【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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命乞い【11】

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 しかし、その後母の実家に戻った澪は、高熱を出し倒れた。村の流行り病にかかったのではないかと直ぐ様城に運ばれた。

 そこから三日間眠り続け、澪が回復した後、蒼を探しに城下に降りたが蒼の姿を見つけることはできなかった。
 それどころか、高熱のせいか毒のせいなのか蒼の顔が朧気で思い出せなかったのだ。
 それでも会ったら思い出せる。あの声を聞けばきっと思い出せる。声だけはちゃんと覚えているのだから。その記憶を頼りに探し続けた。

 しかし、澪はそのまま大人になった。もう一度蒼に会いたい。会って、約束を守れなかったことを謝りたかった。

 あれから十五年も経っている。蒼も妻を持ち、どこかで幸せに暮らしているかもしれない。そうは思うが、記憶の中の蒼はいつまでたっても愛しいままだった。

 彼に会うまでは死ねない。ちゃんと謝罪するまでは死ねない。会えないことが胸を焦がし、宗方家の騒動もあって、それ以来澪は恋もしたことなどなかった。
 ただ辛い時も、苦しい時も思い出すのは、得意のおむすびを褒めてくれた蒼のことだけ。顔は思い出せないのに、とても笑顔が綺麗だった気がした。



 そんな蒼を求め、祖父に助けを求め、当時十二歳だった澪は城を抜け出して命からがら城下へ逃げてきた。

 曖昧な記憶を辿り、ようやく目的の村を見つけた。
 久しぶりに会った澪の姿に祖父、九重は言葉を失った。
 血色の悪い肌に艶のない髪。右腕や背中は切り刻まれてぼろ雑巾のようだった。
 もっと驚いたのは、無理に修行をさせたせいで大きくなりすぎた筋肉。発達しすぎた肉体は、限界をとうに超え、女性らしさを失っていた。

「澪……どうしてこんな姿に……」

 九重は、澪を抱き締めながら声を上げて泣いた。彼の記憶の中に残る澪は、愛らしく美しい少女だった。それがどうだ。とても十二歳の少女とは思えない体つき。まるで化け物のようだと九重は思った。

 九重はまず、澪の体を十分休ませた。
 隣の褥で変わり果てた伽代のことを聞いた。実の娘が孫にこんな惨い仕打ちをしていた。そう考えるだけで胸が張り裂けそうだった。

 十分な食事と睡眠を取った澪。城では、眠っている間に襲われることも多く、とても悠長に眠ってなどいられなかった。

 すっかり回復し、笑顔もみられるようになった頃、突然稽古をしなくなった澪の体は、少しずつ筋肉量が低下していった。

「澪。ずっとここにいなさいと言ってあげたい。けれど、お前が宗方の姫であることは変えられない事実だ。だから、お前は強くならなきゃいけない。自分の身は自分で守らなきゃならない」

 ある日九重は静かにそう言った。

「まだ強くならなきゃだめ?」

「だめだよ。大切なものを守るために」

「大切なもの?」

「澪にとって大切なものって何だろう?」

「お祖父様じいさまと、優しい村の人と……蒼くんかな?」

「蒼くん?」

 九重は驚き目を見開いたが、すぐに微笑んだ。澪にも慕うことのできる男がいてよかった。普通の少女のように恋を知ることができたことに安堵したのだ。
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