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婚姻届
【45】
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翌日、守屋家にお邪魔し、昨日同様あまねくんのご両親に挨拶をさせてもらった。
私の両親から許可が出たことを伝えると、ダリアさんはとても喜んでくれた。
「もう、結婚記念日とか考えないで明日婚姻届出してきちゃいなよ。また色々あってタイミング逃すといつまでたっても籍入れられなくなっちゃうよ」
そうダリアさんに言われ、「確かに……」とあまねくんと声が被る。私達には色々ありすぎた。1つ問題解決すればもう1つ。まだ1つ解決できていないのに、次の問題が起こる。そんなことばかりだ。
それはずっと負の連鎖として続き、今ようやく落ち着きを取り戻したが、これがずっと続くとも言い切れない。
それを考えると、落ち着いている内に結婚してしまうのがやはりいいだろう。
「じゃあ、近い内に出しに行こうか」
「うん。そうしよう」
そこに意見の相違はなかった。付き合った日だって、わざわざ指定して決めたわけではない。
結婚記念日だって、何月何日って決めなくたって入籍したその日でいい。
「ちょっと待ってて。善は急げって言うから。風向きが変わらない内にまどかさんに書いてもらおっと」
あまねくんは、慌てて鞄の中からクリアファイルを取り出した。中には綺麗に折り畳まれた婚姻届。
あまねくん側は既に埋まっていた。
「呆れた……準備が早いのね」
ダリアさんは、口を開けてぽかんとしている。
そういえば、かなり前に婚姻届もらってきちゃったって言ってたなと思い出す。
「だってさ、ちゃんと準備しておかないと、もしまどかさんが結婚やめたいとか言い出したら困るじゃん」
「言わないよ……今更」
「わかんないよ。結婚したい! って思ってくれてる時に行動しておかないと何かあってからじゃ遅いから」
そう言って、婚姻届とボールペンを目の前に置かれた。時々強引なのよね。
「うわー、ガツガツしてて嫌な感じ」
テーブルの横を通りすぎる律くんが抑揚のない声で言った。
「え!? ガツガツなんてしてないし!」
「必死なのが痛いわー」
顔を上げて、律くんの背中に叫ぶあまねくんを横目に、ソファに座ってテレビを見ていた奏ちゃんが呟く。
「痛い!? 何でよ! 今、まどかさんが近い内に籍入れようねって言ってくれたんだよ!? それなのに今婚姻届書いてもらうのが痛いの?」
「いやいや、まだ双方の挨拶がちゃんと終わってない内から勝手に婚姻届取りに行って、既に記入してあるところが痛いって言ってんの。婚姻届だって一緒に取りに行けばよかったのに。それもまどかちゃんの楽しみになったんじゃないの」
奏ちゃんにそう言われ、がっくりと項垂れるあまねくん。
「だ、大丈夫だよ。私だって、結婚したい気持ちは変わらないし。一緒に提出できたらいいし。今から書くからさ、顔上げてよ」
必死でそう言いながら、はたと思う。今、奏ちゃんてば「まどかちゃん」って言った?
おそらくこの場にいる私以外の人間は気付いていない。きっと普段から私のことを名前で呼んでいる人達だから、違和感を抱かないのだ。
でも、奏ちゃんは違う。今まで、何度も一緒にいたし、電話もした。けれど、「あんた」としか呼んでくれなかった。
あまねくんの結婚相手として認めて貰えたことはわかっていたけれど、どこかで壁を感じていた。
その違和感はおそらくこれだ。
奏ちゃんが本当の意味で受け入れてくれた気がして目頭が熱くなった。けれど、今このことに触れたら、照れ屋の彼女はまた名前を呼んでくれなくなるかもしれない。
本当は今すぐ抱きついて、喜びを表現したいところだけれど、やめておく。
ただ、すぐにでもこの家族の一員になりたいと強く思った。少し強引なあまねくんの行動がありがたくなるほど、目の前の婚姻届を見て嬉しくなる。
ボールペンを手に取って名前を書き始める。嬉しそうに顔を上げたあまねくんが「まどかさん、間違えても大丈夫だよ。まだいっぱいあるからね」そう言って、十数枚の用紙を取り出した。
「うわ……さすがに引くんだけど」
そんな辛口な奏ちゃんの声は既に彼の耳には届いていない。
「あ! 2人とも、大変! 大安今日だよ! 今日逃したら、次土曜日だよ! 6日も開いたら何が起こるかわかんないよー」
ダリアさんがカレンダーを見ながら叫んだ。
え? 今日?
