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恋人編ー3年生前期
璃央と大晴の話①
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璃央はよく、どこか遠くを見つめている。
気づいたのは中学に入って璃央とつるむようになってから、わりとすぐのことだった。俺らと話してる時、授業中、放課後の掃除の時……ふとした時に心ここにあらず。
「璃央、何見てんの?」
気になって聞くと、
「別に」
スン、とした顔で躱されて何事もなかったかのように会話に戻ってくる。まるで璃央にだけ見えてる何かがあるみたいだ。この既視感は……そうだ、猫だ。猫が虚空を見つめているやつ。うちの猫もよくやってる。璃央は目が大きくてツリ目で、整った顔立ちをしていてモテる。髪はふわふわと柔らかそうだ。一度思ってしまえばどんどん猫みが増してきた。
「なんだよ大晴、さっきからジロジロと」
「何でもないよ」
猫みたいって言ったらさすがに怒りそうだ。璃央を見てると今すぐ家の猫たち……サクラとモモをモフりたくなる。早く家に帰りたい……
二匹の猫は一年ほど前に妹の強い希望で飼い始めた。子猫だったのもあって最初の頃はどう接していいか分からなかったけど今では大切な家族だ。これが俺の好きなもののひとつ目。それともうひとつは可愛いもの。これも妹の影響。小物やゆるキャラグッズ、特に猫のグッズ。見てると癒される。
でもそのことは家族以外には秘密だ。男が猫と可愛いものが好きなんて、知られたら絶対バカにされる。狭い教室の中で、その屈辱は一年間続くことになる。下手したら三年間。だから必死で取り繕って、周りに合わせないといけなくて……
息が詰まりそうだ。
*
入学してから初めてのテストが終わった金曜日。どこかに遊びに行こうかと話していた。そのときグループのひとりが、教室の端で話してるオタクたちの悪口を何気なく言い始めた。悪口は盛り上がるもので、どんどん広がっていく。
他人をバカにする態度にムカついた。他人を下げても、自分の印象悪くするだけだろ。そうは思っても俺にも隠したいことがある。敵は作りたくない。きっとバレたら俺も同じように……
あいつらには悪いけど、仕方なく話を合わせた。結局俺も自分を守りたいだけの弱い人間だ。
でも、璃央は違った。
「何言おうがお前らの勝手だけど、オレの幼なじみバカにすんのは許さねぇ。好きなもん好きって言って何が悪いんだ」
思いきり啖呵を切った璃央は席を立ち、木山の腕を取って教室を後にしていった。璃央と木山って幼なじみだったんだ。話してるところほとんど見たことなかったのに。
残された俺は強い衝撃を受けていた。なんで嫌な話に合わせて、自分から悪者になっていたんだろう。
……これが天啓ってやつだ。周りにどう思われるか気にせず、あんな風に言えるなんて……璃央、かっけえ……!
週が明けて月曜日の朝、校門で見かけた璃央の姿にすぐさま声をかけた。
「先週、すごかったな」
「何が?」
璃央は全く気にしてないみたいだ。
「あの時の啖呵」
「あれか」
「璃央と木山が出てってから、あいつらの悪口止まったし、ちょっと反省してたよ。璃央って自分の言いたいことハッキリ言えて、すげえなって思った。感動した!」
「オレは思ったこと言っただけだ。まあイラついたからキレちまったけど……好きって気持ちを口に出せる方がよっぽどすげえ。勇気いるだろ」
好きなものを好きって言う勇気……本当にそうだ。俺はそれを堂々と言えない、臆病者だ。俺も勇気が欲しい。璃央になら話せると思った。こいつなら俺の好きなもの、笑ったりしない。
「璃央って猫好き?」
「普通」
「うちの猫見に来ない?」
そして週末。どっちもの部活が午前中で終わったので、学校で待ち合わせて璃央を俺の家に呼んだ。
「お邪魔しまーす」
「家族はみんな出かけてるから、気にしないで」
リビングに入ると猫たちがにゃんにゃんと鳴きながら足元に駆け寄ってきた。
「こっちの三毛がサクラで、キジトラがモモ。どっちもメス」
「へー」
璃央はしゃがんでジッと二匹の猫の様子を伺っている。近くにいたサクラに手を伸ばして頭を撫でた。羨ましく思ったのかモモはさらに鳴いて璃央の膝に足を置いた。
「お前も撫でろって?」
