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前進
【7】
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青汁の通販番組が終わると、今度は掃除機に切り替わる。こんなに夜中に掃除機販売されてもピンとこないよ……。今から掃除するわけでもあるまいし。
私は、テレビを点けたまま、自室を出てキッチンへと向かった。冷蔵庫を開けると、ラップをかけてある皿がいくつかある。肉じゃが……いらない。ツナとコーンのサラダ……いらない。鮪の刺身……とながらみ……は食べてみようかな。
さっぱりしたものなら食べられそうだった。小皿に醤油を出してそれらを少しずつ食べた。白米は食べる気が起きず、炊飯器は開けずにそのままにした。
こんな生活いつまで続くのかなぁ……。爪楊枝を使って無理やり中身を殻から引きずり出す。ながらみって夏とれないんじゃなかったか? まあ、いいけど……。君達もこんなふうに家から追い出されて、食べられるために生まれてきたわけじゃないのにね。
そう言いながらも口に入れれば、適度な塩味が美味だった。とびきり美味しいわけじゃないけど、何だか癖になるんだよなぁ……。
緑茶と並べて魚介類を貪る私。後ろ姿は完全に晩酌しているオジサンだろう。このスウェットも3日3晩着ぱなしだし、そろそろシャワーくらい浴びようかなぁ……。
めんどくさ……。
すずらんの利用者さん達だって週2日しか入浴しないのだから、毎日入らないからといって健康が損なわれるわけでもない。
食べることにも飽きてしまって、そのまま椅子に座ってぼーっとする。
食事も人としてやることかぁ……。母が言っていた言葉。食事も睡眠も入浴も人が人として生きていく上でやること。
だとしたら、私はなんのために生きているんだろう。好きな人にも会えない。好きな仕事も辞めた。自分の力で変えられるものはない。
人生が楽しく感じなくなってしまったら、生きている意義はなんなのかわからなくなってしまった。
ここに存在しているだけの私は、誰のためにもなっていない。そして、誰かの役に立つために行動を起こす気力もない。
ダイニングテーブルに頬を預けるようにして突っ伏した。両手は脱力して、下に垂れ下がったままだ。何でこんなにやる気が起きなくて、怠いんだろう。
散々寝たから眠気はないけれど、突っ伏したらそのまま動けなくなってしまった。
あー……。怠い。何もしたくない。このまま永遠に眠ってしまいたい。
どれくらいそうしていただろう。ドアが開く音がして「おい! 何だ!」と父の声がした。
今まで散々部屋から出てこなかったものだから、ダイニングに私がいるだなんて思ってもみなかったのだろう。
「食うだけ食って散らかして。挙げ句にこんなところで伏せって。朝っぱらからお前は何してるんだ」
「……朝?」
さっきまで夜中だったじゃん。お父さん起きて来たってことは、5時くらい? 早起きだなぁ……。
「まったく……こっちは仕事だっていうのに毎日ダラダラとして……人が話している時くらいこっちを見たらどうなんだ」
「んー……」
体の底からやる気が起きなくて、体を起こすことすら億劫だった。
「おい、まどか。聞いてるのか」
父は、私の肩を掴んでテーブルから体をひっぺがす。と同時に、頭の中が揺れた。目眩が大きくなり、そのまま横に倒れ込んだ。
「お、おい! まどか!? まどか!?」
父が慌てて支えたことで、頭からフローリングの床に叩きつけられることはなかったけれど、体の力が入らなかった。
「……何なの? 騒がしい……」
父の声を聞いて起きてきた様子の母。横たわる私と、それを抱える父を見て、こちらに駆けつけてくる。
母がそっと私の額に触れた。
「なあに、凄い熱じゃない! もう、何でこんなになるまで言わないの」
知らないよ、お母さん。この怠さとやる気のなさは、仕事を辞めてすることがなくなったからだと思ってたんだから。
