憂い視線のその先に

雪村こはる

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勘違いがいっぱい

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 千愛希は自分の耳がなくなればいいと思った。鼓膜が破れて音が伝わらなくなって、律の声など聞こえなくなればいいのにと思った。
 それほどまでに律の口から好きだなんて言葉は聞きたくなかった。まどかのことが好きだと勘ぐっていても、違うかもしれない。そうも思ったのに律からの好きは確信に変わる。どこかで自分のことを好きなのかもしれないと期待していたのに、とんだ勘違いだったと羞恥心で消えてなくなってしまいたくなる。

「何でそんなこと言うの……?」

 酷いよ、律……。私の気持ちを知って面倒くさそうにしながら、それでもまだ私をまどかさんの代わりにするんだから……。
 律は変わった。前はこんなに酷い事が平気でできるような人じゃなかったのに。正義感があって、優しい律が好きだったのに……。律をこんなに狂わせるほど、まどかさんは魅力的なんだね。
 そんなの、私には絶対敵わない……。せいぜい身代わり程度ってことなんだよね。

「何でって……」

「やっぱりいい。言わなくていい……」

「え?」

「もう、会わない」

「何言って……」

「律とはもう会わない」

「……千愛希?」

 こんな時ばかり名前呼ばないでよ! 都合よく切り替えたりしないでよ!
 そう叫びたかったのに、喉がぐっと詰まり涙が止まらずヒックとおかしな呼吸をするばかりで思うように言葉が出なかった。

 律の震える指先が軽く千愛希の頬を撫でた。涙で広範囲を濡らし、目は赤く充血している。

 律は激しく狼狽した。一番避けたかった結果だった。千愛希とはもう二度と会えなくなる。それだけは絶対に嫌だった。好きになってくれなくてもいい。もう、いっそのこと友達でもいい。だから、傍にいさせてほしい。心が泣くように震えた。
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