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第3章 泥まみれの宝
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気付くと、憮然とした顔のアベルが背後に立っていた。いつもながら、耳聡い……。
こちらを見下ろす視線は、鋭く冷たく、迫力があった。
「与太話は止めはしないが、自分たちの話にしてくれるか。俺は噂の種になるのは好きじゃない」
「あははは……こりゃ申し訳ない」
「も、申し訳ございません」
レティシアと村人が揃って頭を下げると、アベルは頷いて表情を和らげた。
「どうせ褒めそやすなら、この美味い飯を作ってくれた人物にしようじゃないか。なぁ、アラン?」
「はい? ぼ、僕ですか!?」
いきなり名前を呼ばれたアランは、お玉片手に勢いよく振り返った。
驚くアランを見て、村人たちはニヤリと笑って頷いた。
「そうだなぁ。こんだけ美味い飯をいつも作ってくれるんだ。アランこそ、ただ者じゃねえわな」
「と、と、と、とんでもないです! 僕なんて、そんな……」
真っ赤になって後退るアランに、村人たちはさらに詰め寄った。
「いつも不思議だったんだよねぇ。長いことここで暮らす私たちよりも、ずーっとここの郷土料理なんかに詳しいんだから」
「そ、それは……勉強したから……」
「私も気になっていたわ。誰かに教わったの? 勉強って何? 料理についての指南書でもあるの?」
「え、えぇと……」
レティシアまでが、ぐいぐい近づいて追求すると、アランはさらに一歩退いた。ただでさえ気弱そうな瞳が困ったように垂れ下がって、アベルに向けられた。
アベルは一応、助け船を出さないわけに行かなかった。
「……ひとえに努力と研鑽の賜だろう」
「アベル様まで……! 僕はそんな凄いことなんてしてませんよ。作っている料理のレシピは全部、人から教わったものなんですから」
「本当に?」
「本当です。料理人だった父から基本のレシピを教わったものですし、このスープだって、元はレティさんに教わったものじゃないですか」
謙遜しすぎるアランを見る目が、だんだん温かなものに変わっていく。もう少しぐらい、自信を持ってくれてもいいのだが。
「でもこのスープ以外にも、ジャガイモを使った料理を作ってくれたわよね? あれは自分で考えたものではないの?」
「ああ、あれは兄に教わったんです」
アランがそう言うと、アベルを含めた皆が納得したように頷いていた。
「へぇ……お兄様がいらっしゃるの」
「お、『お兄様』だなんて……でも、そうです。行商人として色々な土地を巡っていて、色んなことを知っているんです。このジャガイモのことも、話したら帝国で出回っているレシピを教えてくれました」
アランはそれまでの表情から一変、顔を綻ばせて言っていた。
「……自慢のお兄様なのね」
「はい! 兄のことは自慢です」
その嬉しそうな顔は、さながら子犬が褒められて喜んでいるかのような印象だった。
皆、思わず頭をなで回したい衝動に駆られつつ、必死に我慢していたところ……人の輪の外から、突然手がにゅっと伸びてきて、わしゃわしゃとアランの頭を乱暴なほどに撫で回してくしゃくしゃにした。
「何だなんだ? 久しぶりに帰って来たら、なんだか褒められてるじゃあねえか。今日は何かのお祭りかい?」
そう言って現れたのは、アランと同じほどの背丈で、アランと似た面立ちの青年だった。
突然現れたというのに、誰一人驚いていない。それどころか顔を見た瞬間、皆、喜びを露わにしている。
面識のないレティシアでも、彼が誰なのか、すぐに見当が付いた。
「兄さん!」
「やっぱり……」
アランに『兄』と呼ばれたその青年は、ニカッと笑いかけた後、アベルの方に向き直り、深々と頭を下げた。
「久しいな、ジャン」
「はい、ご無沙汰をしております、アベル様。ジャン・ラキーユ、ただいま戻って参りました」
こちらを見下ろす視線は、鋭く冷たく、迫力があった。
「与太話は止めはしないが、自分たちの話にしてくれるか。俺は噂の種になるのは好きじゃない」
「あははは……こりゃ申し訳ない」
「も、申し訳ございません」
レティシアと村人が揃って頭を下げると、アベルは頷いて表情を和らげた。
「どうせ褒めそやすなら、この美味い飯を作ってくれた人物にしようじゃないか。なぁ、アラン?」
「はい? ぼ、僕ですか!?」
いきなり名前を呼ばれたアランは、お玉片手に勢いよく振り返った。
驚くアランを見て、村人たちはニヤリと笑って頷いた。
「そうだなぁ。こんだけ美味い飯をいつも作ってくれるんだ。アランこそ、ただ者じゃねえわな」
「と、と、と、とんでもないです! 僕なんて、そんな……」
真っ赤になって後退るアランに、村人たちはさらに詰め寄った。
「いつも不思議だったんだよねぇ。長いことここで暮らす私たちよりも、ずーっとここの郷土料理なんかに詳しいんだから」
「そ、それは……勉強したから……」
「私も気になっていたわ。誰かに教わったの? 勉強って何? 料理についての指南書でもあるの?」
「え、えぇと……」
レティシアまでが、ぐいぐい近づいて追求すると、アランはさらに一歩退いた。ただでさえ気弱そうな瞳が困ったように垂れ下がって、アベルに向けられた。
アベルは一応、助け船を出さないわけに行かなかった。
「……ひとえに努力と研鑽の賜だろう」
「アベル様まで……! 僕はそんな凄いことなんてしてませんよ。作っている料理のレシピは全部、人から教わったものなんですから」
「本当に?」
「本当です。料理人だった父から基本のレシピを教わったものですし、このスープだって、元はレティさんに教わったものじゃないですか」
謙遜しすぎるアランを見る目が、だんだん温かなものに変わっていく。もう少しぐらい、自信を持ってくれてもいいのだが。
「でもこのスープ以外にも、ジャガイモを使った料理を作ってくれたわよね? あれは自分で考えたものではないの?」
「ああ、あれは兄に教わったんです」
アランがそう言うと、アベルを含めた皆が納得したように頷いていた。
「へぇ……お兄様がいらっしゃるの」
「お、『お兄様』だなんて……でも、そうです。行商人として色々な土地を巡っていて、色んなことを知っているんです。このジャガイモのことも、話したら帝国で出回っているレシピを教えてくれました」
アランはそれまでの表情から一変、顔を綻ばせて言っていた。
「……自慢のお兄様なのね」
「はい! 兄のことは自慢です」
その嬉しそうな顔は、さながら子犬が褒められて喜んでいるかのような印象だった。
皆、思わず頭をなで回したい衝動に駆られつつ、必死に我慢していたところ……人の輪の外から、突然手がにゅっと伸びてきて、わしゃわしゃとアランの頭を乱暴なほどに撫で回してくしゃくしゃにした。
「何だなんだ? 久しぶりに帰って来たら、なんだか褒められてるじゃあねえか。今日は何かのお祭りかい?」
そう言って現れたのは、アランと同じほどの背丈で、アランと似た面立ちの青年だった。
突然現れたというのに、誰一人驚いていない。それどころか顔を見た瞬間、皆、喜びを露わにしている。
面識のないレティシアでも、彼が誰なのか、すぐに見当が付いた。
「兄さん!」
「やっぱり……」
アランに『兄』と呼ばれたその青年は、ニカッと笑いかけた後、アベルの方に向き直り、深々と頭を下げた。
「久しいな、ジャン」
「はい、ご無沙汰をしております、アベル様。ジャン・ラキーユ、ただいま戻って参りました」
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