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前進
【28】
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可愛らしい彼を促して着替えをさせる。私も寝間着姿でリビングに降りれば父から嫌味を言われるため、適当な普段着に着替えた。
ダイニングテーブルには、既に父の姿があった。新聞を広げて目を通している。
「おはようございます」
あまねくんが声をかけたが、父は知らん顔で新聞を読み続けている。
子供か。まるで喧嘩をした後の小学生だ。
そんな父を見た母は、キッチンから「あなた」と低い声で一言呼んだ。
「……おはよう」
数秒間があったが、父は渋々といったように挨拶をした。昨日のことがあり、父が母に頭が上がらないことは承知している。
たったの一言で父を動かすのだから大したものだ。
父は、いつもの席に座っている。ドアを開けて手前側の1番右の席。4人掛けテーブルだが、少し大きめのテーブル。
私が父の前に座り、その横にあまねくんを促した。昨晩と同じ配置だ。
「はい、おまたせ」
すぐに雑穀米とワカメと豆腐の味噌汁、だし巻き卵にあじの塩焼き、ほうれん草とベーコン、コーンのバター炒め、ひじきと蓮根の煮物。THE・朝ごはん。
よく朝からこんなに作る気になるな。
私もアパート暮らしの時には、朝ごはんを作っていたけれど、こんなに多くの品はとても用意できなかった。
我が家では、子供の頃からこういった朝食から始まる。それは、言うまでもなく父が一汁三菜に拘るから。
マジで自分で作れ。朝から3品毎日揃える大変さを身をもって知れ。
いつか嫁に出たら言ってやろうと新聞越しに父を睨んでやった。
「凄いですね……朝から豪華です」
ほら、あまねくんも驚いている。
「そう? 量多かった?」
「いえ、美味しそうだなって思って。昨日の食事もとても美味しかったです」
「本当? よかった。またいつでも食べに来てね」
「ありがとうございます」
母とあまねくんのやり取りは聞こえている筈なのに、父はずっと新聞を読んでいる。さっきからずっと同じページを開いているから、読んでいるというよりもふりなのだろう。
私とあまねくんは、早速食べ始めたが、父はいつまで経っても新聞を広げており、「食べないなら下げますよ」母のその一言で諦めたかのように食べ始めた。
隣の彼が笑いを堪えているのがわかり、私もつられてしまいそうだった。
食後、あまねくんを玄関まで見送る。久しぶりに満たされた気分だった。
「あまねくん、やっぱりいい子ね」
私と一緒に見送りをした母がそう言った。
「うん。お母さん、昨日はありがとうね」
「んー?」
「お父さんのこと。ちょっと喧嘩になったでしょ」
「あら、聞こえてた?」
ふふっと笑って肩をすくめる母。
「お父さん、頑固だからね。一旦喋り出すとうるさいから、お母さんもなるべく何も言わないようにしてたけど、さすがに今回のは酷かったから。本当にこの家が嫌になったら言いなさいよ。アパート借りるくらいのお金ならあるんだから」
「ありがとう」
お礼を言うと、何年かぶりに頭を撫でられた。いくつになっても母にとっては、私は子供らしい。家の中に1人でも味方がいれば心強い。
早く雅臣のことが解決してくれるのを祈った。
ダイニングテーブルには、既に父の姿があった。新聞を広げて目を通している。
「おはようございます」
あまねくんが声をかけたが、父は知らん顔で新聞を読み続けている。
子供か。まるで喧嘩をした後の小学生だ。
そんな父を見た母は、キッチンから「あなた」と低い声で一言呼んだ。
「……おはよう」
数秒間があったが、父は渋々といったように挨拶をした。昨日のことがあり、父が母に頭が上がらないことは承知している。
たったの一言で父を動かすのだから大したものだ。
父は、いつもの席に座っている。ドアを開けて手前側の1番右の席。4人掛けテーブルだが、少し大きめのテーブル。
私が父の前に座り、その横にあまねくんを促した。昨晩と同じ配置だ。
「はい、おまたせ」
すぐに雑穀米とワカメと豆腐の味噌汁、だし巻き卵にあじの塩焼き、ほうれん草とベーコン、コーンのバター炒め、ひじきと蓮根の煮物。THE・朝ごはん。
よく朝からこんなに作る気になるな。
私もアパート暮らしの時には、朝ごはんを作っていたけれど、こんなに多くの品はとても用意できなかった。
我が家では、子供の頃からこういった朝食から始まる。それは、言うまでもなく父が一汁三菜に拘るから。
マジで自分で作れ。朝から3品毎日揃える大変さを身をもって知れ。
いつか嫁に出たら言ってやろうと新聞越しに父を睨んでやった。
「凄いですね……朝から豪華です」
ほら、あまねくんも驚いている。
「そう? 量多かった?」
「いえ、美味しそうだなって思って。昨日の食事もとても美味しかったです」
「本当? よかった。またいつでも食べに来てね」
「ありがとうございます」
母とあまねくんのやり取りは聞こえている筈なのに、父はずっと新聞を読んでいる。さっきからずっと同じページを開いているから、読んでいるというよりもふりなのだろう。
私とあまねくんは、早速食べ始めたが、父はいつまで経っても新聞を広げており、「食べないなら下げますよ」母のその一言で諦めたかのように食べ始めた。
隣の彼が笑いを堪えているのがわかり、私もつられてしまいそうだった。
食後、あまねくんを玄関まで見送る。久しぶりに満たされた気分だった。
「あまねくん、やっぱりいい子ね」
私と一緒に見送りをした母がそう言った。
「うん。お母さん、昨日はありがとうね」
「んー?」
「お父さんのこと。ちょっと喧嘩になったでしょ」
「あら、聞こえてた?」
ふふっと笑って肩をすくめる母。
「お父さん、頑固だからね。一旦喋り出すとうるさいから、お母さんもなるべく何も言わないようにしてたけど、さすがに今回のは酷かったから。本当にこの家が嫌になったら言いなさいよ。アパート借りるくらいのお金ならあるんだから」
「ありがとう」
お礼を言うと、何年かぶりに頭を撫でられた。いくつになっても母にとっては、私は子供らしい。家の中に1人でも味方がいれば心強い。
早く雅臣のことが解決してくれるのを祈った。
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