「あんま人見知りしないんだよ」
「そっか、猫ってけっこうかわいいな。よしよし」
璃央が猫にまみれている。猫が三匹に増えたみたいな錯覚が……
「あ、そうだ。親が璃央の分も昼ご飯用意してくれてるから食べない?」
「やった。腹減ってたんだ」
フライパンいっぱいに作ってあった焼きそばを温め直し、璃央と食卓を囲む。俺からは貰えないと分かっている猫たちは璃央の焼きそばを狙って膝に乗ってきている。
「コラッ、手ぇ出すな! これはオレのだ! てかお前ら食っちゃダメだろ!」
焼きそばの皿を高く上げながら、猫二匹に取られないよう頑張って食べている。なんだこの微笑ましい空間は。
「璃央って猫みたいだよなあ」
「そうか? 初めて言われたわ」
やがて焼きそばを諦めたサクラとモモは思い思いの場所でくつろいで遊びだした。その様子に璃央は拍子抜けしている。
「なんだよ、あんだけ欲しがってたのに。猫ってマジで気まぐれなんだな……オレもそうだって言いたいのか?」
「いや、どっちかというと仕草かな」
「ふーん? 自分じゃ分かんねぇな」
あまり気にする素振りはなく、残りの焼きそばをかきこんでいる。自分の話題に執着がないのも猫っぽい。
「ごちそうさま」
「皿洗っとくからゆっくりしてて」
「おー。あいつらと遊んでやるか。猫じゃらしとかあんの?」
「うん、ソファのあたり」
璃央はソファに腰かけると、ペチペチ手を叩いて二匹を呼ぶ。それにこたえてモモが璃央の膝の上で丸まった。サクラは璃央が振る猫じゃらしで遊んでいる。
「なあ大晴」
「なに?」
食器を洗い流す水音で消えないよう、璃央は声を大きくした。俺も少し声を張る。
「オレを家に呼んだの、猫のことだけじゃねーだろ?」
気づいたのは中学に入って璃央とつるむようになってから、わりとすぐのことだった。俺らと話してる時、授業中、放課後の掃除の時……ふとした時に心ここにあらず。
「璃央、何見てんの?」
気になって聞くと、
「別に」
スン、とした顔で躱されて何事もなかったかのように会話に戻ってくる。まるで璃央にだけ見えてる何かがあるみたいだ。この既視感は……そうだ、猫だ。猫が虚空を見つめているやつ。うちの猫もよくやってる。璃央は目が大きくてツリ目で、整った顔立ちをしていてモテる。髪はふわふわと柔らかそうだ。一度思ってしまえばどんどん猫みが増してきた。
「なんだよ大晴、さっきからジロジロと」
「何でもないよ」
猫みたいって言ったらさすがに怒りそうだ。璃央を見てると今すぐ家の猫たち……サクラとモモをモフりたくなる。早く家に帰りたい……
二匹の猫は一年ほど前に妹の強い希望で飼い始めた。子猫だったのもあって最初の頃はどう接していいか分からなかったけど今では大切な家族だ。これが俺の好きなもののひとつ目。それともうひとつは可愛いもの。これも妹の影響。小物やゆるキャラグッズ、特に猫のグッズ。見てると癒される。
でもそのことは家族以外には秘密だ。男が猫と可愛いものが好きなんて、知られたら絶対バカにされる。狭い教室の中で、その屈辱は一年間続くことになる。下手したら三年間。だから必死で取り繕って、周りに合わせないといけなくて……
息が詰まりそうだ。
*
入学してから初めてのテストが終わった金曜日。どこかに遊びに行こうかと話していた。そのときグループのひとりが、教室の端で話してるオタクたちの悪口を何気なく言い始めた。悪口は盛り上がるもので、どんどん広がっていく。
他人をバカにする態度にムカついた。他人を下げても、自分の印象悪くするだけだろ。そうは思っても俺にも隠したいことがある。敵は作りたくない。きっとバレたら俺も同じように……
あいつらには悪いけど、仕方なく話を合わせた。結局俺も自分を守りたいだけの弱い人間だ。
でも、璃央は違った。
「何言おうがお前らの勝手だけど、オレの幼なじみバカにすんのは許さねぇ。好きなもん好きって言って何が悪いんだ」
思いきり啖呵を切った璃央は席を立ち、木山の腕を取って教室を後にしていった。璃央と木山って幼なじみだったんだ。話してるところほとんど見たことなかったのに。
残された俺は強い衝撃を受けていた。なんで嫌な話に合わせて、自分から悪者になっていたんだろう。
……これが天啓ってやつだ。周りにどう思われるか気にせず、あんな風に言えるなんて……璃央、かっけえ……!
