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猛攻編
1軍幼なじみと恋をする①
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「よ、和真」
「おう……」
2月某日の夜、東京。
俺は今、璃央の一人暮らし先の最寄り駅にいる。そこで待っていた璃央と合流した。そしてこれから、璃央の家に泊まりに行く。
なぜこうなったかというと。
「なあ和真、ライルセの限定ショップ行かね?」
「昨日発表されたやつだよな! 行きたい!」
なんと俺の現在最推しソシャゲであるライルセの初の限定ショップが2月に東京で開かれることになった。描き下ろしのバレンタイン衣装のグッズが販売されたり、原画展示まで……めるちゃん(推し)のグッズ、絶対欲しい!
同じライルセ仲間の前田からの誘いに、気分良く賛成した。周りにいた仲のいいオタクたちも名乗りを上げる。
「僕も行きたーい」
「ライルセ分からんけど、普通に東京でアニメグッズ買いたい」
そんな感じで話は進み、オタク4人で2泊3日の旅行をすることになった。まあ、東京までは電車で2時間程度の距離なんだけど。その頃は春休みになってるし、思いっきり遊ぼうということになった。
ウキウキしながらマップアプリで限定ショップの開催場所であるデパートを調べてみると……そこは璃央の通っている大学のすぐ近くだった。
マジかよ。近くに行くこと、璃央に言っとくべきだよなぁ……鉢合わせたりしたら「何で言わなかったんだよ!」って拗ねそうだし……俺が璃央の立場だったら、会いたいと思うだろうし、複雑だけど……
その日の夜。俺はスマホと睨めっこして璃央にメッセージを送った。
『お疲れ』
『あのさ、2月12日に俺の好きなゲームの限定ショップが開催されて、それが璃央の大学の近くで、その辺行くことになったから。とりあえず言っとく。それだけ』
あ~~~~~~送っちまった……
璃央の反応を考えているうちに、既読がついた。そしてすぐに電話がかかってきた。出るしか選択肢はない。
「も、もしもし」
「よう」
「わざわざ電話じゃなくてもいいだろ」
「じゃあ、別に電話でもいいだろ」
そりゃあ、そうだけど……
「こっちに泊まったりすんの?」
「11日から、2泊3日で……友達と」
「は? 友達と、ホテル、泊まんの?」
あからさまに低くなった声に、話を遮られた。雲行きが怪しい。
「その予定だけど……2人きりじゃないし、俺入れて4人いるし」
何で言い訳してるんだ俺は。いやだって、なんでか怒ってるから……
「ダメ」
「えっ」
「オレん家に泊まんないとダメ。4Pとか許さねぇ」
「はぁ!? 何言ってんの!?!?!?」
「遊ぶのはまあ仕方なく、仕方なく許すけど、泊まりはダメ。お前だけオレん家泊まれ、わかった?」
「ええ~~……」
「わ、かっ、た、か?」
「はい……」
これは何を言っても無駄だ。ゲームでよくある『はい』しか選択肢のないやつ……有無を言わせぬ圧力に負けて泊まることになってしまったのだった……
そんな感じで、当日。
東京に着き、1日目はアニメやゲームグッズの店を回ったり、浅草観光をしたりと楽しんだ。明日は待ちに待ったライルセ限定ショップの初日なのだが、その前に璃央の家に泊まる、という重大任務がある。
友達と別れ、駅で璃央と合流した。璃央のアパートまで、夜道を並んで歩く。
「今日……どこ行ったんだ」
「え、アニメのショップとか、浅草とか……」
「へー……」
璃央は不機嫌そうに黙ってしまった。何か悪いこと言った? それともただ機嫌悪いだけ? わからん……
いざ面と向かうと気まずくて、俺から話すことも特に思いつかない。重い沈黙が続き、また璃央が口を開く。
「……楽しかったか?」
「うん、楽しかった」
「俺といるより?」
「は? んなの言いづらい……というか比べるもんでもないだろ」
「はは、まあ、だよな」
璃央と過ごすのは落ち着かないし緊張するから、気兼ねないのはそりゃオタク友達だけど……だからといって璃央といるのが嫌なわけではないのに。何を深刻に気にしてるんだか……
まさか、またやきもち? 告白されてから、そういう素振りが多くなった。告白前は俺が友達といてもそんなこと言われたことなかったのに。やっぱりわからん……
考えているうちに、璃央のアパートに着いた。2階建ての普通の学生用アパートだった。
「お邪魔しまーす……」
「どーぞ。荷物置くのどこでもいいから」
一人暮らしっぽい1Kの部屋だった。璃央がいつもつけている香水の匂いがほんのりとする。全体的に物は少なくスッキリしてるし、家具の色も纏められて落ち着いている。俺の部屋とは大違いだ。
「寝床の用意しとくから、シャワー浴びてこい。オレはもう浴びたから」
「お、あ、ありがと。じゃあお言葉に甘えて……」
風呂場に璃央が入ってきて、「洗ってやるよ♡」とか言い出すんじゃないかと思ったが、そんなことはなく。無事にシャワーを浴びれた。そういえば今日はベタベタしてこない。やっぱり怒ってんのか……?
