憂い視線のその先に

勘違いがいっぱい

19

　一方千愛希は、大通りを来てしまったために渋滞に巻き込まれていた。いつもならもっと考慮するはずだが、こんな時ばかり頭が回らない。
　それも律の突然の申し出に動揺しているからだ。脳がより安全で正確な大通りを無意識に選択させた。渋滞に巻き込まれてしまってからあそこを左折しておけばよかったと後悔する。けれど、どこの運転手も考えることは同じで、抜け道に続く道にも既に長い列ができていた。

「……全然進まない。金曜日だもんね」

　独り言を呟いて、これは1時間じゃ支度できないぞ、と千愛希は時間をずらしてもらえるよう律に電話をかけ直した。

「もしもし？」

「ごめん、律。渋滞に巻き込まれちゃってもう少し遅くてもいい？」

「いいよ。でももう家出ちゃったから、千愛希が来るまで待ってる。ゆっくりでいいよ」

　律の言葉に、はっと息を飲む千愛希。先に律が着いたらシャワーは浴びられない。いや、シャワーを浴びたいと言ってあるのだから、上がってもらってコーヒーでも飲んで待っててもらえばいいか。なんて考え直す。

「あ、うん……。ごめんね。直ぐに行くから。待たせたらごめん」

「いいよ。それより気を付けて帰って」

　律の優しさが胸に染みる。渋滞がもどかしくて、すぐに律に会いたい気持ちが疼いた。
　早く、早く……そう思いながらブレーキペダルを踏む足に力を込めた。


　ようやくマンションの駐車場に車を止めてエントランスへ向かえば、寒い中コートを羽織った長身の男が立っているのが見える。
　一際目立つその姿は遠目に見ても律だとわかる。

　やっぱり律の方が早かったか、と愕然としながら千愛希は律に声をかけた。