【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

文字の大きさ
29 / 275

いざ、潤銘郷へ【13】

しおりを挟む
「ご統主様だけじゃない。瑛梓様だって、梓月様だって……」

「瑛梓様……? あの、髪の長い方?」

「そうだ。瑛梓様は素晴らしいお方だ! 慈悲深くて、穏やかで、俺達にだって優しくしてくれる。それでいて強くて、美しくて……」

 興奮して早口になった五平はふと我に返り、はっと口を噤む。みるみる内に五平の顔面は紅潮し、顔を伏せ膝とにらめっこをしている。
 そんな五平の様子を見て、澪はくすくすと笑う。

「おい、笑うな!」

「ふふ。大好きなんですね、その瑛梓様のこと」

「馬鹿野郎……大好きとか、そんなんじゃ……」

 五平は、もごもごと恥ずかしそうに口ごもった。
 澪にはよくわかる。澪とて勧玄の事が大好きだったのだから。尊敬できる主と共に戦えるなんて、幸せ者めと澪は羨ましくなる。

「では、梓月様というのは?」

「梓月様は琥太郎の親方様だ」

「ふーん……。強いのですか?」

(瑛梓様って人の家来じゃなかったのか……)

「当たり前だろ! 梓月様は凄いんだぞ! 琥太郎と同じ年の頃には歩澄様の重臣に抜擢されたんだ!」

(この人たちの話になるとむきになる……)

 澪は、笑いを堪え「では、その方に謝らなければなりませんね。琥太郎を気絶させたりして」と言った。

「……やっぱり何かしたんじゃねぇか! 殴ったのか!? おい、殴ったのか!?」

 声を荒げて目をひん剥き、澪に噛みつく。
 澪は胸の前で両手を掲げ「大袈裟な。少し小突いただけですよ」と言った。

「この野郎! 瑛梓様に言いつけてやる!」

「知ってますよ、あの方は」

「え……?」

 澪の言葉に急に大人しくなる五平。腰を浮かせた体を、元の位置に戻した。

「気絶させたことも、馬を奪ったことも理解しています。瑛梓様も、ご統主様も」

「……そうか」

 五平は、あの方々が気付かない筈がないかとふと冷静になったのだ。

「ですから、謝ると言っているではありませんか。それで、その梓月様というのはどこへ?」

「今、匠閃郷の政について調べている」

 五平の言葉を聞いて、澪は匠閃城を後にする時、澪に微笑みかけた男の姿を思い出した。

「ああ……あの人。瑛梓様って方と似ていますね」

「……見たのか? 兄弟だからな」

「兄弟? 兄弟で統主の重臣に?」

「そうだ。あの方々は偉大だ。梓月様だって、瑛梓様の家来の俺達に声をかけてくださる。俺達は恵まれている。徳昂様のところなんか……」

 そこまで言って、五平はまたはっとしたように口を噤んだ。

「……よく口を滑らせますね」

「うるさい!」

 袖で口元を覆う五平に、澪は呆れて息を漏らす。

「徳昂様とは私が戦った方ですよね?」

「……そうだ」

「大体想像はつきます。あの方の家来は酷い扱いを受けているのでしょう?」

「……何で」

「あの自分よがりな刀の振り方、往生際の悪さ。短気で自己中心的な性格がよく出ている戦い方です。気品が全くない」

「そこまで言わなくても……」

「だからきっと、自分の家来も大切にはしないのでしょうね」

「……家来は主を選べるから、徳昂様の家来はそういう男らしい徳昂様に憧れてついていってるんだ」

「男らしい?」

「ああ。徳昂様の家来は……その、頭にくるが瑛梓様や梓月様のことを女みたいで男らしさがないだとか、生ぬるいことばかり言っていて格好悪いだとか言うやつが多い」

(主が主なら、家来も家来か……)

 澪は、容易に想像のつくその情景に何度か頷く。

「瑛梓様は、気にするなって、言いたい奴には言わせておけって言うけど……俺は納得できない。あいつらが自ら望んで徳昂様に仕えてるのはわかる。
 でも、徳昂様はそれを当然だと思ってるし、あいつらも不当な扱いをされていても仕方がないと諦めている。そんなの、間違ってる!」

「間違ってなどいませんよ」

「……なんだと?」

「主とはそういうものです。家来は主に従い、それについていく。納得ができないのであれば仕える相手を変えるべき」

「……ふん。さすがは姫様だな。主の気持ちはわかっても家来の気持ちなんてわからないのだろうな」

 五平は、面白くなさそうに奥歯を噛み締めた。澪は、そんな五平を横目に表情を変えない。  
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...