戻った部屋のレイアウトは何も変わってなかった。寝床の準備をするって言ってたのに……?
「えっと、俺の寝る場所は……」
スウェットに着替え、床に座りスマホをいじっていた璃央は、ひとつしかないベッドを指さす。
「枕。もうひとつ用意しといた」
ほんとだ。ベッドには枕がふたつ並んでいる。
……じゃなくて!!
「寝床の用意って、普通は布団を床に敷くのでは!?」
「予備の布団ないし。枕は買ったけど」
俺は頭を抱えた。璃央は最初からその気で……
璃央はフフン、と笑って布団をめくった。
「ほら、来いよ。寝ようぜ」
「うう……」
ただでさえ璃央の家ってだけで緊張してんのに、璃央の隣で寝るなんて……でも、明日に備えて寝たい。風邪も引きたくない。なら、選択肢はひとつだけ。腹を括って璃央の隣に潜った。
「電気消すぞ」
「うん」
真っ暗になった。背中合わせで、璃央の体温を感じる。
「和真、会いたかった」
静かな部屋に声が響いた。
「……今日、なんもしないんだ」
「ふーん、それはシたいってこと?」
「ちがう! いや、今日はあんまり喋んないから怒ってるのかと思って……」
「怒ってねぇよ。お前が部屋にいるの、落ち着かないだけ」
「……そっか。怒ってないならよかった」
璃央も緊張してるんだ……緊張してるのに、一緒に寝たかったのか。不器用なところあるよな。そういうところ、やっぱり可愛く思えてしまう。
会話はそのまま途切れた。
でも布団の中は心地よい暖かさだ。いい匂いもするし。寝れないかと思ったけど、これは、寝れそう……
*
8時になり、和真のスマホのアラームに起こされた。和真はベッドから抜け出し、いそいそと支度を始めた。まだ眠かったが、オレも身を起こす。
「はよ、寝れたか?」
「おはよー、うん、疲れてたからわりとぐっすり寝れたな」
「ふーん」
マジでこいつは……渋ってたくせに寝付くの早いし……オレは色々と我慢すんのに必死で全然寝れなかったのに。自分でベッドに誘っといて自業自得なのはわかってる。それでも、少しはオレのこと意識しろよコイツ……
「つか起きんの早くね? 10時からなんだろ」
「並ばないとグッズ売り切れるから! 友達と9時に駅で待ち合わせてんだよ」
そのデパート、駅から徒歩5分だろ。1時間近く前から並ぶのか……めるちゃんのために。あーくそ。朝っぱらから嫉妬心を芽生えさせてる自分にもムカつく。もっと余裕のある男でいたいのに。焦りすぎだ。
ベッドから出て、台所に置いていたパン屋の袋を和真に渡す。
「?」
「朝メシ。買っといた。好きなの食え」
「お、あ、ありがと……」
照れてる。恥ずそうにしてる。かわいい。
そんな態度を取られるから、意識されてるんじゃねーかと自惚れてしまう。パンを頬張る姿をじっと見つめていると、視線に気づいた和真は顔を赤くしながら「じろじろ見るなよ……」と言ってくる。かわいい。
オレがこんなにも気分のジェットコースターに翻弄されてることに和真は気づかない。
気づかないまま、支度を終えて玄関に意気揚々と向かう。見送るためにオレも後をついていく。
「行ってくる!」
「おー、こけんなよ。帰り何時になるか連絡しろよ」
「わかった。じゃ!」
バタン、と扉が閉まる。こういうやりとり、いいな。同棲してるみたいだ。
……浸ってる場合じゃない。オレも早く準備して出ないと、和真を見失う。
今日、オレは和真を尾行する。
「おう……」
2月某日の夜、東京。
俺は今、璃央の一人暮らし先の最寄り駅にいる。そこで待っていた璃央と合流した。そしてこれから、璃央の家に泊まりに行く。
なぜこうなったかというと。
「なあ和真、ライルセの限定ショップ行かね?」
「昨日発表されたやつだよな! 行きたい!」
なんと俺の現在最推しソシャゲであるライルセの初の限定ショップが2月に東京で開かれることになった。描き下ろしのバレンタイン衣装のグッズが販売されたり、原画展示まで……めるちゃん(推し)のグッズ、絶対欲しい!
