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友人の悩み
【26】
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あまねくんの出勤を見送ってから私はカフェインレスのお茶を淹れた。
そこでふと視線を下げた。今日は燃えるゴミの日だから、出そうと思ってまとめていたゴミ袋をキッチンに置き去りにしていたのを発見したのだ。
忘れてた!
生ゴミは丸焦げになった魚をまとめて、いらなくなった衣類と一緒にあまねくんが出勤前に出してくれたはず。
時計を見れば、ゴミ収集車が到着するまであと20分はある。
よかった。急いで出してこよう。
私はゴミ袋を持ってエレベーターを降りる。ゴミ置き場に行くと、誰かがそこにしゃがみ込んでいた。
……何してるんだろう?
ゴミを出すだけならそこに留まる必要はない。そのため違和感を覚えて静かに近付く。
女の人? 若い女性と思われる後ろ姿。その人物はさっと立ち上がり、両手で何かを広げた。
「あれって……」
思わず声が出てしまったのは、その掲げた服に見覚えがあったから。
あまねくんのTシャツ? 引っ越しするから、古いのはもう捨てると言ってまとめた中にあった気がした。
それをどうするのだろうかと見ていたら、顔にそのTシャツを押しあてていた。
ぎょっとして、数歩後退る。
ここで私は、まさか……と思い浮かべた人物がいる。
そうかもしれないと思えば思うほど彼女にしか見えなかった。
ちらっと見えた横顔。そしてあの小柄で華奢な体格。きっと間違いない。……陽菜ちゃんだ。
嘘だよね……。あまねくんの服を漁って、匂いを嗅いで、何をしているんだろう。
被るタイプのパーカーを見つけ、頭から被っている。袖を通してぶかぶかのその服を自分の体ごと抱き締めていた。
陽菜ちゃんの腕より長い袖で両頬を覆い、その場で飛び跳ねている。
これは……。間違いなくストーカー行為だ。私も被害経験のあるストーカー行為だ。
私は、ポケットの中に入れてあったスマホを取り出し、数枚写真を撮った。
陽菜ちゃん、さすがにそれは気持ち悪いよ。
他のゴミ袋も開き、あまねくんのボクサーパンツを見つける。それも同じように顔に持っていく。
せめて家でやれと思いながら、ぞっとして腕を擦った。
靴下やタオルも取り出し、別のバッグに詰めている。
それ、持って帰るの? とても嫌な気持ちになって、その場であまねくんにメッセージを送った。あまねくんのパーカーを着て、あまねくんのボクサーパンツを持っている陽菜ちゃんの写真を添付して。
〔あまねくん、お疲れ様。大変だよ。ゴミ置き場に変質者が出没しました〕
〔何? 誰?(笑)〕
直ぐに返信が来る。この状況をわかっていない彼は、そんな悠長なメッセージを送ってくる。
〔ひなちゃん。あまねくんのパーカー着て、パンツの匂い嗅いでるよ〕
〔直ぐに部屋に戻ってじっとしてなさい!〕
数秒できた返信。このゴミは来週出そうと、私は出すことのできなかったゴミ袋をもって部屋に戻った。
丁度そのタイミングで電話が鳴る。
「もしもし、まどかさん!?」
「あー、あまねくん」
「ちょっ、どういうこと!?」
「知らないよ。出し忘れてたゴミを出しに行ったらゴミ置き場で変態行為に勤しんでたよ」
「あの女……すっげぇ気持ち悪い!」
あまねくんが私のものを収集しているのも似たような行為だとは口が裂けても言えないが、私とあまねくんの間には愛が存在するのでこの際よしとしよう。
「もう今日荷物まとめて実家に行くよ!」
「うん。この家とお別れかと思うと寂しくなるね」
「そんなこと言ってる場合じゃないから! あー、気持ち悪い。俺、今すっげぇ鳥肌立ってんだけど」
「私もさっきまで寒気が止まらなかったよ」
「とりあえず俺が戻るまで家から出ないでよ?」
「わかった。帰ってくるの待ってるね」
「誰か来ても開けちゃダメだよ? 居留守使って」
「はい!」
あまねくんの忠告を聞き入れ、私は持ってかえってきたゴミ袋をもとの場所に戻す。あまねくんも変な子に好かれたもんだと深く溜め息をついた。
そこでふと視線を下げた。今日は燃えるゴミの日だから、出そうと思ってまとめていたゴミ袋をキッチンに置き去りにしていたのを発見したのだ。
忘れてた!