「今日!?」
あまねくんと顔を見合せ、叫ぶ。
「日曜日だけどさ、時間外窓口開いてるから、それ書き終わったら出してきちゃいなよ」
平然と言うダリアさん。まるで住民票の提出でもするかのように軽い口調で。
さすがに今日に今日って……。
「それいいね! 行こう、まどかさん!」
意外とノリノリな……いや、全然意外じゃない。あまねくんなら早急に出したいと言うに決まっている。
こんなに一生懸命、すぐにでも私と結婚したいと言ってくれるんだから、受け入れなきゃバチが当たりそうだ。
「わかった。じゃあ、待ってて。証人どうする?」
「うーん、そうだな……こっち側は誰でもいいけど、まどかさん誰がいい?」
「え? えーと……奏ちゃんかな?」
「え!? 私!?」
知らん顔でテレビを見ていた彼女は、自分の名前が出た途端、目を見開いて勢いよくこちらを向いた。
「だって……ねぇ?」
あまねくんの顔を見ながらそう言えば、「そうだね。奏のお許しなしには結婚できなかったわけだしね」と言って笑った。
「ちょっと……言いたいことはわかるけど、あんまりじゃない?」
「でも、やっぱり奏ちゃんが祝福してくれたら嬉しいから。書いてくれる?」
「……いいけど」
彼女は、少し顔を赤くしながら頷いた。
「よかった」
「じゃあ、もう1人は……まどかさんのお父さんかな?」
「だね」
考えていることは同じだったようで、顔を見合せて笑う。
私が全てを書き終えたところで奏ちゃんにも記入してもらった。私達以上に緊張している奏ちゃんが住所を間違えるものだから、3枚書き直してようやく証人1人が埋まった。
休日で家にいるであろう父に電話をかけ、事の運びを説明する。
「急だな!」
なんて驚いていたけれど、快諾してくれた。証人が自分であることと、酔い潰れるまであまねくんがお酒に付き合ってくれたことが嬉しかったらしい。
慌ただしい中、完成された婚姻届を持って、そのままあまねくんと共に役所に提出へ行った。
私の両親から許可が出たことを伝えると、ダリアさんはとても喜んでくれた。
「もう、結婚記念日とか考えないで明日婚姻届出してきちゃいなよ。また色々あってタイミング逃すといつまでたっても籍入れられなくなっちゃうよ」
そうダリアさんに言われ、「確かに……」とあまねくんと声が被る。私達には色々ありすぎた。1つ問題解決すればもう1つ。まだ1つ解決できていないのに、次の問題が起こる。そんなことばかりだ。
それはずっと負の連鎖として続き、今ようやく落ち着きを取り戻したが、これがずっと続くとも言い切れない。
それを考えると、落ち着いている内に結婚してしまうのがやはりいいだろう。
「じゃあ、近い内に出しに行こうか」
「うん。そうしよう」
そこに意見の相違はなかった。付き合った日だって、わざわざ指定して決めたわけではない。
結婚記念日だって、何月何日って決めなくたって入籍したその日でいい。
「ちょっと待ってて。善は急げって言うから。風向きが変わらない内にまどかさんに書いてもらおっと」
あまねくんは、慌てて鞄の中からクリアファイルを取り出した。中には綺麗に折り畳まれた婚姻届。
あまねくん側は既に埋まっていた。
「呆れた……準備が早いのね」
ダリアさんは、口を開けてぽかんとしている。
そういえば、かなり前に婚姻届もらってきちゃったって言ってたなと思い出す。
「だってさ、ちゃんと準備しておかないと、もしまどかさんが結婚やめたいとか言い出したら困るじゃん」
「言わないよ……今更」
「わかんないよ。結婚したい! って思ってくれてる時に行動しておかないと何かあってからじゃ遅いから」
そう言って、婚姻届とボールペンを目の前に置かれた。時々強引なのよね。
「うわー、ガツガツしてて嫌な感じ」
テーブルの横を通りすぎる律くんが抑揚のない声で言った。
「え!? ガツガツなんてしてないし!」
「必死なのが痛いわー」
顔を上げて、律くんの背中に叫ぶあまねくんを横目に、ソファに座ってテレビを見ていた奏ちゃんが呟く。
「痛い!? 何でよ! 今、まどかさんが近い内に籍入れようねって言ってくれたんだよ!? それなのに今婚姻届書いてもらうのが痛いの?」
「いやいや、まだ双方の挨拶がちゃんと終わってない内から勝手に婚姻届取りに行って、既に記入してあるところが痛いって言ってんの。婚姻届だって一緒に取りに行けばよかったのに。それもまどかちゃんの楽しみになったんじゃないの」
奏ちゃんにそう言われ、がっくりと項垂れるあまねくん。
「だ、大丈夫だよ。私だって、結婚したい気持ちは変わらないし。一緒に提出できたらいいし。今から書くからさ、顔上げてよ」
必死でそう言いながら、はたと思う。今、奏ちゃんてば「まどかちゃん」って言った?
