副業の（魔）王様！ ～人間界出稼ぎライフはじめました～

第2章 鍛冶屋の（魔）王様

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　技術的問題じゃない。それならゲルハルトの腕があれば充分だろうと思っている。
　ただ、どうしても必要なものがあるのだ。人間たちには絶対に手に入れられないだろうものが。
　それは、魔王の角――。
　この剣は、その昔、魔王の角と鋼から鍛えた逸品なのだ。人間たちには違うように伝わっているらしいが。
　歴代魔王に伝わる話だと、勇者と戦った末に、魔王は角を折られたのだとか。勇者はその角を使って剣を作り出したと言われている。
　正直、ライとしても、もっと大事に扱って欲しいところではある。
（だが、だからこそ、俺には修繕する手立てがある。というより、この剣の行く末を握っているのは俺なんじゃないのか？）
　魔王級の角など、今はライの角しかない。
　聖剣は、ライたちエルガディアの民にとっては脅威でしかない。ならば――
「すまない。さすがに俺には荷が重い。だいいち、これほどの剣ではそこらの鉄や鋼でも難しいだろうし……」
「素材ならあります」
　叫ぶアッシュは、懐から小さな袋を取り出した。その中からコロンと塊が落ちてくる。
「ほら、これ！　『魔王の角』です。以前、魔王……たぶん今の魔王の前の魔王と戦った時に切り落としたんです。聖剣の修理には、コレが要るんですよね？」
　折れて形が変わっているが、確かに先代魔王の角だ。そこから放たれる魔力は、先代から発せられていたものに違いない。
　これで材料は揃ってしまったわけだが……。
「……さっきも言った通り、俺では技術が足りない。他を当たってくれ」
「お願いします！　他に頼れる人がいないんです～」★
「……大事な品を壊したんだ。大人しく怒られろ」
「そこを何とか……！」
　歩き去ろうとするライに、アッシュが縋り付いてくる。歩けない。
（なんで魔王が魔王退治の剣を直さなければならないんだ。だいたい、あの剣は……）
　あの剣は、ライには直せないのだ。技術的な問題じゃなくて、魔力の問題で。
　そのことに思い至り、ライはしばい考え込んだ。
（そうか……その手があったか）
　考えて見れば、これほどの好機はない。
　勇者はこちらの正体に気付いていない。ライたちに対抗する最重要武器は壊れている。そしてその武器は、ライの手に渡ろうとしている。
　ライはくるりと振り返って、目一杯の笑顔を浮かべた。
「わかった。伝説の聖剣を修理できるなんて、これほどの僥倖はない。ぜひ、俺に任せてくれ」
「ライさん……ありがとう！」
　アッシュの手が、ライの両手を包んでぎゅっと握りしめてくる。
　さすがは勇者。さすがのライでも痛い。
　だがライは、笑顔を崩さなかった。
　今は、友好的に接するべき時だ……。