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いざ、潤銘郷へ【15】

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 澪と五平の会話で現実に呼び戻されたのか、琥太郎はうっすらと目を開けた。二、三度瞬きをし、声のする方へ目を向けた。

「あ……」

「琥太郎! 気がついたか!?」

 琥太郎の変化に指差した澪の隣で、五平は身を乗り出して琥太郎に声をかけた。

「僕は……」

 ゆっくりと体を起こし、澪と五平を交互に見る。頭に乗っていた布が布団の上に落ち、澪はそれを拾って桶の中に入れた。  

「気が付いてよかった。ごめんね、痛くない?」

 澪はそう声をかけ、琥太郎の後頭部に手をやる。襟足をかき上げて見ると、少し赤くなっている。

「そんなところ殴りやがったのか!?」

 牙を向く五平に「小突いただけです」と再度言う澪。

「あの……僕はどうしたのでしょう」

 その声はまだ高く、顔も幼く子供のようだった。

(……可愛い)

 つぶらな瞳を向ける琥太郎に、澪は胸を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。

(何だ、この生物は……小動物か!?)

 おろおろとしながら、布団を口元まで持っていく琥太郎は、じっと上目遣いで澪を見つめる。

(可愛いな、この野郎!)

 心の中で叫び、抱き締めてしまいたい衝動を必死で押さえ込んだ。
 
「覚えてないのか? お前、この女に殴られたんだぞ?」

「……殴られた?」

 怯えたような目で澪を見る琥太郎。

(ごめん! 本当、ごめん!)

 心の中では平謝りだ。

「ちょっと馬を借りたくてね……ごめんね」

「そうですか……」

「そうですかって、お前! 殴られたんたぞ! もっと怒っていいところだぞ!?」

 吠える五平に琥太郎は、「いいですよ。弱い僕が悪いし……」と言って眉を下げた。

(この子、いい子だ。絶対、いい子だ)

 澪は、汚れを知らない琥太郎を見て確信した。それよりもこんなに可愛い子を軍勢として連れて行くなんてと主である梓月に苛立ちを覚える。

「何で戦に行ったの?」

「え?」

「今の君じゃ戦えないよ?」

 はっきりとそう言った澪に、五平は「おい!」と眉を寄せる。
 澪が見るに、琥太郎の戦闘力はかなり弱い。適度に筋肉はついているが、自分の身を守るのが精一杯で、とても主の命など守れそうもない。
 匠閃城の兵士達がいくら稽古を怠っているからといって、琥太郎にやられる程弱くはない。最悪、あの毒で殺されていてもおかしくはなかった。

「わかっています。……僕、弱いんです。毎日稽古はしてるけど、全然強くなれなくて。一緒に城に入った子達は、梓月様と一緒に政の調査にも連れてってもらえるけど、僕は足手まといになるからいつも五平さんについててもらって……」

 琥太郎はそう言って顔を伏せた。

「ちょっと腕を見せて」

 澪はそう言って、琥太郎の袖を捲った。綺麗につけられた筋肉ではあるが、鍛える場所が一定で、全体の均等がとれていない。

「これじゃあ、だめ。誰が稽古をつけてくれるの?」

「僕はまだ弱いから……」

 口ごもる琥太郎を見て、澪は察する。この城ではある程度の力のある者にしか師匠がいないのだ。
 力のない者はひたすら自主的に修行を積み、弟子入りを認めてもらえるまで腕を上げるしかない。琥太郎の言葉はそこまでに至らないと言っているも同然だった。 
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