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第1章 偽聖女じゃありません!
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一晩ぐっすり寝た後、いつもよりも早い時間に起き出したレティシアは、まずネリーを叩き起こした。
これからすることについて、口裏を合わせて貰うためだ。
「いい? 誰か人が来たら、私はふて寝してて起きてこないって言うのよ」
「ふぁい……お嬢様は起きてこない……起きない……」
主人よりもずっと寝起きの悪い困りものの侍女に何度も何度も言い含めて、レティシアは再び床に魔法陣を描いた。昨日描いたものは、見つからないように消してしまった。
「お嬢様~……今度はどこに行ったのか、ちゃんと確認して下さいよぉ……あとお土産……」
「はいはい。それじゃあ頼んだわよ」
一抹どころじゃない不安を抱えながらも、レティシアは転移魔法を起動した。行き先は、昨日設定した目印の場所だ。
今日は間違いなく、一瞬で目的地まで行ける。
魔法陣からあふれ出る光に包まれたかと思うと、周囲の風景が光に溶けていく。そして一瞬の後、別の風景が輪郭を描き出す。
昨日訪れた、だだっ広い緑の平原……その中に作った、レティシアの野菜たちが暮らす畑だ。見覚えのあるやたらと伸びた植物たちの姿が目に入った。
見慣れつつも、昨日にはなかったものがついていた。それもたくさん。
「偉いわ……! こんなにたくさん実をつけて……! よくぞここまで大きくなったわ」
緑の茎が地面を覆っていた光景の上に、今日は真っ白な花まで加わっていた。
「お芋がこんなに大きくたくさん! 私の願いを聞き届けてくれたのね……! どれどれ……」
むふふ、と初めて浮かべるような少し下品な笑みを浮かべながら、レティシアは茎の周囲の土を軽く掘り、根元を掴んで思い切り引き抜いた。
ボコッと、手応えを感じたかと思うと、引き抜いた先から次々に丸い芋が姿を現した。
「やった……! ジャガイモよ! 私の芋……!」
書物で読んでいたものが、子供たちと一緒に植えたものが、そして自分自身で植えて大きくしたものが、今、こうして目の前にいる。
これは、レティシアが初めて自分一人で作った、レティシアの作物だ。
「はぁ……ようやく会えた……」
レティシアは誰も見ていないのをいいことに、自分が穫った芋を手に取り、そっと頬ずりした。頬に土が付くのだって、構いやしない。
「その芋は、お前が育てたのか」
ふいに聞こえたその声は低いがよく響く、弦楽器のような声だった。
慌てて声の聞こえる方向に目を向けた。すると、まず最初に真っ黒な髪が目に留まった。夜の深い闇のようだと、レティシアは思った。
次いで目に入ったのはその瞳。まるで燃えさかる炎のように、深紅だった。
身なりは整っていて、村人というよりは貴族に近い。
静けさと猛々しさが混在した不思議な印象の青年が、そこに立っていたのだった。
レティシアは青年の佇まいに目が釘付けになっているが、青年は、芋の蔓を握りしめるレティシアをまじまじと見つめていた。すると唐突に、その整った眉間に深いしわが刻まれた。
「……お前か」
「はい?」
ぽつりと呟いた青年の声は、レティシアにはすべては届かなかった。訪ね返そうとしちえるレティシアを見て、青年はぷるぷる震え始めた。何故か、怒っているようにも見えた。
いや実際怒っているらしい。
次の瞬間、青年は手に持っていた花をレティシアに突きつけた。
「俺の丹精込めて育てた花園を……芋畑に変えたのは、お前かと聞いてるんだ!」
見ると、花の根と何かが複雑に絡み合っていた。ひげのような根と、その先についた大きくてゴツゴツした実が。
「ご……ごめんなさいぃぃ!!」
レティシアの光の速さでの叫びは、広い大地に瞬く間に響き渡った。
これからすることについて、口裏を合わせて貰うためだ。
「いい? 誰か人が来たら、私はふて寝してて起きてこないって言うのよ」
「ふぁい……お嬢様は起きてこない……起きない……」
主人よりもずっと寝起きの悪い困りものの侍女に何度も何度も言い含めて、レティシアは再び床に魔法陣を描いた。昨日描いたものは、見つからないように消してしまった。
「お嬢様~……今度はどこに行ったのか、ちゃんと確認して下さいよぉ……あとお土産……」
「はいはい。それじゃあ頼んだわよ」
一抹どころじゃない不安を抱えながらも、レティシアは転移魔法を起動した。行き先は、昨日設定した目印の場所だ。
今日は間違いなく、一瞬で目的地まで行ける。
魔法陣からあふれ出る光に包まれたかと思うと、周囲の風景が光に溶けていく。そして一瞬の後、別の風景が輪郭を描き出す。
昨日訪れた、だだっ広い緑の平原……その中に作った、レティシアの野菜たちが暮らす畑だ。見覚えのあるやたらと伸びた植物たちの姿が目に入った。
見慣れつつも、昨日にはなかったものがついていた。それもたくさん。
「偉いわ……! こんなにたくさん実をつけて……! よくぞここまで大きくなったわ」
緑の茎が地面を覆っていた光景の上に、今日は真っ白な花まで加わっていた。
「お芋がこんなに大きくたくさん! 私の願いを聞き届けてくれたのね……! どれどれ……」
むふふ、と初めて浮かべるような少し下品な笑みを浮かべながら、レティシアは茎の周囲の土を軽く掘り、根元を掴んで思い切り引き抜いた。
ボコッと、手応えを感じたかと思うと、引き抜いた先から次々に丸い芋が姿を現した。
「やった……! ジャガイモよ! 私の芋……!」
書物で読んでいたものが、子供たちと一緒に植えたものが、そして自分自身で植えて大きくしたものが、今、こうして目の前にいる。
これは、レティシアが初めて自分一人で作った、レティシアの作物だ。
「はぁ……ようやく会えた……」
レティシアは誰も見ていないのをいいことに、自分が穫った芋を手に取り、そっと頬ずりした。頬に土が付くのだって、構いやしない。
「その芋は、お前が育てたのか」
ふいに聞こえたその声は低いがよく響く、弦楽器のような声だった。
慌てて声の聞こえる方向に目を向けた。すると、まず最初に真っ黒な髪が目に留まった。夜の深い闇のようだと、レティシアは思った。
次いで目に入ったのはその瞳。まるで燃えさかる炎のように、深紅だった。
身なりは整っていて、村人というよりは貴族に近い。
静けさと猛々しさが混在した不思議な印象の青年が、そこに立っていたのだった。
レティシアは青年の佇まいに目が釘付けになっているが、青年は、芋の蔓を握りしめるレティシアをまじまじと見つめていた。すると唐突に、その整った眉間に深いしわが刻まれた。
「……お前か」
「はい?」
ぽつりと呟いた青年の声は、レティシアにはすべては届かなかった。訪ね返そうとしちえるレティシアを見て、青年はぷるぷる震え始めた。何故か、怒っているようにも見えた。
いや実際怒っているらしい。
次の瞬間、青年は手に持っていた花をレティシアに突きつけた。
「俺の丹精込めて育てた花園を……芋畑に変えたのは、お前かと聞いてるんだ!」
見ると、花の根と何かが複雑に絡み合っていた。ひげのような根と、その先についた大きくてゴツゴツした実が。
「ご……ごめんなさいぃぃ!!」
レティシアの光の速さでの叫びは、広い大地に瞬く間に響き渡った。
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