166 / 208
それぞれの門出
【10】
しおりを挟む
美味しそうにキーマカレーを食べている光輝に、戸塚さんは「お友達ともいつもキバレンジャーごっこやってるの?」と尋ねた。
「うん! たまにやる。でも、ゆーまもみなともレッドやりたがるからいつもじゃんけんなんだ」
光輝はそう言いながらも楽しそうに話す。友達がたくさんいるようで微笑ましい。
「そっか。じゃあ、毎日楽しいね」
「うん。でも……ゆーまは小学校いっしょだけどみなとは違うから。もうあそべないんだ」
光輝は一変して悲しそうに顔を伏せた。その様子に気付いて茉紀は頬杖をついて軽く息を吐いた。
「2人共、保育園のお友達なんだ。小学校に上がる時に学区が別れるからさ……仲良い子はほとんど違う学校行くだよね」
そう茉紀が小声で言った。せっかくできた友達と離れるのは寂しいのだろう。学区が違うということは、保育園へは近くても家同士は少し距離があるのかもしれない。
「それは寂しいね。でも、小学校に行ったら新しいお友達いっぱいできるかもしれないよ?」
戸塚さんは励ますように優しく微笑んで、光輝の背中にぽんぽんと触れた。
「ううん、なかよくできないよ……」
光輝はそれでも浮かない顔をしていた。スプーンを持つ手も止まり、じっとキーマカレーの入った器を見つめている。
あまねくんも一口麗夢の口にカレーを運ぶと、視線を光輝に移した。
「何で?」
「ゆーまも、おなじ小学校にいくこっちともうなかよくしてるけど、おれは仲間に入れてもらえないから」
光輝の言葉に胸がざわざわとした。先程の様子ではイジメられている感じでもなかった。ゆーまと呼んでいた子とも仲が良いだろうに。
「何で仲間に入れてもらえないの? ゆーまくんは仲良しでしょ?」
「うん。キバレンジャーごっこも一緒にやるよ。でもおれ、スキッチもってないから」
しょんぼりしている様子の光輝に茉紀はぴくりと眉を動かした。
「スキッチ?」
「うん。ゲーム」
それを聞いて、その場にいた大人全員が納得した。スキッチとは私も聞いたことがあるだけで実際にはやったことはないのだけれど、小型のゲーム機だ。任地堂から出ている大人にも大人気のゲーム機。
光輝くらいの年になるとゲームに興味が湧くのだろう。
「みんな、ほいくえん休みのひは集まってどうぶつの海やるんだ。でも、おれはもってないからいってもつまんないし……」
下唇を噛み締めて悲しそうな表情をしている光輝。こんな小さな体で疎外感を抱くのはさぞ辛いことだろう。私がこんなにも苦しくなるのだから、茉紀はもっと切ないはずだ。
「光輝、そんなこと言ってもダメだよ。ゲームなんて買い始めたらきりないんだから」
茉紀は光輝に向かってそう言った。気持ちはわかるけれど、そこまで言わなくても……そう思って茉紀を見ると、「買ってあげたいけど、本体だけで4万以上するんだよ。慰謝料もらったけど、小学校上がるのにお金かかるし、離婚したからとてもゲームなんて買ってる場合じゃないんだよ」と私だけに聞こえる声で言った。
「わかってるよ……がまんする」
普段はやんちゃな光輝がこうもおとなしいと、こちらも調子が狂ってしまう。
「光輝くん、誕生日いつだっけ?」
あまねくんが思い付いたかのようにそう尋ねた。光輝はふと顔を上げて「8月……」と答えた。
「じゃあ、少し早いけど誕生日プレゼントで買ってあげようか」
にっこりと笑顔でそう言うあまねくん。その言葉に光輝の顔がぱあぁぁっと明るくなる。
しかし、その瞬間「あまね! 甘やかすんじゃないの! 泣きべそかけば買ってもらえると思うでしょ!」と茉紀の喝が入る。
あまねくんと戸塚さんはびくりと肩を震わせ、あまねくんに至っては「ごめんなさい……」と小さく謝罪した。
あまねくんのお家はお金持ちだから、きっと子供の頃から好きなものを買ってもらってたんだろうな……。
うちも両親は地方公務員なので、金銭的には他の家庭よりも余裕はあったはず。けれど、厳格な父のせいで学生は勉強をしろと言われ続け、あまりオモチャも買ってもらった記憶がない。反発するかのように私はあまり勉強しなかったけれど……。ただ、お姉ちゃんは高学歴。
だから、光輝のように友達の輪の中に入っていけない悔しさは私にもわかるつもりだ。
確かにスキッチは高いけれど、皆で少しずつお金を出せばそんなに甘やかしたことにはならないんじゃないかと私は首をひねった。
「うん! たまにやる。でも、ゆーまもみなともレッドやりたがるからいつもじゃんけんなんだ」
光輝はそう言いながらも楽しそうに話す。友達がたくさんいるようで微笑ましい。
「そっか。じゃあ、毎日楽しいね」
「うん。でも……ゆーまは小学校いっしょだけどみなとは違うから。もうあそべないんだ」
