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いざ、潤銘郷へ【6】
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歩澄は刀を鞘に収め、瑛梓に渡した刀も同じように鞘に収めた。
「それで真剣の経験がないとな……。お前の命は私のものだ。お前の妹と弟もな」
瑛梓は何も答えられなかった。せっかく父親から二人を守ったのに、自分が至らないばかりにまた二人を地獄に突き落とすことになってしまったと自らを責めた。
しかし歩澄は、膝をつく瑛梓の前にしゃがみ「瑛梓と言ったな。お前を本日から神室の人間として迎え入れる」と静かに言った。
「え……?」
「お前はいずれもっと強くなる。私のためにその力を使え。お前に拒否する権利はない、わかるな?」
瑛梓は、歩澄の言葉を理解するまでに時間を要した。
(神室の人間になる? 神室歩澄のために力を使う?)
「お前の弟は同じように木刀なら扱えるのか?」
「……はい」
「なら、弟を連れてこい。妹には家をあてがう。侍女もな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。だがお前は、私のために死ね。明日より修行に励み、刀を扱えるようになっておけ。お前の弟も同様だ」
「……はい」
逆らうことなど不可能だった。梓乃だけでも助かった。それだけでなく、家も使用人もつく。全うな生活をさせてやれる。それだけが救いだった。
一度は絶望したものの、そこに微かな希望の光が見えた気がした。
「死にたくなくば強くなれ。そして此度のように大事な者は自分で守れ。……お前の父親は下衆だ。兄として守り抜いた者の価値を知れ。誇り高きお前に褒美をやろう。
頭が弱そうだからわかりやすく説明してやる。神室歩澄の重臣としてその身を私に捧げろ」
「っ……」
そこまで言われて瑛梓はようやく気付く。歩澄が最初から瑛梓を罰するつもりなどなかったこと。家も金もなく、この高貴な潤銘郷で生きていくことなど不可能な瑛梓達妹弟をまとめて神室家に養子縁組すること。
その口実としてわざと手合わせをさせ、自らの重臣として傍に置くこと。
単なる家来ではなく、統主の重臣となることは、良家の者とて大出世である。その座に何も持たない瑛梓を就かせると歩澄は言ったのだ。
言葉は冷たく、誤解を招くが全ては瑛梓達三人を助けるための茶番であった。
歩澄はふっと微笑み、先程瑛梓が握った刀を彼の膝隣に置いた。
「その刀を振れる奴はそういない。名刀だ、くれてやる」
そう言い残して、歩澄は立ち上がり背を向けた。
「ありがたき幸せ! このご恩、一生忘れません! この命が尽きるまで、歩澄様にお仕えいた致します!」
瑛梓は、止めどなく溢れる涙を拭うことなく額を地面に擦らせて頭を下げた。
「当然だ。命令だからな」
そう言った歩澄の声は満足そうだった。
その日より瑛梓と梓月は城に住み込み、稽古を行った。命令などされぬとも、朝から晩まで時の許す限り修行に打ち込んだのだった。
梓月は十一歳だったが、歩澄が兄と自分達を救ったことを理解し、また今度は自分が兄と姉を守れる程強くなりたいと願った。
成長盛りの梓月は、みるみる内に腕を磨き、元々歩澄の直下にいた家臣よりも強くなっていった。
梓月が十五歳になった時、兄の瑛梓と同じように重臣として役職を得た。本来であれば兄はどんな罪で裁かれるはずだったのか。そんな僅かな興味から、政を学んだ。
瑛梓も、庶民の出で大した教養もなかった自分を恥じ、歩澄を手本にするかのように振る舞いや学問を学んだ。
「それで真剣の経験がないとな……。お前の命は私のものだ。お前の妹と弟もな」
瑛梓は何も答えられなかった。せっかく父親から二人を守ったのに、自分が至らないばかりにまた二人を地獄に突き落とすことになってしまったと自らを責めた。
しかし歩澄は、膝をつく瑛梓の前にしゃがみ「瑛梓と言ったな。お前を本日から神室の人間として迎え入れる」と静かに言った。
「え……?」
「お前はいずれもっと強くなる。私のためにその力を使え。お前に拒否する権利はない、わかるな?」
瑛梓は、歩澄の言葉を理解するまでに時間を要した。
(神室の人間になる? 神室歩澄のために力を使う?)
「お前の弟は同じように木刀なら扱えるのか?」
「……はい」
「なら、弟を連れてこい。妹には家をあてがう。侍女もな」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。だがお前は、私のために死ね。明日より修行に励み、刀を扱えるようになっておけ。お前の弟も同様だ」
「……はい」
逆らうことなど不可能だった。梓乃だけでも助かった。それだけでなく、家も使用人もつく。全うな生活をさせてやれる。それだけが救いだった。
一度は絶望したものの、そこに微かな希望の光が見えた気がした。
「死にたくなくば強くなれ。そして此度のように大事な者は自分で守れ。……お前の父親は下衆だ。兄として守り抜いた者の価値を知れ。誇り高きお前に褒美をやろう。
頭が弱そうだからわかりやすく説明してやる。神室歩澄の重臣としてその身を私に捧げろ」
「っ……」
そこまで言われて瑛梓はようやく気付く。歩澄が最初から瑛梓を罰するつもりなどなかったこと。家も金もなく、この高貴な潤銘郷で生きていくことなど不可能な瑛梓達妹弟をまとめて神室家に養子縁組すること。
その口実としてわざと手合わせをさせ、自らの重臣として傍に置くこと。
単なる家来ではなく、統主の重臣となることは、良家の者とて大出世である。その座に何も持たない瑛梓を就かせると歩澄は言ったのだ。
言葉は冷たく、誤解を招くが全ては瑛梓達三人を助けるための茶番であった。
歩澄はふっと微笑み、先程瑛梓が握った刀を彼の膝隣に置いた。
「その刀を振れる奴はそういない。名刀だ、くれてやる」
そう言い残して、歩澄は立ち上がり背を向けた。
「ありがたき幸せ! このご恩、一生忘れません! この命が尽きるまで、歩澄様にお仕えいた致します!」
瑛梓は、止めどなく溢れる涙を拭うことなく額を地面に擦らせて頭を下げた。
「当然だ。命令だからな」
そう言った歩澄の声は満足そうだった。
その日より瑛梓と梓月は城に住み込み、稽古を行った。命令などされぬとも、朝から晩まで時の許す限り修行に打ち込んだのだった。
梓月は十一歳だったが、歩澄が兄と自分達を救ったことを理解し、また今度は自分が兄と姉を守れる程強くなりたいと願った。
成長盛りの梓月は、みるみる内に腕を磨き、元々歩澄の直下にいた家臣よりも強くなっていった。
梓月が十五歳になった時、兄の瑛梓と同じように重臣として役職を得た。本来であれば兄はどんな罪で裁かれるはずだったのか。そんな僅かな興味から、政を学んだ。
瑛梓も、庶民の出で大した教養もなかった自分を恥じ、歩澄を手本にするかのように振る舞いや学問を学んだ。
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