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幸せな悩み
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「うぅむ……」
ケーキ用のトングを手に、しばし唸っていた。制限時間を考えれば考えるよりも咲に動くのが望ましいが、どうしても悩ましい。
このケーキバイキング、回を追うごとに人気が増し、並ぶメニューも増え続けている。今回は、先月よりも更に品数が多い。いったいどのケーキから食べるべきか……。
ケーキ類は、普段は概ねホールケーキを10カットにしたものが並んでいるが、今は約5cm四方の正方形にカットされ、いつもよりも多く置かれている。
どんな種類も、いくつでも、手に取りやすいように小さくカットされているのだ。まさしく食べ放題というわけだ。
だからこそ、最初の一手に迷う。こういうのは、初手が肝心なのだ。
最初に食べた味が印象に残り、その後一日の余韻に影響する。どれを食べようとも、やはり最初の一つだけは絶対に失敗したくない。だがしかし、いつも同じでは味気ない。
テーブルの隅から隅まで視線を巡らしていると、どれもが初手に相応しく見え、そしてどれもがあと一歩足りないように見えてしまう。
はて、どうするべきか……もう一度唸っていると、横からひょいっとケーキトングが伸びてきた。
「これ、来月からの新作のお試しだって。食べてみよ!」
そう言って、横にいた女性が目の前にあるケーキを掴んだ。一番近く……眼下にあって見落としていた。確かに、今ではなく、来月から並ぶとポップに書かれている。これは、挑戦せねば。
女性が自分のテーブルに戻ると、私は目の前にあるケーキを一つ掴み、皿に載せた。ネームプレートには、『栗のプリンケーキ』と書かれている。ショートケーキの生地の上にプリンが載って、その上に3分の一程にカットされた栗とクリームが飾られている。艶やかな栗の色に、心惹かれる。
さて、初手は決まった。だが一つだけで終われはしない。それ以外は、心の赴くままに手を……いやトングを伸ばそうじゃないか。
イチゴショート、抹茶シフォン、フルーツタルト、モンブランに、チョコレートコーティングされたオペラ……他にも、まだまだ。テーブル上が、虹を描いているような様に、嬉しい迷いが生じてしまう。
「……よし、では次は……」
ケーキ用のトングを手に、しばし唸っていた。制限時間を考えれば考えるよりも咲に動くのが望ましいが、どうしても悩ましい。
このケーキバイキング、回を追うごとに人気が増し、並ぶメニューも増え続けている。今回は、先月よりも更に品数が多い。いったいどのケーキから食べるべきか……。
ケーキ類は、普段は概ねホールケーキを10カットにしたものが並んでいるが、今は約5cm四方の正方形にカットされ、いつもよりも多く置かれている。
どんな種類も、いくつでも、手に取りやすいように小さくカットされているのだ。まさしく食べ放題というわけだ。
だからこそ、最初の一手に迷う。こういうのは、初手が肝心なのだ。
最初に食べた味が印象に残り、その後一日の余韻に影響する。どれを食べようとも、やはり最初の一つだけは絶対に失敗したくない。だがしかし、いつも同じでは味気ない。
テーブルの隅から隅まで視線を巡らしていると、どれもが初手に相応しく見え、そしてどれもがあと一歩足りないように見えてしまう。
はて、どうするべきか……もう一度唸っていると、横からひょいっとケーキトングが伸びてきた。
「これ、来月からの新作のお試しだって。食べてみよ!」
そう言って、横にいた女性が目の前にあるケーキを掴んだ。一番近く……眼下にあって見落としていた。確かに、今ではなく、来月から並ぶとポップに書かれている。これは、挑戦せねば。
女性が自分のテーブルに戻ると、私は目の前にあるケーキを一つ掴み、皿に載せた。ネームプレートには、『栗のプリンケーキ』と書かれている。ショートケーキの生地の上にプリンが載って、その上に3分の一程にカットされた栗とクリームが飾られている。艶やかな栗の色に、心惹かれる。
さて、初手は決まった。だが一つだけで終われはしない。それ以外は、心の赴くままに手を……いやトングを伸ばそうじゃないか。
イチゴショート、抹茶シフォン、フルーツタルト、モンブランに、チョコレートコーティングされたオペラ……他にも、まだまだ。テーブル上が、虹を描いているような様に、嬉しい迷いが生じてしまう。
「……よし、では次は……」
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