憂い視線のその先に

雪村こはる

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見据える未来、払拭できない過去

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 2時間ほど仮眠をとったら、熟睡できたようですっかり体は楽になっていた。このところ帰宅もできなかったから、いい気分転換になったと千愛希に感謝した。

 夕方になり事務所に戻ると、コーヒーの匂いが漂っていた。甘みのない、豆の匂い。懐かしい匂いだった。千愛希と仕事をしていた頃は、毎日この匂いが漂っていた。
 睦月は仕事中、利尿作用のあるコーヒーを飲まない。デスクから離れることを嫌うのだ。少しでも仕事を進めたい。その気持ちから、席を立つ理由になるものは排除する習慣がついている。

 勤務中は集中し、できるだけ定時で上がる。それをモットーにしている睦月にとっては慣れたものだ。ただ、このところそんなモットーも覆すほどの多忙さに参っているのも事実だった。

「すまない、1人で作業をさせて」

 そう声をかければ、余裕そうにも見える千愛希が紙コップを口につけていた。

「あ、勝手にいただいてます」

「ああ、好きにしてくれ。どんな具合かな……」

「とりあえず、ウィルスは全て排除して新たに私が使っているウイルスバスターを入れておきました。今までよりも強化されているので大丈夫だと思います」

「そうか。……ありがとう」

「いえ。それで曽根さん」

「ん?」

「お昼ご飯食べました?」

「え? ああ……軽く」

「じゃあ、夕御飯を食べに行きましょう」

「は!?」

 千愛希の言葉に睦月は目を真ん丸くさせた。これから膨大な作業に追われると思っていたのだから、睦月が驚くのも当然だった。

 千愛希は残りのコーヒーを飲み干すと、それをゴミ箱に放り投げ「さぁ、行きますよ」と立ち上がった。
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