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こんにちは赤ちゃん
【6】
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次に、千尋ちゃんと大塚さん。前の職場の人間はこの2人にしか声をかけなかった。挨拶もなしにこちらの都合で辞めた手前そう簡単には声をかけられない。
しかし、この2人に関しては自ら呼んで欲しいと言ってくれたため、お願いしたのだ。
「まどかさん、おめでとうございます!」
2人は綺麗な格好をして、笑顔を向けてくれる。
「ありがとうね! 来てくれて嬉しいよ」
「ちょっと、まどかさん! 旦那さんめちゃめちゃイケメンじゃないですか!」
そう興奮しているのは千尋ちゃん。
「ああ、うん。そうね。ありがたい限りです」
ちょっと変態だけどね。そうは言えない私の心情はとても複雑です。
「この人にして正解だったと思います!」
最初の彼氏とは違う人物である事を知っている大塚さん。目を輝かせて大きく頷いている。かといって雅臣を見たことがあるわけではない。
「私もそう思う。たくさん食べてってね。明日お休み?」
「お休みです!」
2人は声を揃えて笑顔を向ける。
「色々話もしたいし、今度改めてご飯行こう! もう安定期入ったし、出産までは時間とれるからさ」
私がそう言えば、2人は是非! と喜んでくれた。
元の席に戻れば次々に話しかけられる。自分の友達だけでなく、あまねくんの上司や友達の対応をしなければならないため、予想以上に忙しかった。
茉紀を気にして見れば、ハイジさんと楽しそうに飲んでいるし、千尋ちゃんと大塚さんは、私の高校時代の友達と仲良そうに話している。
意外と皆打ち解けるもんだなぁと感心する。それも、私が友達の結婚式に出席しようものなら、一緒に出席した知人以外とは会話もせずさっさと帰宅してしまうからだ。
当事者でありながらも客観的に周りを見ていると、他人の行動とは不思議なものであった。
あまねくんは、友達と楽しそうにはしゃぎ、三次会に誘われている。私は妊婦ということもあり、二次会終了後には速やかに帰宅する予定だ。
珍しくあまねくんが楽しそうだったので、行っておいでと三次会への参加を勧めてやると、すぐに帰る! と言いながら友人達に連れられて行った。
それぞれタクシーで帰宅する皆を見送ってから、私もタクシーに乗り込んだ。
家の前で降り、暗い空の下でそっと家を見上げた。数日前に建ったばかりの私とあまねくんのお家。
あまねくんは私の希望をたくさん叶えてくれた。家具も間取りもあまねくんと仲良く相談しながら決めたのだ。彼と2人でこの家に入った時は本当に幸せだった。ただ、1人でこの場で見上げていると、伝えきれない程の感謝が込み上げる。
こんなにも愛されて、この後もずっと愛してくれるのだ。彼がずっと私だけを見ていてくれますように。そう願いながら、玄関の鍵を開けて中に入った。
まだ新築の匂いがし、慣れない空間ではあるものの、朝からの疲れがどっと押し寄せてソファーに座る。整髪剤のついた髪を洗わなくちゃ。そう思うのだけれど、疲れすぎて瞼が重い。
せめて着替えなくちゃ。そうも思うが体が動かない。もう何もしたくなくて、やる気も起きなくて、何もかも放り出して寝てしまいたかった。
ずるずるっと体が右側に傾く。そのまま頭がソファーについた。12月ということもあり、とても冷たい気温の中。それなのに眠気の方が勝って、暖房をつけることすら億劫である。
このまま眠ったらダメだ。そう思うのに、どんどん瞼は重くなり意識を手放しそうになった。少しだけ。そう思って目を閉じた。
その瞬間、お腹の中でポコポコと何かが動いた。
「ん……」
それでも瞼は重たくて、一度閉じたら中々開けられない。しかし、またもポコポコと動くお腹。
これは夢じゃない。そう思った瞬間、はっと目を開け、体を起こした。
「……赤ちゃん」
まだ一度も胎動を感じなかった腹部。それが、確かにお腹の中で動いていた。
こんな冷えた中で眠ってしまったら危険だと教えてくれた気がした。
いつもならあまねくんが暖房をつけてくれ、暖かい飲み物を用意してくれる。あまねくんがいないだけで、こんなに自己管理ができなくなってしまうなんて……。