同じライルセ仲間の前田からの誘いに、気分良く賛成した。周りにいた仲のいいオタクたちも名乗りを上げる。
「僕も行きたーい」
「ライルセ分からんけど、普通に東京でアニメグッズ買いたい」
そんな感じで話は進み、オタク4人で2泊3日の旅行をすることになった。まあ、東京までは電車で2時間程度の距離なんだけど。その頃は春休みになってるし、思いっきり遊ぼうということになった。
ウキウキしながらマップアプリで限定ショップの開催場所であるデパートを調べてみると……そこは璃央の通っている大学のすぐ近くだった。
マジかよ。近くに行くこと、璃央に言っとくべきだよなぁ……鉢合わせたりしたら「何で言わなかったんだよ!」って拗ねそうだし……俺が璃央の立場だったら、会いたいと思うだろうし、複雑だけど……
その日の夜。俺はスマホと睨めっこして璃央にメッセージを送った。
『お疲れ』
『あのさ、2月12日に俺の好きなゲームの限定ショップが開催されて、それが璃央の大学の近くで、その辺行くことになったから。とりあえず言っとく。それだけ』
あ~~~~~~送っちまった……
璃央の反応を考えているうちに、既読がついた。そしてすぐに電話がかかってきた。出るしか選択肢はない。
「も、もしもし」
「よう」
「わざわざ電話じゃなくてもいいだろ」
「じゃあ、別に電話でもいいだろ」
そりゃあ、そうだけど……
「こっちに泊まったりすんの?」
「11日から、2泊3日で……友達と」
「は? 友達と、ホテル、泊まんの?」
あからさまに低くなった声に、話を遮られた。雲行きが怪しい。
「その予定だけど……2人きりじゃないし、俺入れて4人いるし」
何で言い訳してるんだ俺は。いやだって、なんでか怒ってるから……
「ダメ」
「えっ」
「オレん家に泊まんないとダメ。4Pとか許さねぇ」
「はぁ!? 何言ってんの!?!?!?」
「遊ぶのはまあ仕方なく、仕方なく許すけど、泊まりはダメ。お前だけオレん家泊まれ、わかった?」
「ええ~~……」
「わ、かっ、た、か?」
「はい……」
これは何を言っても無駄だ。ゲームでよくある『はい』しか選択肢のないやつ……有無を言わせぬ圧力に負けて泊まることになってしまったのだった……
そんな感じで、当日。
東京に着き、1日目はアニメやゲームグッズの店を回ったり、浅草観光をしたりと楽しんだ。明日は待ちに待ったライルセ限定ショップの初日なのだが、その前に璃央の家に泊まる、という重大任務がある。
友達と別れ、駅で璃央と合流した。璃央のアパートまで、夜道を並んで歩く。
「今日……どこ行ったんだ」
「え、アニメのショップとか、浅草とか……」
「へー……」
璃央は不機嫌そうに黙ってしまった。何か悪いこと言った? それともただ機嫌悪いだけ? わからん……
いざ面と向かうと気まずくて、俺から話すことも特に思いつかない。重い沈黙が続き、また璃央が口を開く。
「……楽しかったか?」
「うん、楽しかった」
「俺といるより?」
「は? んなの言いづらい……というか比べるもんでもないだろ」
「はは、まあ、だよな」
璃央と過ごすのは落ち着かないし緊張するから、気兼ねないのはそりゃオタク友達だけど……だからといって璃央といるのが嫌なわけではないのに。何を深刻に気にしてるんだか……
まさか、またやきもち? 告白されてから、そういう素振りが多くなった。告白前は俺が友達といてもそんなこと言われたことなかったのに。やっぱりわからん……
考えているうちに、璃央のアパートに着いた。2階建ての普通の学生用アパートだった。
「お邪魔しまーす……」
「どーぞ。荷物置くのどこでもいいから」
一人暮らしっぽい1Kの部屋だった。璃央がいつもつけている香水の匂いがほんのりとする。全体的に物は少なくスッキリしてるし、家具の色も纏められて落ち着いている。俺の部屋とは大違いだ。
「寝床の用意しとくから、シャワー浴びてこい。オレはもう浴びたから」
「お、あ、ありがと。じゃあお言葉に甘えて……」
風呂場に璃央が入ってきて、「洗ってやるよ♡」とか言い出すんじゃないかと思ったが、そんなことはなく。無事にシャワーを浴びれた。そういえば今日はベタベタしてこない。やっぱり怒ってんのか……?