光輝は一変して悲しそうに顔を伏せた。その様子に気付いて茉紀は頬杖をついて軽く息を吐いた。
「2人共、保育園のお友達なんだ。小学校に上がる時に学区が別れるからさ……仲良い子はほとんど違う学校行くだよね」
そう茉紀が小声で言った。せっかくできた友達と離れるのは寂しいのだろう。学区が違うということは、保育園へは近くても家同士は少し距離があるのかもしれない。
「それは寂しいね。でも、小学校に行ったら新しいお友達いっぱいできるかもしれないよ?」
戸塚さんは励ますように優しく微笑んで、光輝の背中にぽんぽんと触れた。
「ううん、なかよくできないよ……」
光輝はそれでも浮かない顔をしていた。スプーンを持つ手も止まり、じっとキーマカレーの入った器を見つめている。
あまねくんも一口麗夢の口にカレーを運ぶと、視線を光輝に移した。
「何で?」
「ゆーまも、おなじ小学校にいくこっちともうなかよくしてるけど、おれは仲間に入れてもらえないから」
光輝の言葉に胸がざわざわとした。先程の様子ではイジメられている感じでもなかった。ゆーまと呼んでいた子とも仲が良いだろうに。
「何で仲間に入れてもらえないの? ゆーまくんは仲良しでしょ?」
「うん。キバレンジャーごっこも一緒にやるよ。でもおれ、スキッチもってないから」
しょんぼりしている様子の光輝に茉紀はぴくりと眉を動かした。
「スキッチ?」
「うん。ゲーム」
それを聞いて、その場にいた大人全員が納得した。スキッチとは私も聞いたことがあるだけで実際にはやったことはないのだけれど、小型のゲーム機だ。任地堂から出ている大人にも大人気のゲーム機。
光輝くらいの年になるとゲームに興味が湧くのだろう。
「みんな、ほいくえん休みのひは集まってどうぶつの海やるんだ。でも、おれはもってないからいってもつまんないし……」
下唇を噛み締めて悲しそうな表情をしている光輝。こんな小さな体で疎外感を抱くのはさぞ辛いことだろう。私がこんなにも苦しくなるのだから、茉紀はもっと切ないはずだ。
「光輝、そんなこと言ってもダメだよ。ゲームなんて買い始めたらきりないんだから」
茉紀は光輝に向かってそう言った。気持ちはわかるけれど、そこまで言わなくても……そう思って茉紀を見ると、「買ってあげたいけど、本体だけで4万以上するんだよ。慰謝料もらったけど、小学校上がるのにお金かかるし、離婚したからとてもゲームなんて買ってる場合じゃないんだよ」と私だけに聞こえる声で言った。
「わかってるよ……がまんする」
普段はやんちゃな光輝がこうもおとなしいと、こちらも調子が狂ってしまう。
「光輝くん、誕生日いつだっけ?」
あまねくんが思い付いたかのようにそう尋ねた。光輝はふと顔を上げて「8月……」と答えた。
「じゃあ、少し早いけど誕生日プレゼントで買ってあげようか」
にっこりと笑顔でそう言うあまねくん。その言葉に光輝の顔がぱあぁぁっと明るくなる。
しかし、その瞬間「あまね! 甘やかすんじゃないの! 泣きべそかけば買ってもらえると思うでしょ!」と茉紀の喝が入る。
あまねくんと戸塚さんはびくりと肩を震わせ、あまねくんに至っては「ごめんなさい……」と小さく謝罪した。
あまねくんのお家はお金持ちだから、きっと子供の頃から好きなものを買ってもらってたんだろうな……。
うちも両親は地方公務員なので、金銭的には他の家庭よりも余裕はあったはず。けれど、厳格な父のせいで学生は勉強をしろと言われ続け、あまりオモチャも買ってもらった記憶がない。反発するかのように私はあまり勉強しなかったけれど……。ただ、お姉ちゃんは高学歴。
だから、光輝のように友達の輪の中に入っていけない悔しさは私にもわかるつもりだ。
確かにスキッチは高いけれど、皆で少しずつお金を出せばそんなに甘やかしたことにはならないんじゃないかと私は首をひねった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
専属秘書は極上CEOに囚われる
有允ひろみ
恋愛
手痛い失恋をきっかけに勤めていた会社を辞めた佳乃。彼女は、すべてをリセットするために訪れた南国の島で、名も知らぬ相手と熱く濃密な一夜を経験する。しかし、どれほど強く惹かれ合っていても、行きずりの恋に未来などない――。佳乃は翌朝、黙って彼の前から姿を消した。それから五年、新たな会社で社長秘書として働く佳乃の前に、代表取締役CEOとしてあの夜の彼・敦彦が現れて!? 「今度こそ、絶対に逃さない」戸惑い距離を取ろうとする佳乃を色気たっぷりに追い詰め、彼は忘れたはずの恋心を強引に暴き出し……。執着系イケメンと生真面目OLの、過去からはじまる怒涛の溺愛ラブストーリー!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる