147 / 208
風雲児
【31】
しおりを挟む
翌日、すぐにあまねくんが律くんに連絡をしてくれたようで、後日顔合わせとなった。もっとも、離婚の案件が苦手な律くんは、先輩である女性の弁護士を紹介してくれることとなった。
その旨を茉紀に話すと「早速だね! ありがと。顔合わせに行ってみるよ」と弾んだ声で言った。とても離婚裁判をしようとしている人間の声ではなかった。
茉紀も大変そうだが、弁護士さんが介入してくれれば安心だ。私があれこれ言ったところで何の解決にもならないのはたしか。
私は、今度こそおとなしく弁護士さんにお任せすることにした。
そんな私はというと、あまねくんの方も先輩の戸塚さんにお家への招待をしたところ、「是非!」と二つ返事で承諾したようだ。
明日は土曜日ということで、奥さんさえよければ明日にでもという戸塚さん。押しきられるような形で、明日は細やかながらホームパーティーとなった。
私は慌てていつも以上に念入りに掃除をする。まだ今日でなくてよかったと思うものの、夫の先輩を家に呼ぶのにはどんな準備が必要なのかと頭を悩ます。
とりあえず何を振る舞うかにもよる。困った時のネット頼み。スマホとにらめっこをし、準備を進める。料理を作るのが1番困るんだよなぁ……。せめて好き嫌いがわかればいいんだけど。
そう思っていると、あまねくんからのメッセージ。
〔戸塚さんからグラタンと豚の角煮は食べたいって要望があったんだけど、作れる?〕
要望ありがたい! グラタンと豚の角煮はミスマッチなような気もするけれど、ご飯はご飯で食べたいのかなぁ……?
あとはカルパッチョとか作っとけばいいかな。グラタンならスープの方がいいのかな? いや、豚の角煮なら味噌汁の方がいいのか?
和食とイタリアンの組み合わせを突き付けられたら、疑問が増えた。
〔味噌汁とスープはどっちがいいかな?〕
聞いちゃえばいいか。その流れでそう送れば、すぐに〔味噌汁!〕と返ってくる。
男性は味噌汁好きだよね。あまねくんの好きなあさりにしようかな。いやいや、戸塚さんメインだった。
どうしても思考があまねくんの好みに寄ってしまう。
とりあえず準備をするために買い物へ行き、お客様用の食器も揃えた。ハイジさんの時には急だったものだから、あるものでいいにしてしまったけれど、あまねくんの先輩となればそういうわけにもいかない。
その日の夜、あまねくんが帰ってくると第一声に「ご飯の要望ごめんね」と言った。
「ううん、全然。何作ればいいか困ってたから、逆に言ってくれると助かるよ」
「そう言ってもらえると俺も助かる。前に、初めてまどかさんにグラタン作ってもらった時の話したんだよね。そしたら、グラタン作れる奥さん羨ましい! って言ってそれからずっと俺も食べてみたいって言ってたんだ」
「そうなんだ。グラタンなんてどこの家でも出るんじゃないの?」
「出ないよ! 少なくともうちでは出ない。オーブン使うのはめんどくさいって母さん言うもん」
「えー、そうかなぁ。オーブンだって数分しか使わないけどね。うちはよく食卓に出たよ。お父さん、あんな顔してグラタンとかパスタ好きでさ」
「うそ!? 確実に和食のイメージだけどね」
「全然! なんならショートケーキとか食べちゃうから」
「いや、お義父さん可愛すぎるでしょ」
あまねくんはおかしそうにゲラゲラ笑っている。私がお菓子作りが好きなのは、母譲りだ。母が作ったパンケーキを頬張りながら説教する父の姿は、父の威厳を半分以下にする効果がある。
「人は見た目によらないよねぇ。戸塚さんはずっと一人暮らしなの?」
「うん。なんかね、小さい頃に両親他界してるんだって」
「え……?」
「だからおばあちゃんに育てられたみたいなんだけど、そのおばあちゃんも就職してすぐ亡くなっちゃったみたいでさ」
「なんか、複雑だね……」
「うん。だから家族と食事ってあんまり経験ないみたいでさ、多分寂しいんだと思うんだ」
あまねくんの言葉に何となく胸が痛くなった。私にもあまねくんにも両親がいて、兄弟もいる。家庭環境は人それぞれだとつくづく思う。
