116 / 170
第5章 聖女の価値は 魔女の役目は
9
しおりを挟む
大丈夫。危険はないはず。
そう、自分自身に言い聞かせ、レティシアはそっと手をかざした。自分の魔力がどこかに流れていくのがわかる。そんな感覚を覚えると同時に、機械に設置された魔石が煌々と輝いた。
すると、機械の先に設置されていた小瓶が光で満たされていく。
バルニエ領で目にした光景と、同じだ。
「それを、どうするおつもりですか」
レティシアが尋ねると、大司教は答えず、ただニッコリと微笑んだ。そしておもむろに、修道士が持ってきた、土だけ詰め込まれた鉢植えにそっと瓶の中身を注いだ。
それは、ただ不思議な色をした水が土に吸い込まれていっただけのように見えた。だが、次の瞬間、レティシアがよく知っている現象が起こる。
何もない平坦な土から、急に芽が飛び出した。かと思うとしゅるしゅると背が伸びていき、花を咲かせ、そしてすぐに枯れてしまった。そして、枯れた花がしぼんで、種を作り、土に落ちて、また新たな芽が出た。
それを数度繰り返している様子を、大司教は爛々とした目で見つめていた。
「あの……大司教様? これが何か……?」
おそるおそる尋ねたレティシアの手を、大司教の手が急に乱暴に掴み取った。
「素晴らしい!」
「は、はい!?」
大司教の手は、離れようとしたレティシアの手をしっかり掴んで離そうとしない。老人とは思えない膂力だ。
「ああ、レティシア……やはり君が必要だ。君こそ神にも勝る、この世で最も神聖な存在。私に……いや、我々に必要な真の聖女だ」
「……は?」
レティシアは頭の中を整理することに必死になっていた。
「わ、私が真の聖女って……いったいどういう……?」
「言葉通りだとも。歴代の聖女様方と同じ、国母と呼ぶにふさわしい力を持った女性ということだよ」
「ふざけないでください!」
先ほどまでかろうじて持っていた敬いの念が、かき消えていくのが分かる。目の前の老人が何を言っているのか、さっぱりわからない。
渾身の力で手を引き剥がすと、大司教はそれを名残惜しそうに見つめながらも告げた。
「ふざけてなどいないよ。私はずっと、君が聖女であるということを疑ったことなどない」
「だけど私は……アネットのように花を咲かせることは……」
「アネットは……まぁ少し違うのだよ。それに君だって、君自身の真価をわかっているじゃあないか。植物とは、華々しく咲くことばかりが役目ではない。むしろその先……花が枯れて、実をつけ、種を生む。そして新たな命を生み出す……それこそが、全ての命が担う役割ではないかね」
「それは……そうですが」
「君は、それを助ける力を持っている。他の誰にも出来ない、素晴らしい力だ。君を聖女と呼ばずしてどうするんだね」
「ではアネットは!? 彼女が聖女として立ったのは何故ですか!」
そう、自分自身に言い聞かせ、レティシアはそっと手をかざした。自分の魔力がどこかに流れていくのがわかる。そんな感覚を覚えると同時に、機械に設置された魔石が煌々と輝いた。
すると、機械の先に設置されていた小瓶が光で満たされていく。
バルニエ領で目にした光景と、同じだ。
「それを、どうするおつもりですか」
レティシアが尋ねると、大司教は答えず、ただニッコリと微笑んだ。そしておもむろに、修道士が持ってきた、土だけ詰め込まれた鉢植えにそっと瓶の中身を注いだ。
それは、ただ不思議な色をした水が土に吸い込まれていっただけのように見えた。だが、次の瞬間、レティシアがよく知っている現象が起こる。
何もない平坦な土から、急に芽が飛び出した。かと思うとしゅるしゅると背が伸びていき、花を咲かせ、そしてすぐに枯れてしまった。そして、枯れた花がしぼんで、種を作り、土に落ちて、また新たな芽が出た。
それを数度繰り返している様子を、大司教は爛々とした目で見つめていた。
「あの……大司教様? これが何か……?」
おそるおそる尋ねたレティシアの手を、大司教の手が急に乱暴に掴み取った。
「素晴らしい!」
「は、はい!?」
大司教の手は、離れようとしたレティシアの手をしっかり掴んで離そうとしない。老人とは思えない膂力だ。
「ああ、レティシア……やはり君が必要だ。君こそ神にも勝る、この世で最も神聖な存在。私に……いや、我々に必要な真の聖女だ」
「……は?」
レティシアは頭の中を整理することに必死になっていた。
「わ、私が真の聖女って……いったいどういう……?」
「言葉通りだとも。歴代の聖女様方と同じ、国母と呼ぶにふさわしい力を持った女性ということだよ」
「ふざけないでください!」
先ほどまでかろうじて持っていた敬いの念が、かき消えていくのが分かる。目の前の老人が何を言っているのか、さっぱりわからない。
渾身の力で手を引き剥がすと、大司教はそれを名残惜しそうに見つめながらも告げた。
「ふざけてなどいないよ。私はずっと、君が聖女であるということを疑ったことなどない」
「だけど私は……アネットのように花を咲かせることは……」
「アネットは……まぁ少し違うのだよ。それに君だって、君自身の真価をわかっているじゃあないか。植物とは、華々しく咲くことばかりが役目ではない。むしろその先……花が枯れて、実をつけ、種を生む。そして新たな命を生み出す……それこそが、全ての命が担う役割ではないかね」
「それは……そうですが」
「君は、それを助ける力を持っている。他の誰にも出来ない、素晴らしい力だ。君を聖女と呼ばずしてどうするんだね」
「ではアネットは!? 彼女が聖女として立ったのは何故ですか!」
10
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした
まほりろ
恋愛
【完結済み】
公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。
壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。
アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。
家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。
修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。
しかし仔猫の正体は聖獣で……。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。
・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。
2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます!
誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!!
アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる