憂い視線のその先に

勘違いがいっぱい

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「何でまた、香水なんて……」

　いくら空気が読めないとはいえ、どうしたらそんな展開になるのかと理解ができない律。千愛希は思い出したくもない、と顔をしかめたまま「シャンパンのコルクを自分で開けてたんだけど、途中で振っちゃったみたいでコルクが飛び出して私に当たったの。そのお詫びに香水をくれるって言われて……しかも、自分がプレゼントされたもの」と言った。

「……そんな人間、存在するの？」

「してるの。しかも経営者の1人だよ」

「大丈夫？　今の会社……」

「他の4人はまともだと思うから……それに、経営も営業も絶対向いてないけどプレイヤーとしては天才なんだ」

「あー……なるほど」

　ようやく納得した律は、心配そうに「コルクが当たったところは傷になったりしてないんだよね？」と続けた。

「どうだろ……凄く痛かったけど、今はもう平気。自分じゃ見えないところだから確認もしていなくて」

「どこ？」

　上から見下ろしたままの律は、小首を傾げて千愛希の目を見つめる。千愛希は一瞬合った視線をパッと逸らした。鎖骨のすぐ下だが、そのためには胸元を開かなければならない、と羞恥心に駆られた。
　けれど、まどかの身代わりではないと律の口から聞いた今、それなら……とボタンを外して胸元を開いた。

「鎖骨のすぐ下辺りなんだけど……顔に当たらなかっただけよかったかも。メイクで隠せないところだと暴力を疑われても困るから」

　ははっと乾いた笑いを漏らした千愛希に、律は目を丸くさせた。千愛希の見せた胸元は赤紫色に内出血しており、表皮が少し剥けていた。腫れて膨隆しているのがわかる。どう見ても何かにぶつけたような痕だった。