その旨を茉紀に話すと「早速だね! ありがと。顔合わせに行ってみるよ」と弾んだ声で言った。とても離婚裁判をしようとしている人間の声ではなかった。
茉紀も大変そうだが、弁護士さんが介入してくれれば安心だ。私があれこれ言ったところで何の解決にもならないのはたしか。
私は、今度こそおとなしく弁護士さんにお任せすることにした。
そんな私はというと、あまねくんの方も先輩の戸塚さんにお家への招待をしたところ、「是非!」と二つ返事で承諾したようだ。
明日は土曜日ということで、奥さんさえよければ明日にでもという戸塚さん。押しきられるような形で、明日は細やかながらホームパーティーとなった。
私は慌てていつも以上に念入りに掃除をする。まだ今日でなくてよかったと思うものの、夫の先輩を家に呼ぶのにはどんな準備が必要なのかと頭を悩ます。
とりあえず何を振る舞うかにもよる。困った時のネット頼み。スマホとにらめっこをし、準備を進める。料理を作るのが1番困るんだよなぁ……。せめて好き嫌いがわかればいいんだけど。
そう思っていると、あまねくんからのメッセージ。
〔戸塚さんからグラタンと豚の角煮は食べたいって要望があったんだけど、作れる?〕
要望ありがたい! グラタンと豚の角煮はミスマッチなような気もするけれど、ご飯はご飯で食べたいのかなぁ……?
あとはカルパッチョとか作っとけばいいかな。グラタンならスープの方がいいのかな? いや、豚の角煮なら味噌汁の方がいいのか?
和食とイタリアンの組み合わせを突き付けられたら、疑問が増えた。
〔味噌汁とスープはどっちがいいかな?〕
聞いちゃえばいいか。その流れでそう送れば、すぐに〔味噌汁!〕と返ってくる。
男性は味噌汁好きだよね。あまねくんの好きなあさりにしようかな。いやいや、戸塚さんメインだった。
どうしても思考があまねくんの好みに寄ってしまう。
とりあえず準備をするために買い物へ行き、お客様用の食器も揃えた。ハイジさんの時には急だったものだから、あるものでいいにしてしまったけれど、あまねくんの先輩となればそういうわけにもいかない。
その日の夜、あまねくんが帰ってくると第一声に「ご飯の要望ごめんね」と言った。
「ううん、全然。何作ればいいか困ってたから、逆に言ってくれると助かるよ」
「そう言ってもらえると俺も助かる。前に、初めてまどかさんにグラタン作ってもらった時の話したんだよね。そしたら、グラタン作れる奥さん羨ましい! って言ってそれからずっと俺も食べてみたいって言ってたんだ」
「そうなんだ。グラタンなんてどこの家でも出るんじゃないの?」
「出ないよ! 少なくともうちでは出ない。オーブン使うのはめんどくさいって母さん言うもん」
「えー、そうかなぁ。オーブンだって数分しか使わないけどね。うちはよく食卓に出たよ。お父さん、あんな顔してグラタンとかパスタ好きでさ」
「うそ!? 確実に和食のイメージだけどね」
「全然! なんならショートケーキとか食べちゃうから」
「いや、お義父さん可愛すぎるでしょ」
あまねくんはおかしそうにゲラゲラ笑っている。私がお菓子作りが好きなのは、母譲りだ。母が作ったパンケーキを頬張りながら説教する父の姿は、父の威厳を半分以下にする効果がある。
「人は見た目によらないよねぇ。戸塚さんはずっと一人暮らしなの?」
「うん。なんかね、小さい頃に両親他界してるんだって」
「え……?」
「だからおばあちゃんに育てられたみたいなんだけど、そのおばあちゃんも就職してすぐ亡くなっちゃったみたいでさ」
「なんか、複雑だね……」
「うん。だから家族と食事ってあんまり経験ないみたいでさ、多分寂しいんだと思うんだ」
あまねくんの言葉に何となく胸が痛くなった。私にもあまねくんにも両親がいて、兄弟もいる。家庭環境は人それぞれだとつくづく思う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる