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第1章 偽聖女じゃありません!
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「その後か……そうだな、王子の婚約破棄と新たな婚約宣言について、重臣会議にかけられたことは知っているかな?」
「ええ、伺っています。それで会議の結果は?」
「実はまだ紛糾している。他の議題がすべてそっちのけになるから、困りものだよ」
「まだ? でももう2日経っていますよ……そろそろ落とし所が見つかるのでは?」
セルジュはため息をついて、そのままソファに腰掛けた。疲労が表情ににじみ出ている。
「君やお父様が怒っていた理由と同じだよ。公の場で公爵令嬢を貶めて、平民を取り立てたということに、まず非難が集中していてね」
「私、別に彼女が平民だから怒っているのではないわ」
「わかっているよ。だが、そこが最も気になる貴族も多い。よりによって貶めた相手が公爵令嬢だったがために、非難する理由を与えてしまったんだ」
レティシアまでため息が出た。
こうなると予測は出来たが、思った以上の紛糾ぶりのようだ。次期国王であるリュシアンと、宰相の娘であり公爵令嬢のレティシア……その二人の関係は、もはや一個人の感情で変えて良いものではないと、少し考えれば分かるだろうに。
「シア、参考意見として聞かせてくれるか。もしもリュシアン殿下が心から謝罪するとしたら、元の関係に戻……」
「無理です」
自分でも驚くぐらいに冷たい声で、きっぱりと言い切った。セルジュは、少し悲しそうに項垂れた。
「私、あの方と唯一意見が合っていることがあるんです。『婚約を破棄したい』ということですわ」
「そう、か……」
セルジュの顔を見ていると、自分もまた兄を困らせているようで胸が痛むが、もはや曲げるわけには行かないのだ。
「まぁ……殿下も彼女にぞっこんのようだし、難しいだろうな。元に戻ってくれるのが最善だと思うがなぁ……」
「そんなことを言っていると、お兄様まで解任されますよ。それに卒業生たち……名だたる貴族の子女たちが、アネット嬢の力を見ているんです。もうすぐ風向きが変わるかもしれません」
「なるほど……つまり君の意見は『婚約破棄を受け入れ、新たな聖女候補にアネットを推薦する』ということなのか?」
「推薦とまでは言いませんが、まぁ……大司教様のお眼鏡には適うのではないでしょうか」
「そこも困ったものでね。やはり彼女が平民なのがひっかかるんだよ。平民を王妃にするのか、平民を聖女にするのか……とね」
「そういう方は教育をやり直すのが面倒なだけなのでは? せっかく幼い頃から色々と教え込んできたことが、一からやり直しになるから」
「確かにな。君ほど教え甲斐のある生徒もいなかったろうしな」
レティシアの悪戯っぽい言い方に、セルジュが思わず噴き出す。強ばっていた口元が緩んで、ようやく本来の穏やかな笑みが見られた気がした。
ひとしきり笑うと、セルジュは立ち上がった。
「話が聞けて良かった。明日からの参考にさせてもらうよ」
「また貴族同士の牽制に利用されますよ」
「それはそうかもしれないが……結果は結果だ。他の誰よりも、可愛い妹の希望を一番に叶えてやりたいと、誰もが思うさ……では、今日はこれで失礼するよ」
そう微笑みながら告げると、セルジュは扉に向かった。だがネリーが扉を開けるよりも前に、ふと振り返った。
「ああ、そうだ。言い忘れていてすまないが……卒業おめでとう」
「まぁ、ようやくその言葉を頂けたわ」
わざとらしく怒っているように言うが兄には怒っているフリだとバレている。二人揃ってクスクス笑った。
「主席という成果もおめでとう。兄として、誇らしいばかりだ」
「少しは兄孝行が出来たかしら?」
「返せるものが何もなくて、困っているくらいだよ。それじゃあ……おやすみ。こちらのことは気にせずに、今はゆっくりしたらいい」
幼子に言い聞かせるような、優しい声音だった。不思議と、心地よい声だ。
「さて、ではお言葉に甘えて休むとしましょうか」
