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参章 飯綱山の狐使い
三
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藍は、足には自信があった。昔から空手と柔道を習い、体力作りにも余念がなかった。ジョギングでご近所三周……それが毎日の課題だった。そんな生活のおかげか、中学時代は短距離も長距離も学年トップの記録をマークするようになっていた。
おかげで今日のように遅刻しそうになっても、なんとか予鈴の数分前には校門にたどり着けるのだった。
とはいえ、時間ギリギリであることには変わりなく、下駄箱の周辺には生徒はほとんどいない。藍は急いで上履きに履き替えた。
その時、耳慣れない音が聞こえた。普段なら、パタパタと他の生徒の足音が聞こえるはずの場所で、どうしてか、動物のような足音が聞こえた。四足歩行の、それもかなり重量感のある後だ。
音の方を振り返ると、その足音の主は、藍のすぐ近くにいた。藍は、思わず息をのんだ。
その動物は、見たことがある。先日、藍の目の前で子猫を救い、そして颯爽と立ち去った、大きな猪だ。
猪がこの近隣で目撃されたことがあまりない上、この巨体だ。間違えようがない。
「え、こんなところに……?」
先日、車が通るような大通りにいたことも驚きだったが、今日は学校の玄関口だ。こんな奥まで入り込んできて、少しも騒ぎになっている様子がない。
この猪が、暴れることなく、静かだからだろうか。
思わず目を瞬かせていると、猪は、藍の方をじっと見つめていた。そしておもむろに、頭の上に載せていた布を、藍の足先……簀の子の上にぽとりと落とした。
「これって、この前巻いてあげたハンカチ? 返しに来てくれたの?」
猪は、当然だが答えなかった。その代わり、ふん、と大きく鼻息を鳴らした。まるで返事のようだ。
「わざわざありがとう」
藍がそう言うと、猪はくるりと背を向けた。用は済んだと言うように、さっと走り出してしまった。
「見つからないように気をつけてね。大騒ぎになるよ」
藍のそんな言葉が聞こえていたのかいなかったのか、猪はあっという間に走り去って、姿が見えなくなった。
「見つからないといいけど……」
そう、ぽつりと呟いた瞬間だった。大きな鐘の音のような音が、頭上から響いてきた。予鈴だ。
藍はハンカチをポケットに突っ込んで、再び全速力で走り出したのだった。
おかげで今日のように遅刻しそうになっても、なんとか予鈴の数分前には校門にたどり着けるのだった。
とはいえ、時間ギリギリであることには変わりなく、下駄箱の周辺には生徒はほとんどいない。藍は急いで上履きに履き替えた。
その時、耳慣れない音が聞こえた。普段なら、パタパタと他の生徒の足音が聞こえるはずの場所で、どうしてか、動物のような足音が聞こえた。四足歩行の、それもかなり重量感のある後だ。
音の方を振り返ると、その足音の主は、藍のすぐ近くにいた。藍は、思わず息をのんだ。
その動物は、見たことがある。先日、藍の目の前で子猫を救い、そして颯爽と立ち去った、大きな猪だ。
猪がこの近隣で目撃されたことがあまりない上、この巨体だ。間違えようがない。
「え、こんなところに……?」
先日、車が通るような大通りにいたことも驚きだったが、今日は学校の玄関口だ。こんな奥まで入り込んできて、少しも騒ぎになっている様子がない。
この猪が、暴れることなく、静かだからだろうか。
思わず目を瞬かせていると、猪は、藍の方をじっと見つめていた。そしておもむろに、頭の上に載せていた布を、藍の足先……簀の子の上にぽとりと落とした。
「これって、この前巻いてあげたハンカチ? 返しに来てくれたの?」
猪は、当然だが答えなかった。その代わり、ふん、と大きく鼻息を鳴らした。まるで返事のようだ。
「わざわざありがとう」
藍がそう言うと、猪はくるりと背を向けた。用は済んだと言うように、さっと走り出してしまった。
「見つからないように気をつけてね。大騒ぎになるよ」
藍のそんな言葉が聞こえていたのかいなかったのか、猪はあっという間に走り去って、姿が見えなくなった。
「見つからないといいけど……」
そう、ぽつりと呟いた瞬間だった。大きな鐘の音のような音が、頭上から響いてきた。予鈴だ。
藍はハンカチをポケットに突っ込んで、再び全速力で走り出したのだった。
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