生ゴミは丸焦げになった魚をまとめて、いらなくなった衣類と一緒にあまねくんが出勤前に出してくれたはず。
時計を見れば、ゴミ収集車が到着するまであと20分はある。
よかった。急いで出してこよう。
私はゴミ袋を持ってエレベーターを降りる。ゴミ置き場に行くと、誰かがそこにしゃがみ込んでいた。
……何してるんだろう?
ゴミを出すだけならそこに留まる必要はない。そのため違和感を覚えて静かに近付く。
女の人? 若い女性と思われる後ろ姿。その人物はさっと立ち上がり、両手で何かを広げた。
「あれって……」
思わず声が出てしまったのは、その掲げた服に見覚えがあったから。
あまねくんのTシャツ? 引っ越しするから、古いのはもう捨てると言ってまとめた中にあった気がした。
それをどうするのだろうかと見ていたら、顔にそのTシャツを押しあてていた。
ぎょっとして、数歩後退る。
ここで私は、まさか……と思い浮かべた人物がいる。
そうかもしれないと思えば思うほど彼女にしか見えなかった。
ちらっと見えた横顔。そしてあの小柄で華奢な体格。きっと間違いない。……陽菜ちゃんだ。
嘘だよね……。あまねくんの服を漁って、匂いを嗅いで、何をしているんだろう。
被るタイプのパーカーを見つけ、頭から被っている。袖を通してぶかぶかのその服を自分の体ごと抱き締めていた。
陽菜ちゃんの腕より長い袖で両頬を覆い、その場で飛び跳ねている。
これは……。間違いなくストーカー行為だ。私も被害経験のあるストーカー行為だ。
私は、ポケットの中に入れてあったスマホを取り出し、数枚写真を撮った。
陽菜ちゃん、さすがにそれは気持ち悪いよ。
他のゴミ袋も開き、あまねくんのボクサーパンツを見つける。それも同じように顔に持っていく。
せめて家でやれと思いながら、ぞっとして腕を擦った。
靴下やタオルも取り出し、別のバッグに詰めている。
それ、持って帰るの? とても嫌な気持ちになって、その場であまねくんにメッセージを送った。あまねくんのパーカーを着て、あまねくんのボクサーパンツを持っている陽菜ちゃんの写真を添付して。
〔あまねくん、お疲れ様。大変だよ。ゴミ置き場に変質者が出没しました〕
〔何? 誰?(笑)〕
直ぐに返信が来る。この状況をわかっていない彼は、そんな悠長なメッセージを送ってくる。
〔ひなちゃん。あまねくんのパーカー着て、パンツの匂い嗅いでるよ〕
〔直ぐに部屋に戻ってじっとしてなさい!〕
数秒できた返信。このゴミは来週出そうと、私は出すことのできなかったゴミ袋をもって部屋に戻った。
丁度そのタイミングで電話が鳴る。
「もしもし、まどかさん!?」
「あー、あまねくん」
「ちょっ、どういうこと!?」
「知らないよ。出し忘れてたゴミを出しに行ったらゴミ置き場で変態行為に勤しんでたよ」
「あの女……すっげぇ気持ち悪い!」
あまねくんが私のものを収集しているのも似たような行為だとは口が裂けても言えないが、私とあまねくんの間には愛が存在するのでこの際よしとしよう。
「もう今日荷物まとめて実家に行くよ!」
「うん。この家とお別れかと思うと寂しくなるね」
「そんなこと言ってる場合じゃないから! あー、気持ち悪い。俺、今すっげぇ鳥肌立ってんだけど」
「私もさっきまで寒気が止まらなかったよ」
「とりあえず俺が戻るまで家から出ないでよ?」
「わかった。帰ってくるの待ってるね」
「誰か来ても開けちゃダメだよ? 居留守使って」
「はい!」
あまねくんの忠告を聞き入れ、私は持ってかえってきたゴミ袋をもとの場所に戻す。あまねくんも変な子に好かれたもんだと深く溜め息をついた。
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