そう、ネリーに告げて、レティシアはベッドに潜り込んだのだった。
「ええ、伺っています。それで会議の結果は?」
「実はまだ紛糾している。他の議題がすべてそっちのけになるから、困りものだよ」
「まだ? でももう2日経っていますよ……そろそろ落とし所が見つかるのでは?」
セルジュはため息をついて、そのままソファに腰掛けた。疲労が表情ににじみ出ている。
「君やお父様が怒っていた理由と同じだよ。公の場で公爵令嬢を貶めて、平民を取り立てたということに、まず非難が集中していてね」
「私、別に彼女が平民だから怒っているのではないわ」
「わかっているよ。だが、そこが最も気になる貴族も多い。よりによって貶めた相手が公爵令嬢だったがために、非難する理由を与えてしまったんだ」
レティシアまでため息が出た。
こうなると予測は出来たが、思った以上の紛糾ぶりのようだ。次期国王であるリュシアンと、宰相の娘であり公爵令嬢のレティシア……その二人の関係は、もはや一個人の感情で変えて良いものではないと、少し考えれば分かるだろうに。
「シア、参考意見として聞かせてくれるか。もしもリュシアン殿下が心から謝罪するとしたら、元の関係に戻……」
「無理です」
自分でも驚くぐらいに冷たい声で、きっぱりと言い切った。セルジュは、少し悲しそうに項垂れた。
「私、あの方と唯一意見が合っていることがあるんです。『婚約を破棄したい』ということですわ」
「そう、か……」
セルジュの顔を見ていると、自分もまた兄を困らせているようで胸が痛むが、もはや曲げるわけには行かないのだ。
「まぁ……殿下も彼女にぞっこんのようだし、難しいだろうな。元に戻ってくれるのが最善だと思うがなぁ……」
「そんなことを言っていると、お兄様まで解任されますよ。それに卒業生たち……名だたる貴族の子女たちが、アネット嬢の力を見ているんです。もうすぐ風向きが変わるかもしれません」
「なるほど……つまり君の意見は『婚約破棄を受け入れ、新たな聖女候補にアネットを推薦する』ということなのか?」
「推薦とまでは言いませんが、まぁ……大司教様のお眼鏡には適うのではないでしょうか」
「そこも困ったものでね。やはり彼女が平民なのがひっかかるんだよ。平民を王妃にするのか、平民を聖女にするのか……とね」
「そういう方は教育をやり直すのが面倒なだけなのでは? せっかく幼い頃から色々と教え込んできたことが、一からやり直しになるから」
「確かにな。君ほど教え甲斐のある生徒もいなかったろうしな」
レティシアの悪戯っぽい言い方に、セルジュが思わず噴き出す。強ばっていた口元が緩んで、ようやく本来の穏やかな笑みが見られた気がした。
ひとしきり笑うと、セルジュは立ち上がった。
「話が聞けて良かった。明日からの参考にさせてもらうよ」
「また貴族同士の牽制に利用されますよ」
「それはそうかもしれないが……結果は結果だ。他の誰よりも、可愛い妹の希望を一番に叶えてやりたいと、誰もが思うさ……では、今日はこれで失礼するよ」
そう微笑みながら告げると、セルジュは扉に向かった。だがネリーが扉を開けるよりも前に、ふと振り返った。
「ああ、そうだ。言い忘れていてすまないが……卒業おめでとう」
「まぁ、ようやくその言葉を頂けたわ」
わざとらしく怒っているように言うが兄には怒っているフリだとバレている。二人揃ってクスクス笑った。
「主席という成果もおめでとう。兄として、誇らしいばかりだ」
「少しは兄孝行が出来たかしら?」
「返せるものが何もなくて、困っているくらいだよ。それじゃあ……おやすみ。こちらのことは気にせずに、今はゆっくりしたらいい」
幼子に言い聞かせるような、優しい声音だった。不思議と、心地よい声だ。
「さて、ではお言葉に甘えて休むとしましょうか」
そう、ネリーに告げて、レティシアはベッドに潜り込んだのだった。
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※完結しました。
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