【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

文字の大きさ
21 / 275

いざ、潤銘郷へ【5】

しおりを挟む
 父親を殺した罪で、当時十六歳だった瑛梓は、既に統主の座についていた十七歳の歩澄の前へ座らされた。
 瑛梓は、梓乃と梓月を助けるためであれば、どんな罰でも受けるつもりだった。良家の生まれでもなく、都では気味悪がられていた己のことだ。例え、死罪であっても甘んじて受け入れようと覚悟は出来ていた。

 当時から冷酷非道であると言われていた歩澄。両親は、栄泰郷と洸烈郷での闘争に巻き込まれて命を落としたのだが、歩澄が統主にのし上がりたいが故に暗殺したのではないかなどという噂も立っていた。
 その噂だけが一人歩きをしていたため、初めて歩澄を目にした時、瑛梓は自分と似た異国の雰囲気を纏った姿に驚かされた。

 冷酷な青い眼をした歩澄は、事の経緯を詳しく教えるよう命令した。瑛梓は、父親の行為と幼い頃からの扱いを赤裸々に語った。自分のことはどうでもいい。しかし、家も収入源も失った不憫な妹と弟だけはどうか救ってほしい。そんな願いを込めて。

「お前、刀は扱えるのか?」

「……真剣を握ったのはあの時が初めてです。普段は木刀で稽古を」

 言葉の途中で、正座していた膝に刀が投げられた。ずっしりと重い刀だった。

「抜け」

「え?」

「聞こえなかったか? 抜け。妹と弟を助けたいのだろう? 守る気があるのなら、全力でこい。お前が負けたら、弟は死罪。妹は郭に売る」

「な!?」

(噂は本当だったか。罪人の俺だけでなく、梓乃や梓月にも酷い仕打ちをする気か。こんな統主の下で俺達は暮らしていたなんてな……)

 瑛梓はぐっと歯を食い縛り、歩澄を睨み付けた。どうせ殺されるくらいなら、せめて刺し違えてやる。そんな憎悪にも似た殺気を放ち、刀を抜いて歩澄に向かった。

 稽古は決して無駄などではない。梓乃と梓月を守れる程に努力はしてきたつもりだった。

 刀同士がぶつかる音がし、両者譲らず刀を交える。瑛梓の刀を受け、歩澄はぐっと刀を持つ手に力を込めた。
 再び何度か金属音が鳴り響く。
 ぎりぎりと刃同士がお互いに止め合う中、歩澄は、一瞬の隙をついて瑛梓の刀を弾いた。

 しっかりと握っていた筈の瑛梓の刀は、驚く程軽やかに飛んでいき、がしゃんと音を立てて地面に叩きつけられた。

 眉間に刀の刃先を向けられ、その青い眼が妖しく光る。

(負けた……。これで、梓乃も梓月も……)

 最悪な状況に体は震え、顔面蒼白の瑛梓は無意識に涙を溢した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...