憂い視線のその先に

雪村こはる

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最恐の男

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「天才は天才らしく仕事だけしてろよ」

 律は目を細めて、尚も作業を繰り返す。
 何か残されているのであれば、睦月がそれを消す前になんとか証拠が欲しいと律はとにかく急いだ。指先が痛くなろうとも、手首に負担がかかろうともできるだけ速く、タイピングに集中する。

 1時間ほど経ち、カチャッと音を立て指を止めた。律はようやくホッと胸を撫で下ろした。どうやら無事に睦月の社用パソコンに侵入できたようだった。
 千愛希に教えてもらっておいて正解だったな。と律は少しだけ頬を緩めた。

 あまり他者に偵察されたという証拠を残したくない律は、ある程度の標的を決めて中身を探る。盗聴もハッキングも立派な犯罪だとはわかっているが、もしも千愛希が何かに巻き込まれそうになっているのであれば、自分の頭脳と技術を最大限に活かして恋人を守ることは当然だと律は思う。

 大した時間もかからず、律は防犯カメラの映像にたどり着いた。

「まぁ……あるだろうね。盗聴器がしかけられていたくらいだし。というより、あれだけ大きな会社にしといて今までのセキュリティが甘すぎたんだよね」

 ブツブツと呟きながら、律は防犯カメラの映像を見て回った。それから、応接室らしき部屋を見つけると、午前中の時間まで遡る。
 しかしそこに千愛希の姿はなかった。

「んー」

 おかしいな、と律はその前後を行ったり来たりと巻き戻し、早送りを繰り返す。それでもやはり画面に千愛希の姿はない。けれどそのまま再生を続けていると、不自然に映像が繋がる部分があった。

 ああ、抜き取られたわけか。と納得した律は、そのデータを探す作業に移った。
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