週が明けて月曜日の朝、校門で見かけた璃央の姿にすぐさま声をかけた。
「先週、すごかったな」
「何が?」
璃央は全く気にしてないみたいだ。
「あの時の啖呵」
「あれか」
「璃央と木山が出てってから、あいつらの悪口止まったし、ちょっと反省してたよ。璃央って自分の言いたいことハッキリ言えて、すげえなって思った。感動した!」
「オレは思ったこと言っただけだ。まあイラついたからキレちまったけど……好きって気持ちを口に出せる方がよっぽどすげえ。勇気いるだろ」
好きなものを好きって言う勇気……本当にそうだ。俺はそれを堂々と言えない、臆病者だ。俺も勇気が欲しい。璃央になら話せると思った。こいつなら俺の好きなもの、笑ったりしない。
「璃央って猫好き?」
「普通」
「うちの猫見に来ない?」
そして週末。どっちもの部活が午前中で終わったので、学校で待ち合わせて璃央を俺の家に呼んだ。
「お邪魔しまーす」
「家族はみんな出かけてるから、気にしないで」
リビングに入ると猫たちがにゃんにゃんと鳴きながら足元に駆け寄ってきた。
「こっちの三毛がサクラで、キジトラがモモ。どっちもメス」
「へー」
璃央はしゃがんでジッと二匹の猫の様子を伺っている。近くにいたサクラに手を伸ばして頭を撫でた。羨ましく思ったのかモモはさらに鳴いて璃央の膝に足を置いた。
「お前も撫でろって?」
「あんま人見知りしないんだよ」
「そっか、猫ってけっこうかわいいな。よしよし」
璃央が猫にまみれている。猫が三匹に増えたみたいな錯覚が……
「あ、そうだ。親が璃央の分も昼ご飯用意してくれてるから食べない?」
「やった。腹減ってたんだ」
フライパンいっぱいに作ってあった焼きそばを温め直し、璃央と食卓を囲む。俺からは貰えないと分かっている猫たちは璃央の焼きそばを狙って膝に乗ってきている。
「コラッ、手ぇ出すな! これはオレのだ! てかお前ら食っちゃダメだろ!」
焼きそばの皿を高く上げながら、猫二匹に取られないよう頑張って食べている。なんだこの微笑ましい空間は。
「璃央って猫みたいだよなあ」
「そうか? 初めて言われたわ」
やがて焼きそばを諦めたサクラとモモは思い思いの場所でくつろいで遊びだした。その様子に璃央は拍子抜けしている。
「なんだよ、あんだけ欲しがってたのに。猫ってマジで気まぐれなんだな……オレもそうだって言いたいのか?」
「いや、どっちかというと仕草かな」
「ふーん? 自分じゃ分かんねぇな」
あまり気にする素振りはなく、残りの焼きそばをかきこんでいる。自分の話題に執着がないのも猫っぽい。
「ごちそうさま」
「皿洗っとくからゆっくりしてて」
「おー。あいつらと遊んでやるか。猫じゃらしとかあんの?」
「うん、ソファのあたり」
璃央はソファに腰かけると、ペチペチ手を叩いて二匹を呼ぶ。それにこたえてモモが璃央の膝の上で丸まった。サクラは璃央が振る猫じゃらしで遊んでいる。
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