憂い視線のその先に

雪村こはる

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勘違いがいっぱい

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 再び泣き始めた千愛希に慌てふためく律は、「ご、ごめっ……今日、泣かせてばかりで……本当ごめん。嫌な思いいっぱいさせた」と謝罪し許しを乞う。

 千愛希はぎゅっと目を瞑って一旦奥歯を噛み締めると、「私っ、苦しかった……だって、律ってばまどかさんのこと好きだったんだもん!」と叫んだ。

「……うん」

「私だってまどかさんのこと好きだけどっ、律がまどかさんばっかり見てるの嫌だった……」

「うん……」

「だからっ、髪型だって化粧だって変えたのにっ……律、前の方がよかったって……よかったって言った!」

 うわぁっと泣き喚く千愛希に、律は目を見開いて喉を鳴らした。千愛希の気持ちを察した律は、胸が締め付けられるように痛んで、思わず千愛希を抱きしめた。
 上からのしかかる律の体。フローリングで冷えた千愛希の背中が律の腕によって熱に包まれた。

「ごめっ……そんなつもりで言ったわけじゃなかった。ちゃんと、見てたよ。千愛希のこと。会う度に綺麗になるから、心配になった。前の方がよかったって言ったのは……まどかさんに似てるからじゃないよ。どんどん綺麗になる千愛希を、誰にも見せたくなかったから……」

「り……つ?」

「千愛希は気付いてないかもしれないけど……街中を一緒に歩くと、通り過ぎる男達は皆振り返って千愛希を見るんだ」

「そんなこと……」

「周だって見とれてた」

「そんなわけっ」

「曽根さんだって! きっと綺麗だって思ってる……」

「……律?」

「千愛希が頑張って魅力を高めるのも、見ていてそわそわする。俺は……千愛希の見た目だけに惹かれたわけじゃないから……」

「……り、つ」

「まどかさんに似せてても、似てなくてもそんなことどうでもいいんだ。でも……千愛希の魅力を他の男には知られたくない。前は、俺しか知らない千愛希がいっぱいいた気がするから……だから、あんなこと言った……。傷付けてごめんね」

 耳元で聞こえる律の声に、更に千愛希の涙は溢れた。頬を伝って耳を濡らし、髪を濡らし、律の頬にも流れた。
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