「ごめんね。ダメなママだね……」
体を起こしてお腹を擦れば、それに答えるかのようにまた中でポコポコと動いた。
しかし、この2人に関しては自ら呼んで欲しいと言ってくれたため、お願いしたのだ。
「まどかさん、おめでとうございます!」
2人は綺麗な格好をして、笑顔を向けてくれる。
「ありがとうね! 来てくれて嬉しいよ」
「ちょっと、まどかさん! 旦那さんめちゃめちゃイケメンじゃないですか!」
そう興奮しているのは千尋ちゃん。
「ああ、うん。そうね。ありがたい限りです」
ちょっと変態だけどね。そうは言えない私の心情はとても複雑です。
「この人にして正解だったと思います!」
最初の彼氏とは違う人物である事を知っている大塚さん。目を輝かせて大きく頷いている。かといって雅臣を見たことがあるわけではない。
「私もそう思う。たくさん食べてってね。明日お休み?」
「お休みです!」
2人は声を揃えて笑顔を向ける。
「色々話もしたいし、今度改めてご飯行こう! もう安定期入ったし、出産までは時間とれるからさ」
私がそう言えば、2人は是非! と喜んでくれた。
元の席に戻れば次々に話しかけられる。自分の友達だけでなく、あまねくんの上司や友達の対応をしなければならないため、予想以上に忙しかった。
茉紀を気にして見れば、ハイジさんと楽しそうに飲んでいるし、千尋ちゃんと大塚さんは、私の高校時代の友達と仲良そうに話している。
意外と皆打ち解けるもんだなぁと感心する。それも、私が友達の結婚式に出席しようものなら、一緒に出席した知人以外とは会話もせずさっさと帰宅してしまうからだ。
当事者でありながらも客観的に周りを見ていると、他人の行動とは不思議なものであった。
あまねくんは、友達と楽しそうにはしゃぎ、三次会に誘われている。私は妊婦ということもあり、二次会終了後には速やかに帰宅する予定だ。
珍しくあまねくんが楽しそうだったので、行っておいでと三次会への参加を勧めてやると、すぐに帰る! と言いながら友人達に連れられて行った。
それぞれタクシーで帰宅する皆を見送ってから、私もタクシーに乗り込んだ。
家の前で降り、暗い空の下でそっと家を見上げた。数日前に建ったばかりの私とあまねくんのお家。
あまねくんは私の希望をたくさん叶えてくれた。家具も間取りもあまねくんと仲良く相談しながら決めたのだ。彼と2人でこの家に入った時は本当に幸せだった。ただ、1人でこの場で見上げていると、伝えきれない程の感謝が込み上げる。
こんなにも愛されて、この後もずっと愛してくれるのだ。彼がずっと私だけを見ていてくれますように。そう願いながら、玄関の鍵を開けて中に入った。
まだ新築の匂いがし、慣れない空間ではあるものの、朝からの疲れがどっと押し寄せてソファーに座る。整髪剤のついた髪を洗わなくちゃ。そう思うのだけれど、疲れすぎて瞼が重い。
せめて着替えなくちゃ。そうも思うが体が動かない。もう何もしたくなくて、やる気も起きなくて、何もかも放り出して寝てしまいたかった。
ずるずるっと体が右側に傾く。そのまま頭がソファーについた。12月ということもあり、とても冷たい気温の中。それなのに眠気の方が勝って、暖房をつけることすら億劫である。
このまま眠ったらダメだ。そう思うのに、どんどん瞼は重くなり意識を手放しそうになった。少しだけ。そう思って目を閉じた。
その瞬間、お腹の中でポコポコと何かが動いた。
「ん……」
それでも瞼は重たくて、一度閉じたら中々開けられない。しかし、またもポコポコと動くお腹。
これは夢じゃない。そう思った瞬間、はっと目を開け、体を起こした。
「……赤ちゃん」
まだ一度も胎動を感じなかった腹部。それが、確かにお腹の中で動いていた。
こんな冷えた中で眠ってしまったら危険だと教えてくれた気がした。
いつもならあまねくんが暖房をつけてくれ、暖かい飲み物を用意してくれる。あまねくんがいないだけで、こんなに自己管理ができなくなってしまうなんて……。
「ごめんね。ダメなママだね……」
体を起こしてお腹を擦れば、それに答えるかのようにまた中でポコポコと動いた。
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