いつも元気な私が、熱が出るだなんて私自身も信じられない。
腋窩に体温計が差し込まれて、私は目眩に耐えるために目を閉じた。
私は、テレビを点けたまま、自室を出てキッチンへと向かった。冷蔵庫を開けると、ラップをかけてある皿がいくつかある。肉じゃが……いらない。ツナとコーンのサラダ……いらない。鮪の刺身……とながらみ……は食べてみようかな。
さっぱりしたものなら食べられそうだった。小皿に醤油を出してそれらを少しずつ食べた。白米は食べる気が起きず、炊飯器は開けずにそのままにした。
こんな生活いつまで続くのかなぁ……。爪楊枝を使って無理やり中身を殻から引きずり出す。ながらみって夏とれないんじゃなかったか? まあ、いいけど……。君達もこんなふうに家から追い出されて、食べられるために生まれてきたわけじゃないのにね。
そう言いながらも口に入れれば、適度な塩味が美味だった。とびきり美味しいわけじゃないけど、何だか癖になるんだよなぁ……。
緑茶と並べて魚介類を貪る私。後ろ姿は完全に晩酌しているオジサンだろう。このスウェットも3日3晩着ぱなしだし、そろそろシャワーくらい浴びようかなぁ……。
めんどくさ……。
すずらんの利用者さん達だって週2日しか入浴しないのだから、毎日入らないからといって健康が損なわれるわけでもない。
食べることにも飽きてしまって、そのまま椅子に座ってぼーっとする。
食事も人としてやることかぁ……。母が言っていた言葉。食事も睡眠も入浴も人が人として生きていく上でやること。
だとしたら、私はなんのために生きているんだろう。好きな人にも会えない。好きな仕事も辞めた。自分の力で変えられるものはない。
人生が楽しく感じなくなってしまったら、生きている意義はなんなのかわからなくなってしまった。
ここに存在しているだけの私は、誰のためにもなっていない。そして、誰かの役に立つために行動を起こす気力もない。
ダイニングテーブルに頬を預けるようにして突っ伏した。両手は脱力して、下に垂れ下がったままだ。何でこんなにやる気が起きなくて、怠いんだろう。
散々寝たから眠気はないけれど、突っ伏したらそのまま動けなくなってしまった。
あー……。怠い。何もしたくない。このまま永遠に眠ってしまいたい。
どれくらいそうしていただろう。ドアが開く音がして「おい! 何だ!」と父の声がした。
今まで散々部屋から出てこなかったものだから、ダイニングに私がいるだなんて思ってもみなかったのだろう。
「食うだけ食って散らかして。挙げ句にこんなところで伏せって。朝っぱらからお前は何してるんだ」
「……朝?」
さっきまで夜中だったじゃん。お父さん起きて来たってことは、5時くらい? 早起きだなぁ……。
「まったく……こっちは仕事だっていうのに毎日ダラダラとして……人が話している時くらいこっちを見たらどうなんだ」
「んー……」
体の底からやる気が起きなくて、体を起こすことすら億劫だった。
「おい、まどか。聞いてるのか」
父は、私の肩を掴んでテーブルから体をひっぺがす。と同時に、頭の中が揺れた。目眩が大きくなり、そのまま横に倒れ込んだ。
「お、おい! まどか!? まどか!?」
父が慌てて支えたことで、頭からフローリングの床に叩きつけられることはなかったけれど、体の力が入らなかった。
「……何なの? 騒がしい……」
父の声を聞いて起きてきた様子の母。横たわる私と、それを抱える父を見て、こちらに駆けつけてくる。
母がそっと私の額に触れた。
「なあに、凄い熱じゃない! もう、何でこんなになるまで言わないの」
知らないよ、お母さん。この怠さとやる気のなさは、仕事を辞めてすることがなくなったからだと思ってたんだから。
いつも元気な私が、熱が出るだなんて私自身も信じられない。
腋窩に体温計が差し込まれて、私は目眩に耐えるために目を閉じた。
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