副業の(魔)王様! ~人間界出稼ぎライフはじめました~

真鳥カノ

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第3章 占いの(魔)王様

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 よく見ると、村人の姿はまばらだった。
 規模は先日のカリナ村と似たものだったが、見かける人の数は半分ほどしかいない。
 というより、いると思っていた人影が見えない。
 若い男だ。
 広場を行き交うのも、畑を耕すのも、洗濯をするのも、水を汲むのも、すべて女だった。かろうじて男もいるが、年老いている。
「変な村っすね」
 ルーグが、ライの足下からぼそっと呟く。あまり話さないでほしいが……それでも、ライの抱いた疑念を代弁してくれた。
 そして、その疑念は驚きに変わる。
「あれは……!」
 身の丈に合わない鍬を振り上げた女性がいた。その先にある家のドアに下がっている飾りが、きらりと光る。
 小さな石がピカピカに磨かれ、そして淡い光を放っているのだ。
(あれは……魔鉱石⁉)
 鉄や鋼と違って、魔鉱石は石だ。ただし、魔力を帯びている。山脈の北側……エルガディアではよく採れる。
 逆に南側の鉱山ではめったに採れないはずだ。
 だが、よく見ると村のあちこちのドアにぶら下がっている。どれも魔力を帯びてぼんやりと光を放っている。
 男手がおらず、貴重なはずの魔鉱石をいくつも持つ村……奇妙としか言いようがない。
 そして、それは最高潮になる。
 依頼書に書かれていた、依頼人の家と似た家に辿りついた。
「占い師ソフィー……間違いないな」
 家の前の看板を確認し、ドアをノックした。
 だが……返事はない。
「誰か……ソフィーとやらはいるだろうか。依頼を受けに来たんだが……」
 声をかけると、奥で音がした。
 何かが割れる音、それに蠢くような音だ。尋常な様子じゃないことは、確かだ。
「失礼。入るぞ」
 鍵はかかっていない。
 ライはドアを開けて踏み込んだ。
 見たところ、誰もいない。
 だが、家の奥からかろうじて声が聞こえる。
 声と言うよりも吐息に近い。必死に呼吸をしているような音が聞こえた。
「誰かいるのか?」
 そろりと、奥の部屋を覗いてみる。
 そこは寝室だった。
 だが、人影は見えない。
 部屋の中まで足を踏み入れると……ベッドの向こうから音がした。
「そこか?」
 覗き込むと、ようやく人の姿を見つけることができた。
 寝間着姿の老婆が、うずくまって青ざめて、ガタガタ震えている。
 いよいよ異様な光景だ。
「おい、どうした? 何があった?」
「……が来る」
「なに? 何が来るって?」
 ルーグを振り返るも、キョトンとしている。
 何か脅威になりそうなものが近くにいる様子はない。
「黒い化け物が、来る……!」
「『黒い化け物』だと? それはいったい……」
 落ち着かせなければ……そう思い、老婆の正面に回り込んだ、その時だった。
「ひやあぁぁぁぁ!!『化け物』が来たぁ!!」
 と叫んで、老婆は這々の体でライの前から逃げ出した。まったく進んでいないが。
 目の前で叫んで逃げられて……ライは、ようやく事態が飲み込めた。
「……『化け物』とは、俺か……」
 納得して、次になんだかもの悲しくなった。
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