憂い視線のその先に

勘違いがいっぱい

14

　その前には先程千愛希が送ったメッセージへの返信が入っていた。

『6人で飲んでるの？　何時頃終わる？』

　それに対して返信がなかったから再度送ってきたのだろうと思った千愛希はキツくスマートフォンを握った。

「どうかした？」

　千愛希の異変に気付いた大崎は、スマートフォンを覗き込む。チラリと見えた内容にふっと柔らかく笑みをこぼした。

「律くん？」

「えっ、あ、はい……」

「行ってきたら？」

「へ!?」

　意外な言葉に千愛希は目を丸くさせた。大崎は一口酒を口にして「俺ならタクシーでいいっていつも言ってるでしょ」と言った。
　千愛希はぐっと喉を詰まらせる。あまりにもタクシーを使う頻度が多かった大崎。そんなに経費で落とせないから運転手を雇えと言った千愛希に「信用できない人間の運転する車には乗りたくないんだよ。事故ってこの世から天才が1人消えたら世の中は損するだろ？」なんて可愛げのないことを言ったものだから、千愛希が「それなら私が運転します！」と声を大にしたのだ。

「それで事故ったら天才が2人もいなくなるね」

「あと4人残るじゃないですか。我社は安泰ですよ」

「わー、酷いな。俺、一応社長なのに」

　そんな経緯を経て今に至る。その大崎がタクシーで帰るから律のもとへ行けと言ってくれているのだ。

「でも……」

「いいよ。顔は出してくれたわけだし。新井のせいで嫌な思いさせたしね。律くんに愚痴ってくるといいよ」

　からっとそう笑う大崎。睦月の案に乗り、千愛希を騙した形になったことに少なからず罪悪感を抱いていた。先程、2人が少しの間戻らなかったことから睦月が行動を起こしたのだろうと察していたが、律のメッセージを見てこんなにも嬉しそうな千愛希を見て完全に脈はないと判断した。