みあってないか? いや今はそれよりも王様だ。

「……じゃあ、城に出発だ!」



 城に到着し、まず天真王子の執務室に通された。

「来たか。その者が魔法使いだな。俺はアレクだ」
「アズだ。フォルから事情は聞いている」

 アズノストは王子相手にいつもと何ら変わりない口調で話した。「アズ……っ、敬語……!」と小声で注意しながら小突くと、分かりやすく、しまったと表情を浮かべた。

(まずい。俺は魔王の性で敬称もだが、敬語も出ない)

 頭で声が聞こえた。王子にタメ口なんて確かにまずい。どうしたものかと逡巡していると、天真の反応は軽いものだった。

「敬語はなくて構わない」
「えっ、でも……」
「王子という立場ではあるが、俺も同じ人間だ。俺個人としてはなくても気にしない」
「あ、ありがとうございます!」

 ぺこりと礼をし、ホッと胸を撫でおろす。天真王子、さすがの器の広さだ……王子という立場上、口調は固くなっているがこういう分け隔てがない考え方は変わっていない。

「では、王の寝室に向かおう。ついてこい」

(天真は柔軟な思考を持っているな。前世の時のイメージと変わらない)
(だろ。だいたいみんな裏表はない。ファンのイメージ通りの人たちだよ)
(天真が導くこの国を見てみたいものだ)
(そうだな)



 厳重警備の張り詰めた寝室。大きなベッドに寝ているこの人が……王様。部屋を取り囲むように警備の兵士がたくさんいる。医者らしき男の人と、王様の手を握っている女性が顔を上げた。

「アレク……そちらの方が、フォルとその仲間の魔法使いですか」
「はい。母上、父上のご容体は……」

 母上、ということはこの人が王妃様。王妃様は泣きはらした顔で力なく首を横に振った。天真の顔はさらに曇る。医者がそれに補足するように容体を説明してくれた。

「心拍に乱れはなく、安定はしております。ただしかし、昨日と変わらず意識が戻る気配がありません。国所属の魔法使いに見てもらっても分からずじまいで……」

 その中、アズノストは前に進み出て王様の血の気のない顔を覗き込んだ。

「……これは、瘴気だ」
「! 分かるのか!」

 目を見開く天真に、アズノストは頷き返して言葉を続けた。

「きっかけは不明だが、大量の瘴気を浴びている。強力なものではないから今すぐ死に至るわけではないが、だんだんと魔力に侵食される。長引くと危険だ」
「治す方法はあるか」
「……これなら、セイレーンの秘薬が良いだろう。セイレーンの流麗な歌声の魔力を吸収した水だ。瘴気を祓う力がある。俺とフォルで取りに行かせてくれ」

 振り返ったアズノストと目があう。手をグッと握って見せた。

「行かせてください!」

 天真に悲しい顔は似合わない。王様にも王妃様も元気になってもらいたい。アズノストと一緒に、俺たちだけで行けたら戦わずにセイレーンと交渉できるはずだ。

 天真は苦慮をするように眉をひそめた。

「それは……ありがたいが、セイレーンの洞窟には魔物がたくさんいると聞く。お前たちだけでは危険では……」

 隣にいた陽凪がスッと手をあげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

転生したが壁になりたい。

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

処理中です...