憂い視線のその先に

雪村こはる

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最恐の男

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 睦月は電話を切った後、暫く放心していた。何が起こったのか全く理解できなかったのだ。律と自分では専門分野が異なる。パソコンに関しては誰よりも優れた知識と技術をもっていると自負もあった。
 そんな人間ばかりが集まってこの会社を立ち上げたのだ。その辺の弁護士に負けるはずがないと信じられなかった。

 ハッキングされたことがまず1点、それから千愛希の動画がパソコン内に入っていると知られていたことが1点。なぜこんなにも行動が筒抜けなのかと恐ろしくなる。もしや、ここの防犯カメラさえも乗っ取られているのでは、とそろりと視線を1つの防犯カメラに移す。
 黒いレンズが律の冷たい目のようで、睦月は慌てて目線を下げた。

 どうなってんだ!?

 未だ正常に働かない思考回路で必死に考えた。しかし、すぐに今更自分の行為がなかったことになるわけでもないし、明日は会う約束まで取り付けてしまったと肩を落とす。

 こんな展開になろうとは誰が想像するだろうかと頭を抱えた。経営者でありながら部下の着替えを盗撮していたとなれば逮捕される案件でもある。仮に千愛希が律からこのことを聞いて被害届でもだそうものなら、会社にも多大な迷惑をかけることになると今になって自分の愚かさに気付く。

 睦月は暫く頭を抱えてデスクの上に伏せていたが、ついに諦めてパソコンの電源を落とすとパソコン画面のように暗い顔をしながら家までの帰路を辿った。

 帰宅後は生きた心地がしないまま、シャワーを浴びる。スマートフォンを見つめれば、特に変わったこともなく、律の着信履歴が残っているだけ。
 本来だったら今頃、千愛希の動画を綺麗に修正して、手に入れたストッキングと共に千愛希の存在を近くに感じているはずだった。
 睦月は思い通りにいかなかった虚無感と、恐怖に苛まれながらストッキングをギュッと胸に抱きしめ、縋るようにして眠った。
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