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いざ、潤銘郷へ【14】

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「主の気持ちも家来の気持ちも理解などできません」

「……なに?」

「ただ、何を信じて誰についていくかはその方の自由。貴方は、瑛梓様に惹かれたからついていくのでしょう?」

「……ああ」

「ならばきっと、徳昂様に仕えている家来達も同じ気持ちです。ただ、その価値を決めるのも主。貴方達は幸せ者ですね、素敵な主と出会えて」

 そう言った澪に、五平は目を丸くする。ふっと微笑む澪の笑顔がとても優しく、そして何故か寂しそうに見えたからだ。
 澪に主はいなかったが、尊敬できる師匠がいた。どんなに会いたくても、どんなにあの方のために強くなりたいと願っても、もう二度と会うことは叶わない。

「ここで文句を言っていも何も解決しません。言いたい事があるのなら、まずは強くなりなさい。その徳昂様って奴を超える程にね」

「め、命令するなよ! 俺は瑛梓様の命令にしか従わないんだからな!」

「そんなことを言っているから弱いのですよ。貴方も、琥太郎も」

「な!?」

「刀を抜いていないのは、弱い証です。主の手を煩わせない程の力は培うべきです。きっと瑛梓様も梓月様も貴方達のような弱い家来が心配で自ら刀を抜く他ないのでしょうね」

「な、な、な……」

 図星をつかれ、五平は狼狽して言葉を失った。


ーー

 部屋の前の廊下に座り込み、全ての会話を聞いていた瑛梓は口元を押さえて笑いを堪えていた。
 一旦自室に戻ったものの、澪が五平と琥太郎に危害を加えかねないと、刀を手入れするための道具を持って琥太郎の部屋へと向かった。
 部屋を開けようとしたが、既に中から話し声が聞こえたため、静かに腰を下ろし、その場で刀の手入れを始めたのだった。
 大きな五平の声に、冷静で控えめな澪の声。二人のやりとりには、自分と梓月、徳昂が登場していた。

 五平が自分を慕っていることなど、普段から痛いほど伝わってきている。そして、梓月の家来である琥太郎を弟のように大切にしていることも。
 そんな五平が嬉しそうに瑛梓と梓月の話をする。聞いていて心地の良いものだった。

 そしてそれを静かに聞く澪。徳昂を気に入らないという五平に強くなれと言った澪。他郷の姫に小言を言われているようではまだまだだなと瑛梓は再び肩を震わせるのだった。
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