魔帝

yoh_okazaki

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魔帝

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この世は悪魔の砦
木兎が鳴く真夜の島に
大きな館があり
魔帝が一人
煙草を乾かしている
吸うのではなく
鬼族に売るのだ

魔帝は生まれつき魔帝で
電気代などの心配もなく
乳母に導かれて
三面記事に載ることを
誇りとするような
こそ泥をしたり
素っ裸でこの小さな島の
ぐるりを駆け抜けたことも
伝説になったりした
結構お茶目な
奴だった

悪魔たちは悪事に多忙
魔帝はひとりレゴブロック
乳母がはした金で買う
乳母の趣味の知育玩具で
そだったものだから
それに、
魔帝は魔王と乳母の間の子
(と噂されていた)
魔女はバカだったのだが
魔帝は賢かった
魔法のパッドでお絵描きしたり
鉄棒が得意で
ぐるんぐるんまわってた
そのため、
三半規管がやられていて
少し傾いた歩み方
しかしそれも愛らしい

魔帝はひとり
空を見るのが好きだった
乳母の買い与えた
望遠鏡で
星空を夜じゅう眺めた木兎と
友だちになるくらいには
乳母は星取表も与えた
星座表とまちがえたのだ
大して変わらない、と魔帝は
乳母を笑った
乳母も笑った

長ずるに魔帝は
貧相ななりになった
まるで貧乏な学者のようだった
本物の学者はなべて
貧乏と決まっている
つまり魔帝は
学者になっていってた

その頃には魔帝はすっかり
変わり者のレッテルが貼られ
(背中に瞬間接着剤で)
煙草を乾かしながら
月を見ていた
星を見ていた
何もない空間にも
何かを見ていた

魔帝の太ももより太い
望遠鏡もボロくなる頃
魔王がいない
魔女は狂い
乳母は去った
この島で
魔帝は強烈に
寂しくなった
鬼族にやる煙草の
葉を育てる畑も荒れ果て
鬼族も去った
この島で、
魔帝は一人ぼっちだった

ぐるりを海で囲まれた
この島から
魔帝は出たことがなく
レゴブロックで作る船は
魔帝を乗せきれなかった
星をよく見るために
磨きすぎた望遠鏡のレンズも割れ
魔帝は裸眼で星を見た
それにも飽きなかったけど
それでも誰かに会いたかった
それが誰なのかは、
魔帝自身よくわからなかった

それから数百年
魔帝の遺体は館の天井裏に
放っておかれた
時折木兎が訪れたが
魔帝が起き上がることはない
完璧に死んでいた
その点では魔帝は
正しく
孤独だったのだと
噂だけが流れた

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