憂い視線のその先に

雪村こはる

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見据える未来、払拭できない過去

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 律が帰宅した時には、実家の明かりは全て消えていた。寝静まった空間を通り抜け、律はざっとシャワーを浴びて眠りについた。

 目覚ましもかけずに寝たものだから、目が覚めた時には昼前だった。帰宅してから暫く千愛希の姿が頭から離れなかったのだ。
 寝付けずにいたのだが、いつの間にか眠ってしまったようだと思いながら、重たい体でリビングへ向かった。

「あ、律くんおはよう。昨日は遅くに帰ってきたのかな」

 ドアを開けた瞬間、美しい笑顔を見せたまどか。まどかが来ていることを知らなかった律は驚いたが、それとは別に目を大きく見開いた。

「あれ? 律いたの?」

 後ろから声が聞こえ、振り返れば周の姿。シャワーを浴びてきたのか、濡れた髪をフェイスタオルで拭いながら律の横を通り過ぎた。

「お腹減った。律、もうお昼だよ。いつも早起きなのに珍しいね」

「ああ、うん……。昨日帰り遅くなったから」

「ふーん。まどかさん、もうご飯できる?」

 いつも通り、律には興味のなさそうな周が真っ直ぐまどかに近付き、身を寄せる。鼻先を突き出して、まどかにキスをねだる。

「もう、あまねくん。髪の毛まだ濡れてる。先に乾かしてきてよね」

 そう言いながらもまどかは、周の頭をわしゃわしゃとタオルで拭ってやる。気持ち良さそうに目を細める周。その幸せそうな、甘い雰囲気を感じ、律はひどく混乱した。

 あ……れ?
 なんだ……なんでだ……。

 混乱は動揺を招き、ぶわっと嫌な汗まで滲んだ。律はじっとまどかを見つめる。それから、周にも視線を移す。いつもなら微笑ましく思いながらもチクチクと痛む胸。早くこの感情が治まらないかと思いながらも熱くなる胸の鼓動を感じるはずだった。
 それがおかしなことに全くなくなっていたのだ。予期せぬまどかの姿を見たら、心踊るようなそんな歓喜に満ちた感情が沸き上がったはず。なのにそれがなかった。まず1つ目の違和感。周を愛しそうに見つめるまどかの視線を見たら、胸が苦しくなったはず。それもない。2つ目の違和感。

 明らかにおかしいのは、まどかにも周にも何の感情も沸かなかったこと。ああ、いつも通り、朝から元気だね。そんなふうに思っただけだった。
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