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第2章 鍛冶屋の(魔)王様
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日が暮れて、工房はようやく休憩に入った。
炉に入った火はまだ落とされてはいない。
ライが来るまでの数日、夜を徹しての作業が続いていたらしい。それほどに大口の依頼であり、とんでもない量だった。
だが、ライが奇跡的なスピードで次々仕上げていくおかげで目処が立ったらしい。
一番の功労者であるライが、真っ先に休憩を勧められたのだった。
(夜通し働いていた彼らこそ休めばいいものを……人間とは不可思議だ)
実際、ライはそれほど疲れていない。
エルガディアで趣味の鍛冶場を作ったのも、純粋に楽しんでいるからだ。
本当なら他の者に順番を譲って自分は作業を続けたかった。だが今、ありがたく請けることにしていた。
あの男に呼び出されていたからだ。
水車と鎚の音が聞こえなくなった村の外れ……古びた空き家に、彼はいた。
昼間と同じ、勇者らしい快活な笑顔が月明かりに照らし出される。
水もしたたる……なんて言葉があるらしいが、今の彼は、月光よりも眩い、いい男だった。
「やあ、ライさん。来てくれたんですね」
「来いと言われたからな」
「……あれ? 昼間の犬くんは?」
「ルーグは……早々に寝てしまった」
嘘だった。アッシュに会いに行くとわかると、猛烈に嫌がったのだ。
いつもはライの側を離れようとしないのに、珍しい……。
「そうか、残念……でも、ライさんに用事があったしね」
からっと笑うアッシュに、ライはなぜか身構えた。
(この男……顔は笑っているのに、何故か空気が張り詰めている……)
昼からずっと、この緊迫感を感じてひりひりしていた。
あれだけ明るく朗らかに接していたが、ライに対するときだけ、妙に固くなるのだった。
仕事に集中している時でさえ、気を抜けなかった。
アッシュが工房から帰った後ですら、だ。
「……それで、秘密の用とはいったい何だろうか?」
自分から切り出してさっさと終わらせようとした。こうなったら、アッシュの口からどんな言葉が飛び出そうと驚くまい――そう決めた。
たとえ、この場で「魔王よ、滅びろ」と言われたとしても。
ライの緊張を感じ取ったのか、アッシュも愛想笑いを引っ込めた。
そして、背中に抱えていた大きな荷物を下ろして、その場で解いた。
中から出てきたのは、片手持ちも両手持ちも可能な比較的細身の剣だった。
(この剣は……見覚えはないが、纏う空気に覚えがある……)
「この剣は、まさか……!」
アッシュは、コクリとうなずいた。
「これは、勇者の聖剣……歴代勇者に受け継がれてきた、魔族たちと戦うために作られたものです」
ライも実物を見たのは初めてだ。今にも斬り伏せられそうな威圧感を覚える。
そのまま包みをほどいていくと、剣の姿が露わになる。
だが刀身は、想像の半分ほどしかなかった。残り半分は包みの中だ。
「……うん?」
ライは二つある刀身を見比べた。それでも事情が飲み込めない。
そんなライに向けて、アッシュはにっこり笑った。
「折れちゃった」
いたずらっぽくそう言われても、困る。
というよりも『折れちゃった』からどうしろというのか。まさか、と背筋がひやりとした。
アッシュは太陽のような笑顔のまま、ライに告げた。
「ライさん、これを直してくれませんか?」
炉に入った火はまだ落とされてはいない。
ライが来るまでの数日、夜を徹しての作業が続いていたらしい。それほどに大口の依頼であり、とんでもない量だった。
だが、ライが奇跡的なスピードで次々仕上げていくおかげで目処が立ったらしい。
一番の功労者であるライが、真っ先に休憩を勧められたのだった。
(夜通し働いていた彼らこそ休めばいいものを……人間とは不可思議だ)
実際、ライはそれほど疲れていない。
エルガディアで趣味の鍛冶場を作ったのも、純粋に楽しんでいるからだ。
本当なら他の者に順番を譲って自分は作業を続けたかった。だが今、ありがたく請けることにしていた。
あの男に呼び出されていたからだ。
水車と鎚の音が聞こえなくなった村の外れ……古びた空き家に、彼はいた。
昼間と同じ、勇者らしい快活な笑顔が月明かりに照らし出される。
水もしたたる……なんて言葉があるらしいが、今の彼は、月光よりも眩い、いい男だった。
「やあ、ライさん。来てくれたんですね」
「来いと言われたからな」
「……あれ? 昼間の犬くんは?」
「ルーグは……早々に寝てしまった」
嘘だった。アッシュに会いに行くとわかると、猛烈に嫌がったのだ。
いつもはライの側を離れようとしないのに、珍しい……。
「そうか、残念……でも、ライさんに用事があったしね」
からっと笑うアッシュに、ライはなぜか身構えた。
(この男……顔は笑っているのに、何故か空気が張り詰めている……)
昼からずっと、この緊迫感を感じてひりひりしていた。
あれだけ明るく朗らかに接していたが、ライに対するときだけ、妙に固くなるのだった。
仕事に集中している時でさえ、気を抜けなかった。
アッシュが工房から帰った後ですら、だ。
「……それで、秘密の用とはいったい何だろうか?」
自分から切り出してさっさと終わらせようとした。こうなったら、アッシュの口からどんな言葉が飛び出そうと驚くまい――そう決めた。
たとえ、この場で「魔王よ、滅びろ」と言われたとしても。
ライの緊張を感じ取ったのか、アッシュも愛想笑いを引っ込めた。
そして、背中に抱えていた大きな荷物を下ろして、その場で解いた。
中から出てきたのは、片手持ちも両手持ちも可能な比較的細身の剣だった。
(この剣は……見覚えはないが、纏う空気に覚えがある……)
「この剣は、まさか……!」
アッシュは、コクリとうなずいた。
「これは、勇者の聖剣……歴代勇者に受け継がれてきた、魔族たちと戦うために作られたものです」
ライも実物を見たのは初めてだ。今にも斬り伏せられそうな威圧感を覚える。
そのまま包みをほどいていくと、剣の姿が露わになる。
だが刀身は、想像の半分ほどしかなかった。残り半分は包みの中だ。
「……うん?」
ライは二つある刀身を見比べた。それでも事情が飲み込めない。
そんなライに向けて、アッシュはにっこり笑った。
「折れちゃった」
いたずらっぽくそう言われても、困る。
というよりも『折れちゃった』からどうしろというのか。まさか、と背筋がひやりとした。
アッシュは太陽のような笑顔のまま、ライに告げた。
「ライさん、これを直してくれませんか?」
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