憂い視線のその先に

雪村こはる

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勘違いがいっぱい

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 大きく深呼吸をしてから電話をかける。暫くして「もしもし?」と声が聞こえる。その聞きたかった声に心が震えた。比較的静かな周りの音に、もう既に睦月とは一緒にいないようだと体中が喜んでいた。

「あ、千愛希? せっかくの飲み会だったのにごめん……」

 なぜか先に謝ってしまった。本当は嬉しいくせに。素直に嬉しいと言えない自分がもどかしい、と律は指先を震わす。

「ううん。今日は顔だけ出す予定だったから。それより律、会いたいって……何か大事な話?」

 律には千愛希の声が少し震えているような気がした。千愛希だって電波の向こう側では真っ赤な顔をして狼狽しているのだ。そんな状態とは知らない律は、大きく瞳を揺らした。

 動揺してる……? 大事な話って……そりゃ、俺から急に会いたいって言えば疑問に思うか。飲み会だってわかってて急に誘ったんだから、それなりの理由があるって千愛希なら察するよな。

「うん……。ちょっと、話したい」

「……わかった。じゃあ、家に来る?」

「え?」

 律はどう切り出そうかと考えていたが、意外にも家に誘ったのは千愛希の方だった。千愛希自身も中華料理の匂いが染み付いたスーツも、ニンニクを使った料理を食した口内も嫌だった。せめてシャワーと歯磨きくらい、と思っていた。一旦家に帰ってから待ち合わせ場所に行けば時間がかかる。
 律が会いたいと言ってくれている以上、千愛希も直ぐに会いたかった。

「周りに人がいたら言いにくいこともあるでしょ?」

「うん。俺も……千愛希の家に行きたいと思ってた」

 律の言葉に千愛希は呼吸が止まりそうになった。もしかしたら律も私のことを好きなんじゃないか……そう期待したのだ。

「……うん。場所わかる?」

「覚えてるよ。一度行った」

 律に送ってもらった夜のことを思い出し、お互いに赤面する。ただ、あの夜のことは双方なかったことになっているため、どちらもその話題には触れなかった。
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