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第3章 占いの(魔)王様
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「おーい、ライさん。これ、運んでおくれよ」
「わかった」
「あと、あっちの柵、直してもらってもいいかい?」
「ああ、わかった」
「あとね、水汲みお願い、それが終わったら畑耕すのを手伝ってほしいんだよ。ああ、あと薪割りもお願いしたいねぇ」
「……承知した」
なんだか、さっきとやってることが変わらない気がする。
(まぁ、これくらい大したことはない。報酬がもらえるなら何でもやるさ)
とはいえ、何のためにここに来たのか、わからなくなってくる……。
畑の近くまで連れてきたルーグが、首を傾げている。
「ご主人、何のお仕事っすか?」と思っているのがありありとわかる。
(俺が欲しいのはやりがいや名誉じゃない。報酬だ)
そう思って、身体を動かすことに集中する。
だが、仕事を頼まれれば頼まれるほど、疑問が湧く。
ライが頼まれるのは、すべて力仕事。それも日常的な作業だ。
(この仕事を担う男手はいないのか)
そう思い、休憩時に尋ねてみた。すると……
「ああ、出稼ぎに行ってるんだよ」
「なるほど、出稼ぎ……どこへ?」
「北の鉱山だよ。ほら、山脈の南側は鉱脈がたくさんあるだろ?」
「ああ、グランゼル……じゃなくて、オルディナ山脈の……」
「そうそう」
危なかった。大陸を南北で分断する山脈は、北と南で呼び名が違うのだ。南側での呼び名を知ったのは、つい最近だった。
ほっと胸をなで下ろすが、幸い、おばさんは気付いていないようだった。
「大きな鉄の鉱脈が見つかったとかでね。タナス王国が大々的に人手を集めてたのさ。うちみたいなリュシオンの村にまでね」
「タナス王国……山脈のすぐ南に位置する国か。オルディナ山脈の豊かな鉱山資源をほぼ独占しているという……」
「ああ、リュシオン王国の鉱脈も買い上げたって噂さ。まぁ、私らにとっちゃ、ちゃんと金を払ってもらえるなら何でもいいんだけどね」
「……わかる」
おばさんが渡してくれた水をぐいっと飲んで、頷いた。
「なるほど。ここで畑を耕すよりも、鉱山で稼ぐ方が実入りがいい。それで男たちはこぞって行ってしまったと……」
「その通り。儲かるからありがたいんだけど……ねぇ」
おばさんは言葉を濁した。そっと、胸もとのペンダントを撫でている。
「……それは?」
ライがペンダントを指さすと、おばさんは外して見せてくれた。
「鉱山で鉄と一緒に採れるんだってさ。加工もしにくいし、磨いても光るわけじゃないから、採れても捨てちまうんだって。捨てるくらいならって、男たちは持って帰ることが多いんだよ」
夕闇のような淡い藍色の石だ。この色には、見覚えがある。
「……触っても、いいか?」
「ああ、いいよ」
ライはおばさんからペンダントを受け取り、手のひらで転がしてみる。
「磨いたらなかなかキレイだろう? 男たちが帰ってくる度にくれるもんだからさ、女たちがこうして首飾りや御守り石にしてるんだ」
「御守り石?」
「村の中で見なかったかい? だいたい、どこの家もドアや柱に飾ってるもんさ。男たちが持ち帰ったものだからさ、次も無事に帰ってきますようにってね」
「なるほど」
鉱山の仕事は確かに実入りが良い。だがその分、危険が伴う。
無事に帰ってくれば喜ばしいが、再び出立するとなると、女たちの心中は穏やかじゃないだろう。
「それで御守り石か」
「そうそう。男たちを無事に連れ帰ってくれた石だからね。まぁ、私らが勝手にそう思ってるだけなんだけどさ」
あはは、と朗らかに笑うおばさんに、ライは薄く微笑んで見せた。
「いや、あながち間違ってもいないと思うぞ」
「え? なんて?」
ライの声は聞こえなかったらしい。
だがライは、言い直すことも、ごまかすこともしなかった。
