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いざ、潤銘郷へ【12】
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「瑛梓、どう思う?」
澪の背中に目を向けながら、言葉は瑛梓に向ける。
「私にもあの者の生態がわかりません。しかし、他の宗方の一族とは違うようです」
「違うとは?」
「どうやら、あの者はあの城では暮らしておらず、余所の村にいたようです」
「村?」
「はい。宗方を殺したことについて、私達を恨んでなどいないと言っておりました。何か宗方とあの姫には確執があるのやもしれません」
「……どちらにせよ、まだ信用はできん。見張っておけ」
「承知致しました」
瑛梓は頭を下げ、その場から離れる。己の家来達に怪我がないか見て回り、刀の手入れを急ぐよう声をかけた。
また、自らも刀の手入れをするため、自室へと急いだ。
ーー
五平は、澪を部屋に案内すると褥の上に琥太郎を寝かせるよう指示した。
言われた通りに澪はそっと琥太郎を下ろし、上から布団をかける。
「桶と水はありますか?」
「……待っていろ」
五平はその場から離れることを躊躇した。しかし、澪からは殺気を感じなかったため、一旦部屋を後にした。
琥太郎は、静かに眠っていた。あどけない寝顔を見て、澪は笑みを溢す。
「よかった。じきに目覚めるね」
そう言って琥太郎の前髪を上へ撫でる。さらさらと髪が指を伝う。黒髪の一本一本は細く、柔らかい。
猫みたいだと澪は思った。
(右京と同じくらいかな……)
琥太郎の姿を見て、右京の亡骸を思い出す。右京とは、殆ど接したことがない。伽代を警戒する琴が、右京を澪からも遠ざけていたからだ。
伽代は、稽古をしている右京の元へ修行と口実をつけて、伽代付きの家臣を送った。まだ力のない右京を一方的に叩きつけ、何度も怪我を負わせたのだ。
時期統主に無礼だと琴が喚けば、この程度の攻撃をかわせないなど、時期統主には相応しくないと右京を馬鹿にした。
こういった対立が続き、右京は正しい稽古も学べなかった。
澪も姉として弟という存在には興味があった。できれば共に稽古をし、笑い合いながら成長できたらよかった。
叶わなかった姉弟としての関係を思いながらも、琥太郎を見ていると少しだけ心が和んだ。
その内に五平が戻り、受け取った布を水で絞って額に乗せた。
「なぜ、琥太郎を襲った?」
五平はそう尋ねながら、澪の隣に腰を下ろした。
「最後にいたから。そして、弱そうだったから」
「なっ……」
あっさりと白状した澪に、体をのけ反らせ顔をしかめる五平。
「貴方とこの子の刀は無事なのですか? 毒がついているのなら、早く取り除かないと大変なことになりますよ」
澪は、五平の態度を気にする素振りなど見せずにそう言う。
「俺達は大丈夫だ……。刀も抜いていない……」
「そうですか。貴方方の統主は強いですからね」
澪にはわかっていた。神室歩澄という男があんなにも中性的で、線の細い体つきをしていてもとてつもない力を秘めていることを。
刀に飛び乗った澪の体は、本来の体重よりも重く力が加わる。それでいて平然とあの腕で支えることのできる腕力。
そして、澪と徳昂の戦いを見ても眉ひとつ動かさない冷静さ。
あの者は強い。もしかしたら、私よりも……そう危惧する程に、神室歩澄の力を感じていた。
澪の背中に目を向けながら、言葉は瑛梓に向ける。
「私にもあの者の生態がわかりません。しかし、他の宗方の一族とは違うようです」
「違うとは?」
「どうやら、あの者はあの城では暮らしておらず、余所の村にいたようです」
「村?」
「はい。宗方を殺したことについて、私達を恨んでなどいないと言っておりました。何か宗方とあの姫には確執があるのやもしれません」
「……どちらにせよ、まだ信用はできん。見張っておけ」
「承知致しました」
瑛梓は頭を下げ、その場から離れる。己の家来達に怪我がないか見て回り、刀の手入れを急ぐよう声をかけた。
また、自らも刀の手入れをするため、自室へと急いだ。
ーー
五平は、澪を部屋に案内すると褥の上に琥太郎を寝かせるよう指示した。
言われた通りに澪はそっと琥太郎を下ろし、上から布団をかける。
「桶と水はありますか?」
「……待っていろ」
五平はその場から離れることを躊躇した。しかし、澪からは殺気を感じなかったため、一旦部屋を後にした。
琥太郎は、静かに眠っていた。あどけない寝顔を見て、澪は笑みを溢す。
「よかった。じきに目覚めるね」
そう言って琥太郎の前髪を上へ撫でる。さらさらと髪が指を伝う。黒髪の一本一本は細く、柔らかい。
猫みたいだと澪は思った。
(右京と同じくらいかな……)
琥太郎の姿を見て、右京の亡骸を思い出す。右京とは、殆ど接したことがない。伽代を警戒する琴が、右京を澪からも遠ざけていたからだ。
伽代は、稽古をしている右京の元へ修行と口実をつけて、伽代付きの家臣を送った。まだ力のない右京を一方的に叩きつけ、何度も怪我を負わせたのだ。
時期統主に無礼だと琴が喚けば、この程度の攻撃をかわせないなど、時期統主には相応しくないと右京を馬鹿にした。
こういった対立が続き、右京は正しい稽古も学べなかった。
澪も姉として弟という存在には興味があった。できれば共に稽古をし、笑い合いながら成長できたらよかった。
叶わなかった姉弟としての関係を思いながらも、琥太郎を見ていると少しだけ心が和んだ。
その内に五平が戻り、受け取った布を水で絞って額に乗せた。
「なぜ、琥太郎を襲った?」
五平はそう尋ねながら、澪の隣に腰を下ろした。
「最後にいたから。そして、弱そうだったから」
「なっ……」
あっさりと白状した澪に、体をのけ反らせ顔をしかめる五平。
「貴方とこの子の刀は無事なのですか? 毒がついているのなら、早く取り除かないと大変なことになりますよ」
澪は、五平の態度を気にする素振りなど見せずにそう言う。
「俺達は大丈夫だ……。刀も抜いていない……」
「そうですか。貴方方の統主は強いですからね」
澪にはわかっていた。神室歩澄という男があんなにも中性的で、線の細い体つきをしていてもとてつもない力を秘めていることを。
刀に飛び乗った澪の体は、本来の体重よりも重く力が加わる。それでいて平然とあの腕で支えることのできる腕力。
そして、澪と徳昂の戦いを見ても眉ひとつ動かさない冷静さ。
あの者は強い。もしかしたら、私よりも……そう危惧する程に、神室歩澄の力を感じていた。
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