おそらくこの場にいる私以外の人間は気付いていない。きっと普段から私のことを名前で呼んでいる人達だから、違和感を抱かないのだ。
でも、奏ちゃんは違う。今まで、何度も一緒にいたし、電話もした。けれど、「あんた」としか呼んでくれなかった。
あまねくんの結婚相手として認めて貰えたことはわかっていたけれど、どこかで壁を感じていた。
その違和感はおそらくこれだ。
奏ちゃんが本当の意味で受け入れてくれた気がして目頭が熱くなった。けれど、今このことに触れたら、照れ屋の彼女はまた名前を呼んでくれなくなるかもしれない。
本当は今すぐ抱きついて、喜びを表現したいところだけれど、やめておく。
ただ、すぐにでもこの家族の一員になりたいと強く思った。少し強引なあまねくんの行動がありがたくなるほど、目の前の婚姻届を見て嬉しくなる。
ボールペンを手に取って名前を書き始める。嬉しそうに顔を上げたあまねくんが「まどかさん、間違えても大丈夫だよ。まだいっぱいあるからね」そう言って、十数枚の用紙を取り出した。
「うわ……さすがに引くんだけど」
そんな辛口な奏ちゃんの声は既に彼の耳には届いていない。
「あ! 2人とも、大変! 大安今日だよ! 今日逃したら、次土曜日だよ! 6日も開いたら何が起こるかわかんないよー」
ダリアさんがカレンダーを見ながら叫んだ。
え? 今日?
「今日!?」
あまねくんと顔を見合せ、叫ぶ。
「日曜日だけどさ、時間外窓口開いてるから、それ書き終わったら出してきちゃいなよ」
平然と言うダリアさん。まるで住民票の提出でもするかのように軽い口調で。
さすがに今日に今日って……。
「それいいね! 行こう、まどかさん!」
意外とノリノリな……いや、全然意外じゃない。あまねくんなら早急に出したいと言うに決まっている。
こんなに一生懸命、すぐにでも私と結婚したいと言ってくれるんだから、受け入れなきゃバチが当たりそうだ。
「わかった。じゃあ、待ってて。証人どうする?」
「うーん、そうだな……こっち側は誰でもいいけど、まどかさん誰がいい?」
「え? えーと……奏ちゃんかな?」
「え!? 私!?」
知らん顔でテレビを見ていた彼女は、自分の名前が出た途端、目を見開いて勢いよくこちらを向いた。
「だって……ねぇ?」
あまねくんの顔を見ながらそう言えば、「そうだね。奏のお許しなしには結婚できなかったわけだしね」と言って笑った。
「ちょっと……言いたいことはわかるけど、あんまりじゃない?」
「でも、やっぱり奏ちゃんが祝福してくれたら嬉しいから。書いてくれる?」
「……いいけど」
彼女は、少し顔を赤くしながら頷いた。
「よかった」
「じゃあ、もう1人は……まどかさんのお父さんかな?」
「だね」
考えていることは同じだったようで、顔を見合せて笑う。
私が全てを書き終えたところで奏ちゃんにも記入してもらった。私達以上に緊張している奏ちゃんが住所を間違えるものだから、3枚書き直してようやく証人1人が埋まった。
休日で家にいるであろう父に電話をかけ、事の運びを説明する。
「急だな!」
なんて驚いていたけれど、快諾してくれた。証人が自分であることと、酔い潰れるまであまねくんがお酒に付き合ってくれたことが嬉しかったらしい。
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