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命乞い【9】
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その一方で、澪の超越した体力を何とか戦力にできないかと身を焦がしていた男がいた。
武力に長けた家臣であった。澪の可能性を潰したくない男は、伽代に提案する。
「澪様は、普通の女児とは違います。彼女には何か神秘的な力があると私には思えるのです。あのまま普通の女児として育てるのはとてももったいない。
このご時世、女兵士も少しずつ増えてきております。黙って男に守られている、そんな女性の生活も変わってきているのです。
もしも澪様が右京様より優れた武力と知能をお持ちなら、時期統主は澪様となる可能性もございます」
「まさか……。統主は今まで全て男よ。澪が統主になんて」
「お忘れですか? 統主として認められるのは、八割の民が賛同してからです。女性の安泰を願う澪様が統主に名乗りをあげれば、女性の票数は稼げましょう」
「しかし……女性ばかりの票を集めても……」
「何をおっしゃいますか。女性がいなければ、子は授かりません。郷の子孫繁栄を望むのであれば、女性の意見にだって耳を傾けなければなりません」
こうして唆された伽代は、翌日から澪に修行をさせた。あの男が主に刀や武道を教え、馬の乗り方や弓矢の技術を叩き込んだ。
もともと優れた身体能力を秘めていた澪は、驚く程にそれらを吸収していく。
男は、教えがいのある澪の力の虜となっていった。
もっと強く、もっと軽やかに。体格差のある男とも戦えるように。そう男が意気込む中で、澪は少しずつ毒を盛られていく。
時に体調を崩し、数日で回復する。その度に澪と伽代のもとに通う憲明。伽代は憲明の前で、しおらしくか弱い母を演じた。
しかし、そうした時間も長くは続かなかった。澪が十二歳になった頃、だんだんと毒の効果がなくなってきたのだった。
様々な毒を用意し試したが、少しずつ毒を盛ったことで既に澪の体には耐性ができてしまっていたのだ。
通常の人間の致死量では死なない程度にまでなっていた。いくら待てど体調を崩すことのない澪に、伽代は焦っていた。
その焦りが憤りに変わり、伽代は憲明から渡されていた短刀で、澪の背中を斬りつけた。
まさか実母から斬られることがあろうなどと思ってもいない澪は、完全に油断し、右肩から左腰にかけて大きな深い傷を負った。
伽代は生まれてこの方、人を斬ったことなどない。更に刀の使い方も知らない伽代は、力の加減もわからず、澪を斬ったのだった。
止めどなく血は溢れ、動揺した伽代は血相を変えてその場から逃げ出した。幸い、稽古に顔を出さない澪を呼びにきた男が、その姿を見つけ一命をとりとめた。
しかし、その後の事は毒の時と同様である。
武力に長けた家臣であった。澪の可能性を潰したくない男は、伽代に提案する。
「澪様は、普通の女児とは違います。彼女には何か神秘的な力があると私には思えるのです。あのまま普通の女児として育てるのはとてももったいない。
このご時世、女兵士も少しずつ増えてきております。黙って男に守られている、そんな女性の生活も変わってきているのです。
もしも澪様が右京様より優れた武力と知能をお持ちなら、時期統主は澪様となる可能性もございます」
「まさか……。統主は今まで全て男よ。澪が統主になんて」
「お忘れですか? 統主として認められるのは、八割の民が賛同してからです。女性の安泰を願う澪様が統主に名乗りをあげれば、女性の票数は稼げましょう」
「しかし……女性ばかりの票を集めても……」
「何をおっしゃいますか。女性がいなければ、子は授かりません。郷の子孫繁栄を望むのであれば、女性の意見にだって耳を傾けなければなりません」
こうして唆された伽代は、翌日から澪に修行をさせた。あの男が主に刀や武道を教え、馬の乗り方や弓矢の技術を叩き込んだ。
もともと優れた身体能力を秘めていた澪は、驚く程にそれらを吸収していく。
男は、教えがいのある澪の力の虜となっていった。
もっと強く、もっと軽やかに。体格差のある男とも戦えるように。そう男が意気込む中で、澪は少しずつ毒を盛られていく。
時に体調を崩し、数日で回復する。その度に澪と伽代のもとに通う憲明。伽代は憲明の前で、しおらしくか弱い母を演じた。
しかし、そうした時間も長くは続かなかった。澪が十二歳になった頃、だんだんと毒の効果がなくなってきたのだった。
様々な毒を用意し試したが、少しずつ毒を盛ったことで既に澪の体には耐性ができてしまっていたのだ。
通常の人間の致死量では死なない程度にまでなっていた。いくら待てど体調を崩すことのない澪に、伽代は焦っていた。
その焦りが憤りに変わり、伽代は憲明から渡されていた短刀で、澪の背中を斬りつけた。
まさか実母から斬られることがあろうなどと思ってもいない澪は、完全に油断し、右肩から左腰にかけて大きな深い傷を負った。
伽代は生まれてこの方、人を斬ったことなどない。更に刀の使い方も知らない伽代は、力の加減もわからず、澪を斬ったのだった。
止めどなく血は溢れ、動揺した伽代は血相を変えてその場から逃げ出した。幸い、稽古に顔を出さない澪を呼びにきた男が、その姿を見つけ一命をとりとめた。
しかし、その後の事は毒の時と同様である。
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