戻った部屋のレイアウトは何も変わってなかった。寝床の準備をするって言ってたのに……?
「えっと、俺の寝る場所は……」
スウェットに着替え、床に座りスマホをいじっていた璃央は、ひとつしかないベッドを指さす。
「枕。もうひとつ用意しといた」
ほんとだ。ベッドには枕がふたつ並んでいる。
……じゃなくて!!
「寝床の用意って、普通は布団を床に敷くのでは!?」
「予備の布団ないし。枕は買ったけど」
俺は頭を抱えた。璃央は最初からその気で……
璃央はフフン、と笑って布団をめくった。
「ほら、来いよ。寝ようぜ」
「うう……」
ただでさえ璃央の家ってだけで緊張してんのに、璃央の隣で寝るなんて……でも、明日に備えて寝たい。風邪も引きたくない。なら、選択肢はひとつだけ。腹を括って璃央の隣に潜った。
「電気消すぞ」
「うん」
真っ暗になった。背中合わせで、璃央の体温を感じる。
「和真、会いたかった」
静かな部屋に声が響いた。
「……今日、なんもしないんだ」
「ふーん、それはシたいってこと?」
「ちがう! いや、今日はあんまり喋んないから怒ってるのかと思って……」
「怒ってねぇよ。お前が部屋にいるの、落ち着かないだけ」
「……そっか。怒ってないならよかった」
璃央も緊張してるんだ……緊張してるのに、一緒に寝たかったのか。不器用なところあるよな。そういうところ、やっぱり可愛く思えてしまう。
会話はそのまま途切れた。
でも布団の中は心地よい暖かさだ。いい匂いもするし。寝れないかと思ったけど、これは、寝れそう……
*
8時になり、和真のスマホのアラームに起こされた。和真はベッドから抜け出し、いそいそと支度を始めた。まだ眠かったが、オレも身を起こす。
「はよ、寝れたか?」
「おはよー、うん、疲れてたからわりとぐっすり寝れたな」
「ふーん」
マジでこいつは……渋ってたくせに寝付くの早いし……オレは色々と我慢すんのに必死で全然寝れなかったのに。自分でベッドに誘っといて自業自得なのはわかってる。それでも、少しはオレのこと意識しろよコイツ……
「つか起きんの早くね? 10時からなんだろ」
「並ばないとグッズ売り切れるから! 友達と9時に駅で待ち合わせてんだよ」
そのデパート、駅から徒歩5分だろ。1時間近く前から並ぶのか……めるちゃんのために。あーくそ。朝っぱらから嫉妬心を芽生えさせてる自分にもムカつく。もっと余裕のある男でいたいのに。焦りすぎだ。
ベッドから出て、台所に置いていたパン屋の袋を和真に渡す。
「?」
「朝メシ。買っといた。好きなの食え」
「お、あ、ありがと……」
照れてる。恥ずそうにしてる。かわいい。
そんな態度を取られるから、意識されてるんじゃねーかと自惚れてしまう。パンを頬張る姿をじっと見つめていると、視線に気づいた和真は顔を赤くしながら「じろじろ見るなよ……」と言ってくる。かわいい。
オレがこんなにも気分のジェットコースターに翻弄されてることに和真は気づかない。
気づかないまま、支度を終えて玄関に意気揚々と向かう。見送るためにオレも後をついていく。
「行ってくる!」
「おー、こけんなよ。帰り何時になるか連絡しろよ」
「わかった。じゃ!」
バタン、と扉が閉まる。こういうやりとり、いいな。同棲してるみたいだ。
……浸ってる場合じゃない。オレも早く準備して出ないと、和真を見失う。
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