ただ手元にある淡い色の石の感触を確かめていた。そして、確信した。
(間違いない。魔石だ)
「わかった」
「あと、あっちの柵、直してもらってもいいかい?」
「ああ、わかった」
「あとね、水汲みお願い、それが終わったら畑耕すのを手伝ってほしいんだよ。ああ、あと薪割りもお願いしたいねぇ」
「……承知した」
なんだか、さっきとやってることが変わらない気がする。
(まぁ、これくらい大したことはない。報酬がもらえるなら何でもやるさ)
とはいえ、何のためにここに来たのか、わからなくなってくる……。
畑の近くまで連れてきたルーグが、首を傾げている。
「ご主人、何のお仕事っすか?」と思っているのがありありとわかる。
(俺が欲しいのはやりがいや名誉じゃない。報酬だ)
そう思って、身体を動かすことに集中する。
だが、仕事を頼まれれば頼まれるほど、疑問が湧く。
ライが頼まれるのは、すべて力仕事。それも日常的な作業だ。
(この仕事を担う男手はいないのか)
そう思い、休憩時に尋ねてみた。すると……
「ああ、出稼ぎに行ってるんだよ」
「なるほど、出稼ぎ……どこへ?」
「北の鉱山だよ。ほら、山脈の南側は鉱脈がたくさんあるだろ?」
「ああ、グランゼル……じゃなくて、オルディナ山脈の……」
「そうそう」
危なかった。大陸を南北で分断する山脈は、北と南で呼び名が違うのだ。南側での呼び名を知ったのは、つい最近だった。
ほっと胸をなで下ろすが、幸い、おばさんは気付いていないようだった。
「大きな鉄の鉱脈が見つかったとかでね。タナス王国が大々的に人手を集めてたのさ。うちみたいなリュシオンの村にまでね」
「タナス王国……山脈のすぐ南に位置する国か。オルディナ山脈の豊かな鉱山資源をほぼ独占しているという……」
「ああ、リュシオン王国の鉱脈も買い上げたって噂さ。まぁ、私らにとっちゃ、ちゃんと金を払ってもらえるなら何でもいいんだけどね」
「……わかる」
おばさんが渡してくれた水をぐいっと飲んで、頷いた。
「なるほど。ここで畑を耕すよりも、鉱山で稼ぐ方が実入りがいい。それで男たちはこぞって行ってしまったと……」
「その通り。儲かるからありがたいんだけど……ねぇ」
おばさんは言葉を濁した。そっと、胸もとのペンダントを撫でている。
「……それは?」
ライがペンダントを指さすと、おばさんは外して見せてくれた。
「鉱山で鉄と一緒に採れるんだってさ。加工もしにくいし、磨いても光るわけじゃないから、採れても捨てちまうんだって。捨てるくらいならって、男たちは持って帰ることが多いんだよ」
夕闇のような淡い藍色の石だ。この色には、見覚えがある。
「……触っても、いいか?」
「ああ、いいよ」
ライはおばさんからペンダントを受け取り、手のひらで転がしてみる。
「磨いたらなかなかキレイだろう? 男たちが帰ってくる度にくれるもんだからさ、女たちがこうして首飾りや御守り石にしてるんだ」
「御守り石?」
「村の中で見なかったかい? だいたい、どこの家もドアや柱に飾ってるもんさ。男たちが持ち帰ったものだからさ、次も無事に帰ってきますようにってね」
「なるほど」
鉱山の仕事は確かに実入りが良い。だがその分、危険が伴う。
無事に帰ってくれば喜ばしいが、再び出立するとなると、女たちの心中は穏やかじゃないだろう。
「それで御守り石か」
「そうそう。男たちを無事に連れ帰ってくれた石だからね。まぁ、私らが勝手にそう思ってるだけなんだけどさ」
あはは、と朗らかに笑うおばさんに、ライは薄く微笑んで見せた。
「いや、あながち間違ってもいないと思うぞ」
「え? なんて?」
ライの声は聞こえなかったらしい。
だがライは、言い直すことも、ごまかすこともしなかった。
ただ手元にある淡い色の石の感触を確かめていた。そして、確信した。
(間違いない。魔石だ)
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